『ザ・クラウン(The Crown)』  Peter Morgan監督 君主制の中身の比較、歴史を考えると類似性に驚く

ソフトシェル ザ・クラウン シーズン1 BOX [DVD]


客観評価:★★★★★5つマスターピース
(僕的主観:★★★★★5つマスターピース

凄い。素晴らしすぎる。自分の中で断片的だった近代英国史、特に、現代史(1945年以降)が急速につながってきて、驚く。そういった歴史の「点と点がつながる」接続感覚だけでなく、物語としても、とんでもなく面白い。傑作だ。さすが、としか唸りようがない。ほんの数日で、シーズン1すべてを一気に見てしまった。続きを見るのが楽しみすぎる。

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自分の気になった点のメモメモ。


1)1945年以降のイギリスの歴史が急速につながっていくこと、いまにつながらダイアナ妃の話とか断片で知っていたことが背景も含めて、そういうことだったのか!とつながっていく感覚が凄い。これ、凄い教科書みたいな、素晴らしいドラマ。そもそも、おもしろいし。若くして王座に就いたエリザベス2世(リリベッド)の視点を軸に描くので、単純な成長物語にも見えるし、その中のでの彼女の人間としての、ロイヤルファミリーの人間関係の葛藤を中心に描かれるので、とても入りやすい。実際は、背景に大きな歴史の流れがあるので、背景知識があればあるほど面白いとは思うが、そんなの抜きに文句なしに面白い。物凄く保守的な時代に、家長として、元首として、職業人として自立を要求された「女性」の葛藤の物語と「だけ」考えても、成立しているので、めちゃ面白い。つまりはマクロではなく、ミクロの視点のみで描けている。

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2)それと、立憲君主制は、日本の皇室と凄く似ているイシューを持つのがこれでもかと感じた。第四話の"神の御業(Act of God)は、まさに立憲君主制において、君主が政府に対してどこまで言うのか、どういう関係になっているのかの、まさにまさにという話。昭和天皇の問題になった話と、同じ構造。こんなに同じなんだ!と驚いた。第7話の "知識は力なり(Scientia Potentia Est)も、そうなんだけれども、政府と君主という二つの権力の「関係性」。バランスオブパワーを、どのようの具体的に達成するか、という話なんですよね。エリザベス2世も、老練なチャーチルやソールズベリーに、いいようにあしらわれて、自分の影響力行使に、凄い苦労している。実際に、スモッグのためロンドンが非常事態に突入した時に(戦時と同じように考えればいい)、そのままでいいのか?それは、神から与えられた責任(国民へ奉仕するわけではない)に背くのではないかと葛藤するところは、こんなに同じなんだ、と驚いた。縦軸と横軸ですが、類似の他の国はどうなんだ、ということを詳しく知らないと、本当に何も見ていない井の中の蛙になるんだ、とめちゃくちゃ思いました。それと、チャーチルが極端な例でしたが、保守的な老人の、権力に固執する「老害」のこれでもかという、やばさに、どうにもならなさに、、、どこも同じなんだ、としみじみしました。最近下記のツイートのようなことを、とみにマクロでもミクロでも感じていたので、、、、。もちろん、歴史が古い国だからこそ、こういう老害問題が激しく出るというのもあるんだろうと思う。古いことやお年寄りが、伝統や保守の名目で、リスペクトされたり求心力を持ちやすいからだろう。

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3)ロイヤルファミリーの問題は、個人の中に「君主」という国家の代表と、「その人個人」の二つの相貌があって、それが激しい葛藤を起こす。抽象的に言えば、ロイヤルファイミリーに人権はないって話。日本の皇室についても後継者問題、男系天皇問題は、即、人権問題に結びつく。国民ではないため、人権がめちゃくちゃ制限されている生活をしていることをどう考えるのか、という問題。皇室の問題しか考えてなかったので、これが常に君主制にはついてまわる問題だというのに驚いた。イギリスの場合は女性の王位継承が認められているので、日本とは形は違うが、あれほど開かれた、個人が認められているように見え王室でも、これほどの強い制限がのしかかって、重荷を背負って生活しているのか、と驚いた。『英国王のスピーチ』という傑作の映画があるのですが、これは、エリザベス2世のお父さんのジョージ6世(George VI)のお話なんですが、この時の大きなテーマは、本来の王は、兄のエドワード8世(Edward VIII)であって、彼が離婚歴のある平民のウォリス・シンプソンと結婚するために王位を退位していきなり王にならなければならなくなることでした。

英国王のスピーチ (吹替版)


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この話自体は、王冠をかけた恋として、知っていましたし、この映画でも何となくは知っていたのですが、このことが君主制の存続を危うくし、ロイヤルファミリーにイギリスに、凄まじい影響を与えていて、、、もちろん直接の家族に、激しい憎悪と不和をもたらしているというのは、全然わかっていませんでした。1952年にエリザベス2世は即位しますが、これ以降も、王室の義務と結婚(好きな人と結婚する)が、こんなに重くのしかかっているとは全然わかっていなかった。妹のアン王女の恋もそうだし、なによりも、王配のフィリップとの関係は、常にこの義務と自分自身の葛藤が主要なドラマになっている。

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とにかく、めちゃくちゃ面白いです。とりあえずこの年末は、シーズン2-3を見ないと。いまイギリスやアメリカの最前線が、女性の権利や自由について、凄まじくセンシティヴになっている、まさにドストライクの話で、いやー時代だなぁ、としみじみ思います。アメリア・イアハートのお話を同時に見たいところです。

アメリア 永遠の翼 (字幕版)

『心が叫びたがってるんだ。(The Anthem of the Heart)』 2015 長井龍雪監督 超平和バスターズ原作 抱えたリグレットとトラウマに向き合う時

心が叫びたがってるんだ。


客観評価:★★★★★5つ
(僕的主観:★★★★★5つ)

オルフェンズを見たのがきっかけで、超平和バスターズ長井龍雪岡田麿里田中将賀の3人によるアニメーション制作チーム)が、自分に中で個別認識というか、この人たちが見ているものは何なんだろう、なぜこれを描くのだろうかというのが、凄く盛り上がってきて、ずっと追わなきゃとこつこつ見ている。岡田麿里さんつながりで『さよならの朝に約束の花をかざろう』(2018)、篠原俊哉監督の『凪のあすから』(2013-14)とか見ていくうちに、全然認識なかったけれども、『あの花』(2011)も『『とらドラ!』(2008)、『DTエイトロン』(1998)とかとか、単体で気になっていて、うまく言葉にできないけど、ずっと心に残っている作品はめちゃ関係してて、おおこれはテーマで追わなきゃいけない!というか、とにかく見たい!と思って、いまこつこつ見ています。


心が叫びたがってるんだ。』。昨日見たんですが、、、、途中で、というか開始数分で、あ、これ傑作だという環境が沸き上がってきて、最後までそれが消えませんでした。素晴らしい作品です。見ている最中も、1日たった今日も、こういういい話に出会えて、ありがとうという気持ちでいっぱいです。なんというか、キャラクターたちがとても等身大。


とにかくいいものを見た、よかった。それが言いたかった。



ちなみに、新作は見れていないのだが、新海誠監督がここで指摘してて、ああ、やっぱり何か大きなテーマというか文脈があるよなぁ、としみじみおもっている。ちなみに、まだ全然言葉になっていないんだけど(笑)。まぁ、好きなんです、ということ。


脚本構造は、『あの花』と同じ。幼少期に抱えたトラウマを、数年が過ぎ去った後、なにがしかの契機をきっかけに、主人公らティーンエイジャーがそのトラウマと向き合う。青春群像劇といってしまえばそうなのだが、この喪失と再生を喚起させる絶妙な脚本は、さすがの超平和バスターズ


『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』予告編


素晴らしい作品は、最初の数秒、数分の「入り口」で目が離せなくなる。この作品も、最初の幼少期の成瀬順が、おしゃべりで、明るく元気な女の子というのは、見ていればすぐにわかる。そして、ちょっとテンション高いその子が、山の上のお城(ラブホテル)を見てて、そこから見知らぬ女性と出てくる父親を見てしまう時点で、もうこの家庭がめちゃくちゃになって、この子が呪いをかけられることになることは、誰にでもわかるはずで、もうドキドキして目が離せなく引き込まれる。全編、この絶妙なシナリオの構成は、さすがとしか言いようがない。どれくらい売れたかはわからないが、この見事な引き込みを見ても、仮に宣伝が弱くても口コミで広がりそうな、素晴らしい出来だった。これは、、、売れたんじゃないかなぁ、と思う。どうなんだろう。


ちなみに雑感で取り留めないが、この順の父親はクズにもほどがあるな、、、とちょっと見終わった後も、驚きすぎる。でも、そんなものなんだろう。なにげなく発せされた言葉が「呪いのトラウマ」となり、子供を、人を縛っていくものなんだろうと思う。父親は去り際に、「全部お前のせいじゃないか」という無慈悲な言葉を投げつけるのですが、それによって、主人公の順は、自分のせいで家庭が壊れたと落ち埋められて、言葉がまともにしゃべれなくなります。これ、成瀬順という少女が、おしゃべりで、感情が駄々洩れになるような、元気いっぱいの女の子であるのが、体の動きや雰囲気から、声がしゃべれなくなってさえもわかるので、その子にかかっているトラウマの深さが、切実に迫ってきて、胸が痛かったです。


物語としては、言葉が出なくなっている彼女が、好きな人と、友達と出会うことで、言葉を取り戻していく物語になります。心が叫びたがっている彼女が普通の言葉はしゃべれないけれども、ミュージカルの歌ならば声が出せるというのは、うまいシナリオだなぁ、と唸りました。


映画『聲の形』DVD


ふとこの作品を思い出しました。どっちも傑作ですね。


なんというか、「声が出ない・気持ちが伝えられない、伝わらない」「まだティーンエイジャーであるにもかかわらず深いトラウマと喪失を抱えている」「抱えたリグレットを抱きしめて前に進んでいこうとする時にそばにいる友人がいる」みたいな、この感じ、、、、彼らの作品を見ていると、共通の何か、いまの時代の空気を凄く感じて、見ていて叫び出してしまいたくなるような、むずがゆさを感じました。

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『響け! ユーフォニアム』を見た時にも、なんでこんなに若いのに、既に「自分が許せないようなリグレット」をかけているんだろうと、不思議に思ったんですが、この抱えている後悔を、何とか次に超えていきたい、というのは、共通の青春テーマなんでしょう。この感覚は、『青空エール』とかでも感じたなぁ。

「響け! ユーフォニアム」Blu-ray BOX


まだ、正直、超平和バスターズについて語る言葉がまとまっていないので、「良かった」くらいしか言えないけれども、本当に素晴らしい物語でした。なので、書いておきたかった。


うーむ、最近凄いアニメとか映画を見れている。オルフェンズをがっつり見たおかげかもしれない。


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あらためて『とらドラ!』見直したくなった。見ないと。

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