重すぎる期待を正面から受け止めて、期待にこたえること・・・・帝王の器とは?

ゴッドハンド輝 39 (39) (少年マガジンコミックス)ゴッドハンド輝 39 (39) (少年マガジンコミックス)
山本 航暉

講談社 2008-02-15
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第315話 四宮の後継者

四宮魁。

大病院四宮グループの長男。

しかし、天才外科医として名高い蓮と慧という弟がいて、いつも比較されながら、自分のコンプレックスに打ちのめされて生きてきた男。


良くある話だ。


慧がT大医学部(東京大学の医学部だよね)にストレートで合格したというのを聞いて、動揺する若き日の魁。


ああ、、よくわかるよ、それ。

才能がない人間には、軽々とある種のバーを越えてくる人間には、嫉妬で恨みとルサンチマンが爆発する。



なんだこの系統の話か、と読み流していたら・・・・目が離せなくなった。


嫌いではないし、素晴らしい物語だと思うが、『ゴットハンド輝』は、とても面白いけれども、レベルも39巻になってすら全然下がらないけれども、、、、と思うほど高評価なのだが、逆にいつ安定しすぎてあまり本気で読んでいなかった。


だから筋も実は良くわからない。前後の関連も。


この流れからすると、魁をこの話で持ち上げて、あとで蓮や慧ら弟たちに負けるというドラマ類型だな、と思っていた。



けど・・・・・



なんなんだこの魁のかっこよさは!!!!



そのオーラに、僕はしびれた。




若き日の魁は、どんなに勉強しても、外科医として努力しても、弟たちにかなわない自分に苦悩する。



ああ、そういう才能の歴然たる差というのは、あるものだよ。



僕は、高校時代に仲良かった女の先輩がいて、その人が僕にいろいろな本を教えてくれた。図書館の本を全部読んでいるという、図書委員でいつも図書室の準備室にいる先輩だった。

天然で、いつもボケている人だったし、勉強しているそぶりすらなく(実際家で勉強はまったくしない人だった)、学校の授業だけで、すべてのテストは満点で、、、、というか、勉強を教えてもらって過去問を見せてくれたら、すべての答案が100点で、、、、衝撃を受けたのを覚えている。



塾もなにも行かず、本ばかり読んでいる、ぼんやりとした先輩だったが、あっさりと東大に首席でストレート合格をしてのけた。



僕はあの人を見て、本当に思った。



世の中には、努力では越えられないような、才能の差、というものはあるのだなーと。


はっきりいって、あれは、痛快だった。


あれくらい「物凄い差」を見せられると、もう、なんつーか、どうでもよくなっちゃって、笑うしかなかったもの。



でも、あの人がが親族であったり、どうしても避けられない競争相手だったら、苦しいだろうな…たぶん気が狂っちゃうくらい、とも思ったものです。



そして、魁の弟たちに向ける視線は、そういったものでしょう。天才外科医の蓮と慧への視線は。



けど、彼は、そこで気付く。


才能では勝負にならない弟たちに比較して、自分はただ単に「最初に生まれただけの長男にすぎない」・・・と。


けど、彼はそこで思う。


オレは長男なんだ・・・・


天才外科医であってもそれは、一プレイヤーにすぎない。


だから、その天才プレイヤーを「マネージメントしきる」経営者になろう、と。


魁は、アメリカに留学し、医療の経営学とMBAを取得し、外科医技術に磨きをかけ、病院に戻ってくる。


そう、彼は、長男。


彼は正当な後継者。



支配者・・・・すべての頂点に君臨する帝王としての器に磨きをかけようと、自分を鍛え抜くのです。



手術室の前で弟の天才外科医の蓮(この手術の第一助手)に



「期待しているよっ♪」


と、声をかけられる。



次の見開き一ページ。


若き日に才能の差に打ちのめされた天才の弟を前に、真正面から目を見開いて魁は不敵な笑みでこう答えます。


「おう応えてやろうその期待に」



どうです!この重み。


凄まじい歴史を誇る四宮家。


圧倒的な才能を示す弟。


そのすべての重圧と期待を受け、しかもそれにこたえる器がないと悩んだ青年が、努力の果てに見出したもの。


真正面から、その「恐るべ呪縛の込められた歴史のある期待」のすべてに、応えきること。


そう、すべての天才たちを、統治する真の帝王としての、その期待に応える方法を見出した獅子の不敵な笑みです。


ああ、これは、まさに帝王の器だ、と思いました。


この筋がどういう方向で向かう出あれ、家の重圧のとコンプレックスをすべてバネに、才能さえない中で、その期待を真正面から受け止めた、この男としての器。



帝王の器に、感動です。