今、この国が在るという物語

風雲児たち (4) (SPコミックス)風雲児たち (4) (SPコミックス)
みなもと 太郎

リイド社 2002-04-30
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

風雲児たちを読んでつくづく痛感するのは、どんな時代にも、何もないと言われているような時代にも、問題意識を持って行動していた人々がいて、それが連綿と繋がる事で、今へと続く道が拓かれているという事なんですよね。

社会構造というのは強固で個人の力では如何ともしがたい、何か天変地異でも起こらなければ世の中変わりっこないみたいに思いがちになってしまうんですが、そうじゃない。時代を、世界を作っていくのはいつだって個人の信念なんだと言うことを思い出させてくれます。

LD 2008/04/25 21:50
こんにちは。「江戸時代に土下座したくなった」LDですw
ちょっと、読み返してみたんですが…もう、本当にすぐにぽろぽろと涙をこぼしてしまいます。…ギャグマンガなのにw

GiGiさんも「連綿と繋がる」という言葉を使っていますが、この物語が本当に素晴らしいのは、単順に凄い個人を描いているわけではないところ。江戸時代にも驚異的に優秀な人材や、素晴らしい人格者が沢山いたんだ…という個別の列伝なのではなく、もっとずっと繋がって行く…「あの時、西洋列強による蹂躙から奇跡的に日本という国を守り抜いた物語」そして「今、この国が在るという物語」にずっとずっと繋がって行く物語だからなんですよね。
関ヶ原の戦いから始る物語で、前野良沢林子平なんて人物を描いているのに100年後の「あの時」、もし100年前に彼らがいなければどうなっていたか分からない物語…なんて言うと少し大げさかもしれませんがw(目が笑っていないよ?)

今、「幕末編」の連載はハリスとの交渉も一段落を終える所に来ていますが、実を言うと個人的には「風雲児たち」の最大のクライマックスは“ここ”だと思っています。“大政奉還”じゃない。戊辰戦争以降は描かないと、みなもと先生が言われているので(つまり日露戦争がない)列強との交渉が行われてゆく、ここが30巻以上続けた物語のクライマックスだと思います。

…そしてもう実は本当に本当のクライマックスは過ぎてしまったかもしれません。…あんまり書くとネタバレになってしまうんですが、60年前に林子平が書いた一冊の本が、ペリー来航の時、彼らの侵略行為から日本という国を確かに守るんですね。「あのシーン」は間違いなく「風雲児たち」という物語の総てが繋がった瞬間だったと思っています。(早く読もう!)


なんで。なんで、あの時“あの本”がそこにあったのか……あかん、思い出したらまたボロボロ泣けてきた…w


そんなワケで、出来るだけ多くの人に是非、読んでもらいたいマンガです。

ちょっと疲労で、書きたいことは山ほどあるのですが・・・・軽く書きます。上の、お二人の捉え方が・・・・「物事の捉え方」「物語の読み方」そのものが、僕のテーマで追い続けてきた「自分のルーツはどこにあるのか?」という疑問とストレートにぶつかるので、いやーなんかうれしいです。

LDさんの以下の二つが、まさにこの物語の各真のテーマである、と思います。

1)あの時、西洋列強による蹂躙から奇跡的に日本という国を守り抜いた物語


2)今、この国が在るという物語

これ、見事なまとめです。実は、なぜか、1巻の関ヶ原の戦いを読んだ時に違和感があったんです。というのは、この物語は、LDさんいわく「何もなかった江戸時代に様々な志を持った人々の話」として聞いていたのに、そのアンチテーゼで置かれた戦国時代から始まったことです。にもかかわらず、一切の違和感がなく感涙にむせいだのが、不思議で・・・・いま思い返すと、これは、もその時点から明確に1)の「あの時、西洋列強による蹂躙から奇跡的に日本という国を守り抜いた物語」というテーマが見事に凝縮していたからなんですね。


えっと、たとえば、石田光成についた薩摩は、世界史上類を見ない正面突破の逃走という劇的な敗走をし、そのあまりの凄さ、、、、ほとんどの兵士が討ち死にする薩摩隼人の強さを見て恐怖したが故に、家康は薩摩との外交交渉に臨むことになった・・・。

長州はお人好しの殿様を抱えてこのままでは国がつぶれると、、、命をかけて主君と裏切って、長州を生き伸びさせる参謀吉川広家がいたこらこそ、、、維新の豪傑を生む、長州藩が生き延びるんですね・・・・。それはほとんど偶然に近いようなものであったし、同時に、その偶然に近い中にも、命を賭して意味不明の気合いに賭けたような人物たちがいて、、、、、その彼らの無謀な意志力や志が、なんと100年後の西洋列強と対峙する日本を支えることになる・・・・なんとそれが、100年近く昔に既に始まっていた!ということが、あきらかに幕末、そして日露戦争までの西洋に対抗して近代化を遂げた日本という「物語」の原書でありスタート地点なんですね。


そう考えると、このギャグ風に書かれた物語が、最初の第一巻から、「あの時、西洋列強による蹂躙から奇跡的に日本という国を守り抜いた物語」という壮大な観点からすべてそのテーマにのっとって配置されているんですね。だからこそ、この漫画は、見事に最初の第一巻から、深いテーマ性を持って作られている。いや、本当に素晴らしい。



・・・・すげぇよ、みなもと太郎先生!!。



司馬遼太郎のその先へ

ちなみに、LDさんにはお話したと思っているんですが、司馬遼太郎・・・・ノモンハンでの生き残りで終生日本の狂った戦争を憎んでいた彼が小説家たろうとしたのは、あの素晴らしかった明治の日本人が、なぜ昭和にあれほど狂ったのか?ということを描きたくて・・・だったそうですが、彼は結局、「そこ」がえがけませんでした。それは、ある種の逃げであったと僕は思うのです。そして同じことをやり遂げているのが、フィリピンでボロボロの従軍をした学徒動員の山本七平さんです。山本七平さんは素晴らしいですよ!。

私の中の日本軍 (山本七平ライブラリー)私の中の日本軍 (山本七平ライブラリー)
山本 七平

文藝春秋 1997-04
売り上げランキング : 411160

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

けど、司馬遼太郎は、その代わり、日本人の誇りであるある種のわかりやすく、そして確かに奇跡的な物語である壮大な日本史、東洋史を描くのですが、それは、そのすべての根にあるのが僕は、『坂の上の雲』であると思っています。あそこに、偉大な明治期の日本人、、、、関ヶ原の戦い以来ある一つの到達点にある日本人の原型が、あそこで描かれることになります。


あれは、ナショナリズムとしても、西欧列強に対抗し得た我が誇りある祖先のことを考えるにしても、絶対に抜くことができない、素晴らしい物語です。この本を読まずして、日本人とは言えじ!(笑)とか思います。外国の方も、日本に関係があるならば読まないとダメだと思います。日本人の最良の部分が現れると、こういう連中がわさわさいるんだぜ?っていることを認識しないと、現代の矮小化して見える日本社会を見て勘違いしてしまう可能性があるとおもうのです。

坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎

文藝春秋 1999-01
売り上げランキング : 510

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ただね、、、、でもここの光の部分を誇れば誇るほど、もう一度司馬さんの原点に戻ってしまうのです。



その素晴らしかった偉大な日本人が、なぜその後大正昭和初期と暴走したのか?ということにちゃんと結論の出さないと、その延長線上である我々のナショナリティーが描けなくなるんでねすよ。そこがミッシングリング・・・・失われた空白地帯になるんです。


実はちょうどいま、

近代日本の右翼思想 (講談社選書メチエ)近代日本の右翼思想 (講談社選書メチエ)
片山 杜秀

講談社 2007-09-11
売り上げランキング : 30839

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

これをゆっくり読んでいて、ここの大正期、日露戦争以後のアノミーに陥った日本社会の問題点を追及しているのですが・・・これは、物凄いシンクロニシティでした、いや、、、このテーマとぴったり重なるんですよ。また読んだら、書きます。