『椿三十郎』森田芳光監督 役者の資質の違いを見るのに興味深い作品

椿三十郎 通常盤椿三十郎 通常盤
織田裕二, 豊川悦司, 松山ケンイチ, 鈴木杏

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評価:★★★☆星3つ半
(僕的主観:★★★☆星3つ半)


椿三十郎<普及版>椿三十郎<普及版>
三船敏郎;仲代達矢;加山雄三;団令子;志村喬;田中邦衛, 黒澤明

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評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★★星5つ)

僕は最近は映画を見る暇がないのですが、海外出張の喜びは、映画を見れることですねー。集中して。・・・ちなみに、僕は映画を見るにあたって、『ノラネコの呑んで観るシネマ』さんを凄く愛読していて、本当は同じ映画を片っ端から見たいのですが・・・なかなかその時間がなく。この人の批評や見方は本当に秀逸です。ぜひ継続して読んでみると、その凄さがよくわかりますよ。こういうふうに鑑賞できたら、映画もさらに面白かろう、といつも思います。



□リメイクというものを見る時に何をどう見る化の視点

オリジナルがあまりにも有名かつ隙の無い出来栄えなので、リメイク版を作るというのは、恐ろしくプレッシャーのかかる作業だったと思う。
同じ脚本を使う以上、どう作ろうがオリジナルと比較されるし、それを超えると言うことは殆ど不可能に近い。
結果的に森田芳光がどうしたかというと、可能な限り黒澤版の面白さをそのまま再現するという消極的な手法を選んだ。


椿三十郎
http://noraneko22.blog29.fc2.com/blog-entry-190.html
ノラネコの呑んで観るシネマ

リメイクをするという行為は、非常に神経を使うはずで、この時に制作サイドの考えたことが、かなり面白い類推ができますこのお茶の「見立て」にも似た会話や思考は、ファンの醍醐味だろう、と思います。僕はマンガやアニメも好きなので、こういったオリジナルなものが、どういった変遷を書くメディアごとにしていくか?という部分にはいつもとても興味があります。文化は伝播するもの、という四方田犬彦先生から教わった概念を、僕は今も胸にずっともっているので。メディアミックスに関する記事を時々書くのもこのことを少しづつ自分の心の中にためておいて、いろいろ考えたいためです。


さて、最近『隠し砦の三悪人』もリメイクされたりと、黒沢明監督の名作が次々とリメイクされました。ちなみに、黒沢明監督の映画は・・・・・なんというのですかねぇ、その完成度とスケールの大きさといったら、、、もうなんちゅーか言語に絶する凄さなんで、えっ?この作品をリメイクするの????えーそれは、、、不可能なんじゃねーの?って思っていました。もちろん、これらの作品は白黒ですので、テレビ放映されることも少ないことを考えれば、リメイクは価値があることだと思いますが、本質的に、なかなか難しいだろうなーと僕は思ってしまいます。

なんというか、今のハリウッド映画ですら及ばないような、スケールを感じさせるんです。『隠し砦の三悪人』なんか、いってみれば小国のお家騒動みたいなもんで、へみたいな規模ですよ、マクロ的にいえば。しかも、全編、貧乏たらしい汚い日本人が2名いて、それ以外にお姫様と侍がいるだけ、というような逃亡劇。

けど、、、この白黒の映画を初めて見た時の度肝を抜かれるようなスケール感に衝撃を受けました。雪姫役の上原美佐の素晴らしい気品のある姫様の演技、三船敏郎の信じられない程の迫力のある存在感のあるサムライ役・・・・なんつーか、スピルバーグやルーカスが本気で尊敬して、ほとんどリメイクみたいに『スターウォーズ』をつくっちゃってのがよくわかるくらいの凄さなのだ。観ていなかったら人生間違いなく損しているほどの凄さです。ちなみに、、、ルーカスのスターウォーズが、黒沢明監督の『隠し砦の三悪人』に圧倒的にインスパイアされた作品であるってことは、もちろん、、、、みんな普通に知っているんですよね?(どうなんだろう?)。


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ただ、やはりこの圧倒的なスケール感は、黒沢明監督の天才的な才能と、三船敏郎などの一世代前の日本映画黄金期の、圧倒的な存在感がある役者が、、、、真にスターであるようなスケールのある役者がいた時代にのみ作れるもので、もう同じ作り方では、その真の面白さは作れない気がするんですよね。これは昭和の時代の作品なのだ。だから、まったく忠実にリメイクした森田監督の手法は、興行的には・・・どうだったのかな?…確かに無難な方法とはいえるが、芸がないな、とは思う。


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三船敏郎;上原美佐;千秋実;藤原釜足, 黒澤明

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評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★★星5つ)


織田裕二は、あくまで織田裕二でしかなく〜それは監督のせいなのか?役者の資質のせいなのか?

織田裕二豊川悦司も、三船敏郎仲代達矢ではないのである。
劇中で城代の奥方が三十郎を評して「ギラギラした抜き身の刀の様」と言うシーンがあるが、織田裕二の三十郎は破天荒ではあるが、それほどギラギラしては見えない。

同様に豊川悦司にも仲代達矢の様な、触れば切れそうな鋭さは見出せない。
これは別に織田や豊川が悪いのではなくて、もはやああいう俳優は存在しないのだ。

時代が変われば人間も変わる。

演出は技術で同じ印象に出来ても、人間の違いだけはどうしようもない。


椿三十郎
http://noraneko22.blog29.fc2.com/blog-entry-190.html
ノラネコの呑んで観るシネマ


ここは、凄く興味深く読んだ。確かに、圧倒的に時代が・・・・役者の資質が違う時代であることは、よくわかる。それは、志村喬原節子三船敏郎、仲代達也などなど、昭和の時代を彩った大スター達のそのオーラと存在感は、いま白黒の作品を見てさえ、圧倒的な輝きを我々は感じることができる。これらの大スターがいた、その存在感を前提とした過去の映画作品と、フジテレビのテレビドラマ月9の延長線上で作られるレベルの昨今の映画とは、その前提や制作スタイルがまったくもって違うのだ。いま日本映画でこれだけの、大味の迫力(=大きな物語)を描けるものは、形こそ違えど、宮崎駿のアニメ作品などの一部のアニメぐらいのものだ。それすらも、もう基本的には大きな物語を解体する方向で、平坦な傾向が著い、と思う。この黒沢作品のリメイクは、そのあまりの違い、、、時代が根本的に変わってしまった、、、日本人の在り方すらも全然違う時代にはいっているんだってことが、ヒシヒシと感じられるので、なかなか興味深いです。ぜひ連続して比較してみてみることをお勧めする。けっこう驚くはずです。


ちなみに、黒沢明ってのはホントつくづく天才だと思う。『椿三十郎』にしたって、時代劇のほとんどすべてがマクロ的には、小国の小さな争いにすぎないような陳腐な話なんだが、そんな舞台でありながら、圧倒的で巨大なスケールを見る者に与えるんだから、もう、、、なんというか・・・・。たとえば、『機動戦士ガンダム00』なんか、EU、アメリカ、中華連邦なんかの三軸を、宇宙開発を舞台に戦う大戦争の話だが、それほどの巨大なマクロお舞台でさえも、小さな藩の御家騒動にすぎない『椿三十郎』や『隠し砦の三悪人』のスケールとは比較にならないんだぜ。馬が、サムライが、これほどまでにかっこいいものなのかっ!って驚愕する。


ちなみに、僕がこの森田監督の『椿三十郎』を見て、主演の織田裕二(僕はけっこう好きなのだ)を見て思ったのは、おっしゃるとおり、どこまでいっても、織田裕二その人にしか見えないのだ。織田裕二は、『踊る大捜査線』と『振り返れば奴がいる』というドラマで、僕はとても素晴らしいと好きなんですが、それは素晴らしい演技力でした。けど、三船敏郎椿三十郎が、ひょうひょうとする姿勢の奥に、いかにも人を危うく殺してしまいかねないギラギラした殺気があったところが魅力であったが、織田裕二の魅力は、そういったうっ屈したものが屈折して出てくる現代的なところにあるのであって、そのへんの資質やキャラクターの前提を、演出しきれなかった制作サイドに僕は不満がある。


これは、僕は個人的な意見としては、織田裕二の演技力や存在感以前に、監督の演出が下手だ、としか思えない。確かに昭和の初めから中期には、個人を超えるようなとてつもないスケールを持つような役者がいた。それは、時代故でもあると思う。個人がまだ個人として発言権がないような時代では、個性が凄く小さいか、けた外れにでかくなるかどっちかなんだと思う。けど、現代の日本は違う。現代の日本は個人が個人として認められる時代が故に、個性が凄くスケールが小さくなってしまうのだ。だから、個性の出方も凄く屈折する。もちろん、それは時代背景の違いであるので、だから役者がダメになったとか小さくなった、とは僕は思わない。それは、古きを愛す、時代錯誤のおじいさんの意見だと思う。環境が変われば人は変わるのだ。その資質と環境にあって設定や演出を、監督が作り出すべきであって、それができないのを役者の存在感などという、演出以前の前提に求めるのは間違っている。


ちなみに、現代の俳優が、時代劇を演じることと過去の作品を比べるのは、とても興味深い思考実験だと僕は思って、、、まぁ好きなのもあるけれどもコツコツ見比べています。

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