『惑星のさみだれ』1巻 水上悟志著 セカイ系の典型の構造ではあるが・・・

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水上 悟志

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評価:未(読み途中)
(僕的主観:★★★☆星3つ半)


先日、LDさんに紹介されて即購入。ちなみに傑作と熱烈に愛する『ランドリオール』でさえ、最初の3巻まで★3つ感覚だったので、この評価は何とも言えない。ちなみに即購入したの理由----------なかなか面白いな、と思ったのは、LDさんが熱烈にこの作品をすすめてくれた時の評。


この作品は、『新世紀エヴァンゲリオン』とかその類の内容といわれているんですが、僕はちょっと違うのではないか?って思うんです。

byLDさん

えっと、1巻を読んで、まさにストレートにセカイ系で、『新世紀エヴァンゲリオン』のシンジ君を思い起こさせるので、この世間の表の方が、表層的に感じれば、間違いなく正しいと思う。しかし、LDさんが言わんとすることも実は、よくわかった。この対比から、僕がどういう構造でこの作品を読んでいるか、ということを描写してみようと思います。全巻一気に買ったので、ほんとは先に行きたくて仕方がないのですが、じらしてこうやって書いてから読みます(笑)。

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人から、特に、「この人は!」と思っている尊敬する人から何かを紹介してもらうことは、僕は非常に好きだ。それは、それはそのマンガや映画を楽しむという行為以上に、「その人を深く知る」という楽しみも付いて回るからだ。僕がLDさんと出会ったのは、『コードギアス・反逆のルルーシュ』というアニメーションにでてく枢木スザクという登場人物が「王」であるということを強くいい張ったんですね。はっきりいって、最初は言っている意味が全くわかりませんでした。初めて会ったのだ、偶然にもリアルの対面であって、文字でなかったのが運が良かったです。文字では、たぶん理解できずに、そのまま二度と会うこともなかったでしょう。


なぜならば、彼の主張する「王」という概念が、様々な複雑な文脈に支えられた非常に高度な概念で、普通の人ではきいてもほとんど意味がわからないものだったからです。ましてや、通常の「王」という言葉のひき寄せるイメージと真逆に近い概念で、、、これは中国の古典や中国哲学の王道や覇道などの概念をかなりよく知った上でいろいろひねって考えないと、非常にわかりにくいものだったからです。彼も、凄く複雑な概念ので、この「ほんとうの王とは?」という問いかけを、そこまで強く人に伝えるというよりは、伝わらなかったらそれでいいや的なスタンスがあったように感じます。けど、そこは対面。僕もなんか、ピンと来たんですね。もしかしたらすげーこといっているんじゃないか?この人って、、、、。それで、根掘り葉掘り、角度を変えて話を聞きだしてみたら、出るは出るは複雑なこと、よどみなく具体例を挙げて説明し始める。

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ああ、LDさんが、いいコメント書いてくれてるなー。スザクの存在・・・英雄補正的な、結果から逆転して因果を捻じ曲げる存在としての「王」・・・それこそが真の王道、という概念を、もう少し詳細につめたいのだが
(中略)
・・・・えっと、本当は、この「王としてのスザク」というLDさんの主張する概念を丁寧に読み解きたくて、、、僕も同じような感覚をスザクに持っているんだけれども、概念を整理しないと、本当にLDさんと細かいところまで同じ(おおざっぱはほぼ同じだと思う)とは限らないので、したいんですがねぇ・・・。これって、対話を通してしか詰められないので、なかなか・・・・。スザクの行く方向性の、マクロ的な政治の帰結は、この前の記事で書いたのだけれども、スザクの本領というのは、本質というのは、「正しいからやる」とか「正しい目的に向かっている」とうことでは全くないんです。



スザクが選ぶから、それが正しくなる



というような因果律の逆転が起きていて、それが、予定調和的なものではなくて、現場でのぎりぎりの選択の中で、現実にぶち当たってボロボロになりながら、究極のポイントでそれを拾い上げていくところに彼の、存在の、ある種のカリスマ性があると僕は思っていて、、、、このへんは、実例を示しながら細かく説明しないと、すぐ抽象的にマクロで、そんな「英雄補正」というか「ご都合主義」とか「正しいからやっている卑怯なやつ」とかいう汚名を浴び得てしまうんだよなースザクは。


http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20080520/p1

この1)因果逆転してプロセスの正しさを追うことが結果を保証してしまうという存在を、ご都合主義でなくするためには、実は、もう一つの大きな文脈を押さえないと説明ができません。それは、2)「幾百万の屍と大きな物語の果てにいる自分」という概念です。これはまだうまくキャッチフレーズになっていないんですが、このことは、その後LDさんとみなもと太郎氏の大傑作『風雲児たち』の最上徳内などのキャラクターたちを群像劇として描いていく手法について教えてもらっていた時に、気づいたんです。

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つまり、そもそもなぜ「王」という特別な存在かといえば、過去に大きな物語を共有してきた背景があって、その累々の屍があって、偶然、すべてのプロセスを正しく分踏みながらも、すべての結果が出てしまうという特異点が生まれる・・・そして、それはマクロの統計的には偶然発生したのだけれども、でも、その存在そのものは「必然」として、すべてのプロセスと結果を統合してしまう・・・この存在を、「王」と呼んでいるんですね、LDさんは。


スザクへの批判に、都合よすぎみたいなものがあったんですが(R2はそこまでみんな思わないかもしれないがな・・・)LDさんが、そういったご都合主義的にプロセス(=手段)と結果が、見事に両立してしまう「そんな都合がいいことあるわけねーよ」的な存在に対して、何故ゆえに「王」という呼び方をするかといえば、この背景が隠れているのです。ちゃんと読み解けますでしょうか?。このロジックの前には、「そんなご都合主義はあるわけねぇ!」とか「英雄補正主義的でつまらん」とかいう批判は、論理的に意味をなくします。それを前提で、2)の「幾百万の屍と大きな物語の果てにいる自分」という背景があるのですから。もう少し具体的に言うと、LDさんが目をキラキラさせて、このみなもと太郎氏の『風雲児たち』を熱く語るのですが、この作品の江戸中期から末期の偉大な登場人物の人々は、そのほとんどが、まったく報われておりません。300年近い徳川政権の抑圧の中で、正しいこともが一つも通らず、名にも報われなくて死んでいくばかりでした。正しさ?とは、ここで300年近くの江戸の近世から近代までの「欧米列強パワーズからの侵略を守り切り独立を貫ぬき近代化した日本」という大きな物語です。いわゆる、司馬遼太郎の描いた、司馬史観と呼ばれるものです。まぁこの話は、その後の日本の暴走があるので、現代に我々は素直に称揚できないところはあるかもしれませんが、それにしても自分たちの父祖の代の人間たちが、これほど誇り高く凄いやつらだったという事実は、なかなかに感動です。


えっと、話を戻すと、例えば、日本の領土が簡単に交渉で切り取られなかったのは、林子平という人が、人生のすべてをかけて、『三国通覧図説』を書いたからなんですね。が、、、彼は、「親も無し 妻無し子無し版木無し 金も無けれど死にたくも無し」というように、何ら報われることも、生活で幸せを得ることもなく無残に一人で孤独死します。

『海国兵談』は海防の必要性を説く軍事書であったため、出版に協力してくれる版元を見つけることができなかった。そこで子平は、16巻・3分冊もの大著を、自ら版木を彫っての自費出版にて世に問う決意をする。しかし完成した海国兵談は、老中松平定信寛政の改革がはじまると政治への口出しを嫌う幕府に危険人物として目を付けられ『三国通覧図説』も幕府から睨(にら)まれ、双方共に発禁処分を下される事になったばかりか、海国兵談に至っては版木没収の処分を受けることになる。しかしその後も自ら書写本を作り、それがさらに書写本を生むなどして、後につたえられた。

最終的に、仙台の兄の下へと強制的に帰郷させられた上に禁固刑(蟄居・ちっきょ)に処され、そのまま死去する。蟄居中、その心境を「親も無し 妻無し子無し版木無し 金も無けれど死にたくも無し」と嘆き、自ら六無斎(ろくむさい)と号した。

『三国通覧図説』はその後、長崎よりオランダ、ドイツへと渡り、ロシアでヨーロッパ各国語版に翻訳された。それは地図の正確性には乏しく、特に本州・四国・九州以外の測量の難しい地域はかなり杜撰に描かれているものであったが、後にペリー提督との小笠原諸島領有における日米交渉の際に、同島の日本領有権を示す証拠となった。


http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9E%97%E5%AD%90%E5%B9%B3


しかしその業績は、少しづつ日本国内に写本で広まり、100年を経たのちに日米の領土交渉で、この本が世界中に翻訳されていることが根拠に、アメリカからの侵略を免れるんですね。


凄いと思いませんか?


この『風雲児たち』には聞いたこともないような、しかし、我々の住む国土や世界を守り作り上げた偉大な人物が、何百人と出てくるのです。もちろんすべて史実です。けど、、、そのほとんど9割がたは、徳川政権の抑圧の中で無残に殺されたりして、到底幸せや報われるということない人生を送った人ばかりです。



けど、その果てに、坂本竜馬などの近代日本の建国の父たちが綺羅星のごとくスターとなって登場する土壌になるんですね。



では、その「王」たる最後の果ての成功者をもって、ご都合主義だと、僕らは笑えるでしょうか?。人生をボロボロにして、地図を描き続けた林子平を、日本を測量した伊能忠敬を、最上徳内を、そういった人の業績をバカにできるでしょうか?。そう、確率の問題で考えれば、ロングスパンで考えるとこれは「必然」になるのです。物語は、「その人」のみをクローズアップするが故に、どういった歴史背景の土壌で、そういった特殊な「世界の在り方さえも変えてしまう」存在が生まれてしまうのかを、ご都合主義と勘違いさせてしまいがちです・・・・が、、、そうではないのです。・・・・これが、歴史と呼ばれるもしくは文化と呼ばれるドラマツゥルギーです。これがよくいう「大きな物語」というやつですね。



・・・ぜえぜえ、、、なんか、話がえらいとおくに来てしまった(笑)何書きたいのわかんなくなってきた(笑)。



あっと、LDさんと初めて会った時、それから今までで、彼が「王」という言葉に込める意味はこれほど深く、、、つーかこれ以外にもまだ色々あるんですが・・・ようはね、そういった因果が逆転してしまうような「存在としての重さ」がある存在に対して、強いシンパシーと強烈な憧憬を持つ、という体質がある人なんですね、LDさんは。僕も同じなので、そこに物凄い感動してしまったのです。もうスザクとか、そういうことはどうでもよくて、まずはLDさんは世界を眺める時に、「そういった存在の重さが重いもの」を見たがる、そういった幻想を持つ傾向のある人であるという僕の同類であることが、僕には感じ取れたんですよ。「そういった存在の重さが重いもの」、、、ただこれは、難しいのです。まだ説明し切れていないので、今後オイオイそれを読み解くのですが、僕がずっと因果が逆転してしまい、人に動機を与えてしまうような存在・・・コーリングやモチベーションの劇的な感染(インフェクション)が、起きるような、そういうものを見たいということとニアリーイコールなんですよね。


はぁはぁ、、、もうめんどくさくなってきた・・・(苦笑)が、来週は夏休みだし、無理して書く!(笑)


えっと、LDさんが、凄い!と薦めるものには、この存在の重さを持つ存在が「他人や社会に結果と裏表になっているプロセスの正しさという劇的な影響を与えて世界の在り方を変えてしまう」という、、、なんといっていいのかなぁ、、、王の影響みたいな、なんか言葉にできない「スゴイモノ」が含まれているものを、進めるんです。なぜならば、そういった存在の重さに感染する人なんです、LDさんは。これは僕の彼評価。だから、僕と同じに、発想も倫理もリベラリスト(左翼的)でありながら、究極としては右翼的なものにシンパシーを感じてしまうのだと思います。ロジック・理屈(=左翼)の果てにある、論理を超える何か(=右翼)に対していつも憧憬があるからでしょう。まぁこのいい方も、わからない人には、全くわからないと思いますが。。。。

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その文脈で彼が、藤子不二雄の作品にどういったものを見出しているか?ということも、この文脈から読み解かないと、わからないはずです。僕もだいたいわかってきました…が、うーむこれを書くのはさらに物凄い書かなければならないので、今日はパス。ちなみに、お借りした『カンビュセスの櫛』は、やはり大傑作です。天才すぎますこの人!。この話も、死ぬほどしたいんですよ、本当は。


■参考
『カンビュセスの籤』を読む/法華狼の日記
http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20080530/1212111346


方程式もの
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B9%E7%A8%8B%E5%BC%8F%E3%82%82%E3%81%AE


だめだ、、、、『惑星のさみだれ』に行きつかない(笑)。えっとね、この作品構造は、たしかにエヴァンゲリオン的な、閉じた自意識からの脱出を指向しています。それは1巻読む限り、間違いない、が、これを単純にそう回収していいのか?というLDさんの問いかけは、彼のこのマンガが好きな理由


「主人公がね、地球を壊したい!と叫ぶ女の子に、おもわずついていきます!と人生のすべてをかけちゃうんですよ」もうそこに、めちゃくちゃ惚れてるんです。


byLDさん

つまりね、ここ、ここのポイントが、ここの捉え方が、まったく普通と違うからLDさんのような感想が生まれるんですね。そして、おっしゃる通り、まだ僕はこの時点で1巻しか読んでいないのですが、ここの生かしようによっては、まったく異なる地平が開かれる構造が、さらにその奥に隠れていると僕も感じます。・・・・この話、できたら、ずっとおあづけになっているいずみのさんが好きな丸川トモヒロ氏の『成恵の世界』と、藤子不二雄の短編SFと、SF古典の方程式モノと絡めて、解釈をしてみたい・・・・たぶん全部つながるはずだ、、と思う。そして、この世界観との対比で、「神殺しの類型」の物語との大きな比較構造が作れるはず・・・・おおっ!つながったぞ!、そっかーこれがいいたかったのか・・・おれ。。。。


明日に続きます・・・たぶん。さて、2巻読むかー。

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