『マリア様がみてる ハローグッバイ』 今野 緒雪著 ついに祐巳・祥子編の終わり、大好きだが一点不満があります!

マリア様がみてる―ハローグッバイ (コバルト文庫)

シリーズ34冊の大長編が、とりあえずの終結を見た。個人的には、とても楽しませていただいた上に、キャラクターがとても好きだったので(とりわけ祐巳ちゃんにはメロメロでした・・・こんな娘がほしいです)の、著者の今野さんには、多謝です。また、祐巳が祥子と出合って、成長していく様を長期間にわたって見ることができたのは、とても幸せだったし、幸せにふさわしく穏やかに終わったので、トータルとしてとても満足度が高い作品。


ただし、と、せっかくの大団円に水を差してしまうが、、、、、本当は、まだまだ伏線が回収しきれていない、と思うのだ。これは編集部と作者の「選択」ではあったのだと思うが、小作品にし過ぎてエピソードをバラバラにし過ぎたというのが感想。たぶん超人気作品なだけに、「引き伸ばし」をすることになったんだと思う。そういった「ダレ」のようなものは、かなり感じていた。特に、祥子と祐巳が、それぞれに両想いになった時点で、ドラマツルゥギーの本質的な部分は薄くなってしまった、と思う。もっと短く圧縮して、そこを突き詰めて深く書いてほしかった・・・というのは、たぶん余計な注文なのであるとは思うが・・・。

たとえば、ここでこんなことがいわれている。

もちろん細かい注文をいえば

紅薔薇様になった祐巳の活躍が見たかった
・新しい紅薔薇黄薔薇スールがいちゃいちゃするのを見たかった
・数巻前で唐突に語られた「志摩子の出生の秘密」とかは、結局なんだったのか?
・柏木さんが好きな相手って、結局誰だったのか?
・その他、回収されきっていない設定や伏線http://www.mangaspirits.com/2008/12/%E3%80%8E%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%A2%E6%A7%98%E3%81%8C%E3%81%BF%E3%81%A6%E3%82%8B%E3%80%8F%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%AB%E6%9C%80%E7%B5%82%E5%B7%BB%EF%BC%81-%E3%80%8E%E3%83%8F%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B0/


うんうん、そういったエピソードをもっと見たい的な気持ちはある。が、それはたぶんまだ続きがあると思うので、それなりに見れると思うんだ。

けれども、僕自身は、この作品を、祐巳と祥子の成長物語、として見ていました。

この二人が出会い、お互いの足りないことを理解し合って、弱さを共有するところで、前へ向いていく力を得て、そして自分がいに自分を深く大切に思ってくれる人がいるという、「あの」不思議な共有感を抱きながら、人生を豊かに生きていくことができる・・・という、そういう物語が僕にとっての「マリみて」だった。


それは、最初の最初に記事で書いたが、「憧憬」をベースにした、成長の物語


最初のころにこう書いた。


この「マリア様がみてる」シリーズを読んでいると、一番思うのは


『憧れという感情』


についてです。難しく書くと、憧憬とでもなるのかな?。

ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンである福沢祐巳のおねえさまへの感情って、ずっと強烈な憧れがベースにあるんですよね。それが非常に健全に、自分もふさわしくあるためにがんばろうというナチュラルに変換される彼女って、人として立派だよなー。


いやまじで(笑)。


それが強烈に出ているのが第一作目なんですが、あの頃の祥子お姉さまって、凄く遠い存在だったんですよね。読者の視点は、祐巳だから。でも『レイニーブル』『パラソルをさして』でどんどん等身大の小笠原祥子との心の距離が小さくなっていくのは、なんだか凄くいい恋愛を見ているようで、ドキドキする。

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うん、これがこの作品の本質だと思うんです。そして、この作品がよかったところが、二人が両方とも相手の存在によって「救われている」という双応性があるところ。それは、最初の引っ込み思案な性格の祐巳が、お姉さまの祥子に出会うことによって、前向きに自分に自信を持って生き始めるところまで、「レイニーブルー」と「パラソルをさして」までが、福沢祐巳成長編(前編)だとすると、次には、もちろん次には、祥子が「祐巳によって救われる」という物語を書かなければならないとなるはずです。

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つまりは、小笠原祥子成長編(後編)が来ないとおかしい。もちろん、これは感情的には、僕はちゃんと納得しているので、成功してないわけではないと思います。ただ、ちょっとここの部分が、僕は薄かった気がするんです。この子が「正しく完璧に」救われて、この祐巳・祥子編は完成すると思うんです。


ここに僕は1点不満がある。



ここでは、僕は、小笠原祥子の本質にまで踏み込まなかったと思うのです。それはズバリ、柏木優を描かなかったからです。様々な描写から、また僕自身が男性の視点でこの世界を眺めていて、柏木優君は、めちゃくちゃ祐巳ちゃんにぞっこん!(笑)のはずです。どう見てもそうにしか思えないし、僕が彼の立場ならば、間違いなくそうなると思う。作者は、この辺の感情の機微を完璧に描き分けていると思う。


なのに、、、、なのに、「そこ」に踏み込んでいないんですよ。


それって、とても悲しい。もちろん後に書きますが、理由はわかりますがね。


ちなみに小笠原祥子という女性の救済にとって、柏木優という男性はキーなので、前にも確かこういうことを書いていますね。

■マリ見ての本質


えっと、僕は柏木優って、スゴイ優秀な男だと思っている。


それはなぜかというとこの作品中で、ほとんどスーパーマン扱いされている赤薔薇さまこと小笠原祥子のことを、唯一の彼女の本質だけで、取り扱っているからだ。読んでないと分からない話の展開だなー(笑)それは、このスーパーマンみたいな、大金持ちの娘で、成績超優秀で、気が強く、美貌に恵まれた祥子が、実は、ものすごくか弱く弱い存在であるということを、一切の表面の肩書きや虚飾を無視して、柏木は、最初の最初から扱っているんですねー。



あーさすがだなーと思う。(←作者がね)



この祥子の弱さという本質に近づくことが、実は、祐巳の成長の本質であり、もともと圧倒的に祥子よりも劣位な存在であった妹(スール)である祐巳が、憧れという感情をバネに、彼女の弱さを知り対等な存在として精神的なパートナーとなっていくところに、その成長物語にこそ、この物語の本質があるのだと思う。


この場合、柏木優は、作中で唯一、本当の意味で祥子の本質を見抜いているのですが、それが、どうも理由はわからないが、恋愛感情でないようなのですね。(それとも育てているのか?)その祥子の精神的なパートナーとして、優は、どうも祐巳が相応しいと考えているている節があって、この部分が、上手く描ければこの作品は、アーカイブとして残るとまではいえないが、同時代として、人々(たぶん年齢層の低い人々)に読まれる価値のあるいい作品だと、思う。でも、そこに話を持っていくと、ここまでくると数巻で終わってしまうので、こんな儲け頭を(笑)編集部が終わらせるわけないので、そこでこういう中だるみが生まれているのだと思う。多少クライマックスまで薄めるのはありだと思うが、グインではないが(笑)、あんまり薄めすぎると、本質がぼやけてしまい、駄作になっちゃうぞ!って少し言いたい(笑)。まだ大丈夫だが。http://ameblo.jp/petronius/entry-10007607835.html

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と、こう書いている。この時は、この作品世界の中での柏木優の立ち位置に、あまり深く考えなかったのだが、最終的に終わってみると、祥子の内面の救済を深く本質的なところで達成できる力があるのは、彼だけだというのがはっきりわかってしまって、「そのドラマツゥルギーを昇華することなし」に終わってしまったのは、残念だ、という思いがあります。

例でいうと、津田雅美さんの『彼氏彼女の事情』の宮沢雪野編(前半)と有馬総一郎(後半)とほぼ同じ構造だと考えればいいでしょう。宮沢さんは、育ちが幸せすぎて、幼少時から、いや生まれる前から「家」の業を心にトラウマとして抱えている総一郎くんのことが、分からず先に救われちゃうんですね。その距離感の落差が、恋愛のうんまくいかなさにつながり、、、とドロドロ話が真っ暗闇の奈落の底へ落ちていくわけです(笑)。実際、少女マンガ誌に残る名作だと思うのですが、後半の有馬編は、とても人気がなかったそうです。

まぁ理由は分かるよね。そもそも漫画で、そんな「心底暗い話」なんか見たくないぜ、っていう需要層はそもそも多いと思うんだ。せめて物語だから、明るくて、癒される幸せな話ばかりが見たい、という意見は、とても重い重みがあると思う。またもう一つに、これってものすごいどん底から有馬が救われる話だけれども、それって、「天才のお話」なんだよね。だって、そんなどん底の人生から、急角度に未来が開けていくのってのは、「選ばれた人のおとぎ話」になってしまって、感情移入の広汎さを拒むと思うんだよね。たしかに、物凄いドラマティツクなお話だけれども、それはしょせん、自分とは縁のない話、と突き放して見てしまう読者は、とりわけティーンエイジャーやそもそも漫画を受容する層には多いと思うんだ。小説や漫画などの物語を語るメディアが好きなこと自体、現実とちょっと距離を置く傾向が多い人が多いと思うだろうしね。現実が好きな人は、物語を読む前に、自分という物語を生きてしまうもの。とすると、そういう人にとっては、感情移入の相手としては、敷居が高過ぎるんだ。


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これは、まんま小笠原祥子にも言えると思うんだよね。彼女の人生の問題点が、小笠原財閥の一人娘で直系であるということを抜きにしては語れません。いや、彼女の存在意義の過半を占めるといってもいい。それは何にも彼女自身に救いをもたらさないが、彼女の「人格」はこれによって形成されているし、彼女が「一人娘」である限り、この血の呪縛から逃れることはできないんですよ。



彼女という人格にとって、「本質的な自由」を得るためには、ここを乗り越え解決しなければならない。しかし、これは個人の気持ちではどうにもならないほどの、マクロの縛りなんですね。


そして、当然「このこと」が深く理解できるのは、身内だけなんだよね。ちょっと詳細は忘れてしまったけれども、一時期はフィアンセだったことを考えると、幼少時から柏木優は、小笠原財閥を継ぐ覚悟を求められていたわけで、一番その「意味」が分かっているのは、彼なんですよ。このドラマツゥルギー、いいかえれば、小笠原財閥の後継者問題と家の業を主軸テーマに考えないと、小笠原祥子の救済が描かれなかったも同等なんですよね。ただ、これが、穏やかな癒しに満ちているマリみてシリーズでは、非常に取り上げにくいテーマであることは間違いない。少なくとも、主要な読者層を置いてきぼりにする可能性が高い。だからこれを避けたのは、決して間違いであったとは思わないですが、僕は、「そういうもの」が好きなので、残念に思ってしまうのです。

ただちょっと考えてもコバルトでは描きにくいテーマですよねぇ。確かに。家の問題ってのは、もう年齢層高い話で、すっごくしがらみが大きいし、そもそも血を残すことが重要なんで、はっきりいってセクシャルなものを避けては通れない。優君が、祐巳ちゃん(仮にその弟でも(笑))が好きならば、それこそドロドロですよねぇ(苦笑)。

同時に僕は思うのだけれども、この手の百合関係には心を閉ざした大金持ちの娘ってよく出てくるんだが・・・見事に、その類型ですよね、祥子って。ロングヘアーに黒髪で、ツンツンキャラ。そして、家に縛られているということは、この手のキャラは、とっても「心を閉ざしている」傾向が強い。かつお金持ちの家の、しかも良い遺伝子を持っている場合は、年齢以上に大人びて(家のあり方がその人を年齢以上に大人として振る舞うことを要求する)、且つそれを支えるだけの頭の良さがあるので、内面が複雑に屈折する場合が多い。

だから、祐巳のような、単純なストレートな心根の人を好きになるんです。・・・とすると、これって文学作品なんかで年齢フリーにすれば当然のように、SEXを真っ正面から描いて肉体的な部分と精神的な部分の話になると思うんですよねぇ、、というか、確実にそうなるわけではないが、僕はそういうのが好き。というのは過剰な自意識は、なにかしらセクシャルなものでしか解放されないと思うからだ。スポーツとか音楽(楽器演奏ね)とか、そういった肉体・感覚開放系に主題が載っていればいいが、祥子さまは、それがまったくない。とすれば、恋愛と家の問題を突き詰めると、、、、と思っていまうのです。

まぁ実は、「ここ」の部分が、まだ未解決なものが多いので、作者が、めんどくさいと思わなければ書く可能性があると思うので、気になるところではあります。が、、、コバルトで書けないから、無理かなぁ、、、ここは。だからこういった複雑で苦しい現実と戦う勇気を、祐巳にもらった、というところまでが書く限界かな、と思います。少し残念ながら、まぁそれがこの癒しに満ちた百合空間には、ふさわしいかな、とも思います。

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