第六話『ソヨンのぬくもり』 ソヨンがあきらめなければならなかったもの

まだ、そう、まだ物語は始まってさえいない。丁寧に語られる世界の成り立ち。因襲、倫理、社会構成、、、、こういう外面的な宇宙感を、物語が始まる前に延々描くと、説明くさくて、いやらしくなるものだが、それが全くない。それは説明というより、すでに完成しているものの断片を見せている「そこにある感」があるからだと思う。これは・・・名作になるな・・・。

僕はこの先を全く知らないのだが、この6話の最後の方の静かなドラマの展開には、胸が打たれる思いだった。こうした因襲にとらわれる社会で、差別される立場にありながら、ああいう立場にあったとすれば、、、、通常、死刑しかあり得ない。・・・・ルイさんが、号泣したってのは、とても分かる。

ソヨンという女性の、胸に秘めた思い、苦しさ、幸せ、生きることのつらさと素晴らしさ、、、が胸に迫る。昨日も書いたが、いつも何かにじっと耐えるように、深く思いを秘めた彼女に、、、僕は不思議な思いを感じる。彼女は幸せなのだろうか?、と。特殊な民族であるらしい霧の民であるにもかかわらず、別の民族の・・・しかも彼女たち一族とは相容れない民族の首長の息子にタブーを乗り越えて嫁いできたことは、本当に正しかったのだろうか?。しかし選択を振り返ることは人生には意味はなく、、、それを静かに強く「受け入れる」彼女の聡明さと、それが故の寂しさに、僕は胸が痛い。

物語的にいえば、「まだはじまっていない」、言い換えれば、本来の主人公であるソヨンの娘エリンがこれから出会うであろう苦難の物語の基調低音を為す、エリンにとって愛おしくそして、何よりもかえ難く大切だった「愛しい時間」を印象づけるためのパートにすぎない、ともいえる。けど、そこにも重厚な思いが満たされた物語がある・・・。

「いまいる社会で生きていくために」ソヨンがあきらめなければならなかったものの大きさが、彼女の「笛が嫌いだった・・・」というセリフから深く垣間見える。そして、それほどの代償を払っても、愛した彼女の今は亡き夫との愛の大きさもまたわかるのだ。ソヨンという女性は、自らの生きる本義や自分の最も大切なものを捧げてでも、愛する人を愛し抜いた人なんだろうな・・・。うーん、まだ説明するほど、なにも物語は起きていないただ、この世界における「日常」を穏やかに説明しているだけのストーリーなのに、これだけ胸に迫るのだから・・・凄いね、この作品。

そして、このソヨンが愛のために、そして人として「獣と人が共生する社会」で生きるためのルールのために、「失わなければならなかったもの」が、この後に、この両立こそが、エリンが人生を通して模索し追求していくものになるであろうことは、このエピソードから良く、よくわかる。