当時は分からなかったことが・・・・

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)

もうすぐ読み終わる。いや、素晴らしい。。。。当時は分からなかったり、感情移入しにくかったことが、今ならかなり分かる。それは、僕が人生を重ねて、この主人公よりも年齢を重ねているってこともあると思う・・・・が、これはやっぱり『1Q84』から逆算して読んでいるから分かることでもあると思うんだよな。正直いって、このレベルの作品を読んでいると、シンプルな動機を描く漫画やエンターテイメントの作品は、どうしても幼稚に思えてしまうなぁ。もちろん、シンプルさは幼稚さではないので、そういう風にいってはいけないんだろうけれども、、、、なんというか、さすが、だよ。本当に。良い文学作品に、どっぷるハマる時には、アニメーションや漫画のシンプルなものって、なんだかひどく幼稚に見えてしまうんだよなぁ。何というか複雑さと考察のレベルの深さが違う。これって、やっぱり小説でないと、到達できない深みだよなぁ。馥郁たる文学の芳香。

この作品は、第三部が遅れて出されたこともあり(1Q84!!)、当時はなんだか、ちぐはぐな印象を持って読んでいた覚えがある。けど、今回一気に読んで、、、そして『1Q84』を読んでいるが故に、この作品が村上春樹文学の一つの大きな「総合」の地点を示している、、、というか、今までバラバラだったものを、統合しようとした壮大な小説世界なんだってことが、わかってきた。これがあったればこそ、『1Q84』が生まれて来たんだ!。

村上春樹の作品には、『世界の終りとハードボイルド』の系統と『国境の南太陽の西』の系統があって、当時は独立して描かれていて・・・僕ら夫婦は、死ぬほどこの『国境の南太陽の西』が好きで、恋人同士の頃何度も読み返して、、、語り合ったんだけれども、、、この話のテーマがより広大な舞台に埋め込まれていく様は、背筋がぞくぞく来る。何度も読み返した『国境の南太陽の西』だったが、当時ははっきりとは意味は分からないし、なんでそんなに好きだったのかも分からないし、しかも世界が閉じていってしまう様には、これではよくないんじゃないか・・・この先を見たいのだが、この物語の構造上この先はないんだ・・・とあきらめていたものが、実は、この『ねじまき鳥クロニクル』で壮大な舞台を得ているんだ・・・そうか、村上春樹のいいたかったことは、こういうことだったのか・・・・と心臓がバクバクいう。この前に『ノルウェイの森』を読んでいたのだが・・・考えてみると、彼は、初期から、「この世界」が描きたくて、最初の最初期からその片鱗をのぞかせていた。そうか・・・凄いな、、、つまり一歩一歩、どんどん深みへ、そして高みへ登っていくのだ。一気にこの高見まで、彼は竹抜けてきたんだ、ってのがはっきりと分かってきた。

ねじまき鳥クロニクル』は苦しい作品だ。精神の井戸にどんどん深く下りていく感覚は、本当につらい。それは個の深みを病みを深掘りする作業で、、、、けれどもその「自己」を巡る探究の果てに・・・・。

うん、少しづつ少しづつ語る言葉が生まれてきた。ああ、、こういうとき、神様ありがとうって思うよ。


国境の南、太陽の西 (講談社文庫)
国境の南、太陽の西 (講談社文庫)


世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)