『アクセル・ワールド〈3〉夕闇の略奪者』 川原礫著

アクセル・ワールド〈3〉夕闇の略奪者 (電撃文庫)

読了。おもしろいなぁ。

この作者は、コンスタントに面白いです。販売しているものは全作品読んでいるが、どれも水準を一つも落とさない。これは才能だなぁ。なんというかエンターテインメントをよく分かっている感じがする。売れる路線の作り方とかそういったこともろもろ含めて「プロの安定」を感じる。商業主義の汚い部分と自分がやりたいことのバランスの取り方が凄くいい感じがする。これだけ安定感を見せつけられると、ぜひとも、この『アクセルワールド』をある程度書ききって、イロイロな可能性へ飛躍してほしいなぁと切に思う。この人、ライトノベルの作家で終わらないと、きっと。いや、それがどういうこと?といわれると難しいのだが、、、これくらいの安定した「モノ書き」の才能は、これだけでは終わるまいと思う。なぜならば、素晴らしいジャンルだとは思うが、ライトノベルには、構造的な弱点があるので、本気の才能がある人は、「ここ」だけにとどまらないものなのだ。もう一つパンチが欲しい気はするが、それは時間の問題だとは思う。それにここでいうパンチとは、ハードSF的なマニアックなこだわりへの志向のイメージでいっているのだが、「それ」があるほういが、よりブロードにアピールするものや深みを書けるというわけではないので・・・・。


なんでこんなに激賞するかというと、実は『ソードアートオンライン』があまりに面白かったので、次作を期待したところ、『アクセルワールド』だったので、凄く失望したんですよ。いや、優るとも劣らないくらい『アクセルワールド』の1巻は面白かったのだけれども、けどね・・・・なぁんだ、また同じ電脳ものかよと思ったんですよね、、、、同じテーマや舞台を選ぶ人って、そもそもアイディアが枯渇しているか、表現したいことのレンジが狭い人が多いんだよね。だから、あーダメかーこの人と思っていた。


特に2巻では、おもしろいのだが、なんというか『ソードアートオンライン』の時のような『アクセルワールド』の時のような・・・つまり1巻のような新鮮味を感じなかったからなんだ。やっぱり同じ舞台でフィールドでは書ける「モノ」も限定されてしまうかなーと思っていた。が・・・3巻では、これがなかなか、ピリッと辛いいい味が出ている。特に、集中力というかコミットメントが、「事象の書き換えをしてしまう」という部分の原理の説明は、秀逸。これが僕には、おおっと唸るものに感じた。


というのはね、この人って、この舞台をベースに「自分の書きたいテーマ」がこんこんとわき出る泉みたいに、アイディアをたくさん持っているんだろうというのが手ごたえで感じたからなんですよ。電脳をベースにすのならば、こういった集中力の問題や、心の問題の解決を、様々にサブテーマというかショートスト―リーにして話を描ける。またレギオン(=軍団)勝ち抜きという設定も、それなりに長く巻数を続ける・・・つまり商業主義に合致している。特に、なんの才能もないように見える主人公が、成長していくビルドゥングスロマンに集中力というものを持ってきて、その集中力による過度なコミットが(この辺の音が消える描写はこの現象の本質をよく分かっているんだと思って感動した)現実(=電脳世界だけどね)を塗り替えてしまうんだ・・・という設定、その設定が、バトルシーンのアクションにつながるという部分は、いやーわかりやすいなーと思う。たぶん探せば似たようなSFの設定や考え方はあると思うのだが、ライトノベルの良さは、そういったハードな「手ごわいもの」を、いかに読者に、特に日本の読者の今の若い層にわかりやすい形で料理できるか?ってのが勝負で、そういうのが文句なしにできている。世界が狭いと思ってたが・・・・イヤイヤ、そんな僕ごときの陳腐な想像力をちゃんと超えて広い世界と、この世界で生きる最も大事なものを、ちゃんと考え抜かれていて、おおおって唸ったよ。まーとにかく好き。・・・・ちょっと絵柄がなぁ・・・とは思うけれども。まぁ嫌いではないし。


それに、主人公の・・・・厳しいポジション、過度なコンプレックス、卑屈な精神構造・・・・・そこからの成長を設定しているにもかかわらず、主人公の心の奥底はとても高貴な人格で、本質的にこの作者が陽性の性格をしていて、決して世界に絶望しきるほどには世界を嫌っていないのが分かる。こういうのって大事。だって心底暗い人は、すぐに世界の暗い方向へ話がひきつけられて、絶望しきってしまう。生きていくには、いい加減なぐらいがいいものなのだ、現実的には。そして、また心の奥底で腐ってねじ曲がってしまった親友の回心、、、、それを描けているのも素晴らしい。人間存在の描写で、本当に素晴らしいのは、いつでも罪を自覚すればそこからよみがえれるということなんだ、と僕は思う。変われない人間を描くのは、物語としてはよくあるが、正しくない。ほとんどの人間は変わることも成長もあまりなく生きていくかもしれないが、それでもやはり「人が変われるのだ!」と信じて各書き手とそうでない書き手には大きな差があると思う。


ソードアート・オンライン〈1〉アインクラッド (電撃文庫)