2009年 マンガ部門 物語三昧ベスト

基本的に、順位はてきとーです。なんとなくフィーリング?。ルールがあるわけではありません。ただし、同じ順位の中やそれぞれの順位間では、2009年に登場してきたものや非常に魅力を上げた展開をしたものを、なるべく上位にあげています。とはいえ、漫画の方は膨大に網羅した中からの順位付けなので、結構指標にはなると思います。後半は、順位はほとんど関係ないです。どれもいいので。

第1位:『3月のライオン』 羽海野チカ
3月のライオン (1) (ジェッツコミックス)

2009年の第1位に、『3月のライオン』と『BabyStep』を上げたのは、これが、僕らの住む社会で、いまの時代に、それでも「成長」を目指して「勝つ」ということはどういうことか?ってことを、とてもストレートに描いてくれたと思うからです。『しゃにむにGO』も同じなのですが、いつの時代もでも人間は変わりなく、苦しんで苦しんでもがいて生きていく人はいます。この緩やかな衰退する飽食の現代であっても、やはりそれはかわりません。「生き残る」というのは、そういうことです。そして、成長することが、そのままストレートに「存在の生き残り」を賭けることになってしまうことは、実は結構よくあることだと僕は思います。物質的な物が満たされている現代日本社会や先進各国は、既にお金による競争よりも、存在意義(たとえば名誉とか)を賭けた実存の競争をしているような気がするからです。まぁそこまでいかなくとも、人間の「生きる」本質として、自分の存在意義を失わないために、たまたま選ばれてしまった勝負の世界で、ギリギリの高みを目指し続けるしかない人生に、おもわず突入してしまって抜けられない、というのは、僕はよくあることだと思うんです。そして、そのなかで孤独にさいなまれながらも、自己を磨き、一筋の細い崖の上を歩き続けるような人生というのは、こういうものだよって感じで見せてくれます。いや、素晴らしい漫画です。ハチクロの最後のほうで、この人は金鉱を、、、自分が世界に訴え出る「コア」みたいなものを見つけたんだな・・・と感動します。

第1位:『BabyStep』 勝木光
ベイビーステップ 1 (少年マガジンコミックス)

極論を言ってしまえば、動機がない社会で、薄い人生を生きている人間が、「やりたいことを見つけてそれに邁進していくこと」を描いた漫画です。また「大きな物語」や大目標に駆り立てられるか、好きな女の子に認められたいから頑張るといった、旧来のスポーツ漫画と比較して、「目の前の小さな成長の手ごたえ」を「積み重ねる」という、異様に地味なプロセスを描くだけという点も、非常に秀逸。そしてなによりも、これまでのティピカリーなスポーツ漫画と比較して、圧倒的に地味なスタイルで10巻に到達し、しかもじわじわと人気が上がっているその支持のされ方も、非常に素晴らしい。これが「売れる」のであれば、これまでのマーケティングのスタイルが非常に変わると思うのです。内容で僕が一番ぐっと来るのは、地味に頑張る+論理的に技術を習得していくというプロセス系のスポーツ漫画にありがちな、「すべて論理的に頑張れば勝てる」というような単純な結論に落ち着かないで、論理と練習の果てに、成長する一瞬のチャンスとして、「今までの自分の論理の結果をすべて捨て去るというリスクテイクをして、その結果大失敗!!」したことによって、相手が動揺して勝負のツキを招き寄せるというような、「リスクテイク(現場経験)」が、勝負のや現場の最前線では必要なことを見事に描いている点です。そう!これだよ!と僕は何度も、うなりました。勝負というものの、ある種のギャンブル性をよくわかっている。論理的なアプローチをしていながら、その真逆の方法論に飛び込むことが、ステージを変えることを、見事に描いていて、感心します。・・・凄いよな、、、これだけ地味な作品だと、普通★3つくらいなのに、昨年通して1位と思うほどの評価になるんだもの、全体を通して読んでいると。

第1位:『RETAKE』『ねぎまる』 きみまる

この業界で、2009年のもっとも重要な出来事は、『エヴァ破』でしょうが、その時に合わせてこのきみまるさんの同人誌2作品に出会えたことは、素晴らしかった。何となく考えていたハーレムメイカーの倫理的告発の概念と、並行世界の物語の概念が、ストレートに繋がるものであることを発見できたからです。しかもこの形式が、実はオリジナルを持つパロディに最も適用しやすいということを、はっきり自覚的に感じたのもこの2作品のおかげです。まだ読めていませんが、この人のすべての作品を読む、と誓っています(胸の中で)。新劇場版エヴァを見るのならば、この作品は必須だと思うんですよ。新劇場版の、並行世界を考える上での、素晴らしい参考書になる。ちなみに、同時にこのきみまるという人の持つ物語の本質は、『ねぎまる』で凄くよくわかる。これを読んだ後に、オリジナルの千雨の発言を読み返すと、涙が止まらなくなります(苦笑)。まじで、並行世界の概念を、ほんとうに使いつくしている設定です。しかも、物凄くシンプルで骨太なので、村上春樹の小説の『1Q84』や『ねじまき鳥クロニクル』を読む時の参照としても、僕は凄く価値があると思います。2009年のものというわけではありませんが、この年に読んだ中で最も強烈な印象を受けたものなので、第一位にあげておきます。

第2位:『しゃにむにGO』 羅川真里茂
しゃにむにGO 32 (花とゆめCOMICS)

遂に完結した。テニス漫画の究極地点にある漫画。『BabyStep』と同じテニス漫画である点は、非常に興味深い。というのは、テニスというのは、メンタルなスポーツと呼ばれるように内面の動き・集中力がプレーに決定的な影響を与えるので有名なスポーツだからです。しゃにむは、テクニカルに傾斜する『BabyStep』と比較して、非常に少女漫画の王道的な内面描写に重きを置いています。「にもかかわらず」テニスの土壇場の精神力でプレーが劇的に変化することによって、「観客を巻き込んで高揚させてしまう」、、、、僕の思い出でいえば最盛期の松岡修三選手のような、言葉では表現しにくい観客すべてを巻き込む昂揚感を、「漫画で再現」できてしまっている点が、あまりに素晴らしい。読んでいると、手にじんわり汗が出ます。そして少女漫画らしく、丁寧な心理描写が、その試合やプレーが、登場人物たちの内面を成長させていき、異なるステージへ導いって行ってくるるさまがはっきり感じられて、胸が熱くなります。ああ、系統的には『3月のライオン』と同じベクトルです。この生きづらい世界で、どうやって、苦しみながらももがいて生きていくか?。

第2位:『ヴィンランドサガ』 幸村誠
ヴィンランド・サガ 8 (アフタヌーンKC)

この作品も2009年に怒涛の展開を遂げました。まぁ既に歴史に残る名作級の風格を最初期から漂わせていましたが、いや、見事っ!て言う展開でした。『プラネテス』で展開し切れなかったものを、見事に追及している。しかもクヌート王の国取り物語という超弩級のエンターテイメントをあっさり切り捨て、主人公の最初の問題意識に、さっと戻るあたり、もう見事としか言いようがない。昨今の人気に左右されて揺れ動くマーケティング手法的な方向と正反対な「これが語りたいんだ!」ドン!!みたいな、その潔さと気合いに、頭がくらくらします。しかも、それなりのに血わき肉躍るエンターテイメントとして「も」成立しているところが凄い。

第2位:『魔法先生ネギま』 赤松健
魔法先生ネギま! 28 (少年マガジンコミックス)

はっきりいって、まさかここまで超大河ロマンになるとは、夢にも思いませんでしたよ。いや最初からそういったマクロの種があるよねとは主張していたし思っていたけれども、実際に展開された実物を見ると、震撼する。この密度、このクオリティ、そして萌と関係性で読者を惹きつける「ラブひなスタイル」を基礎ベースにスタートしながら!!!、、、初期の方からのファンとしては、感涙ものです。女の子がすぐお風呂に入っちゃうという少年漫画のお約束の展開さえ、そういう「儀式」なんですと華麗にスルーすれば、女性が読んだって、大人が読んだって、「うおっっ!」と思うこと間違いなしの圧倒的な大スペクタクル大河ロマンです。初めて読む人は、8-13くらいまで我慢して読んでみてください、その壮大な構想力と、一人の少年の悲惨な過去とそれを成長のバネに変えるビルドゥングスロマンに胸震えることでしょう。特に魔法世界編からの展開は、ウルトラSFですよ、もう(笑)。90-00年代は、こういったそれまでのアーカイブの集大成として、個々のパーツをオリジナルのエンターテイメントに組み上げる作品が多く輩出した気がする。ある種の基礎リテラシーの向上とパロディ形式のオリジナルへの転用が非常に高密度にレベルを上げた時代だったからかもしれない。アージュの『マブラブオルタネイティヴ』やジェームスキャメロンの『アバダー』とか、まさにそう。

第3位:『風雲児たち』 みなもと太郎
風雲児たち 幕末編 15 (SPコミックス)

もうねーこれ、歴史に残ってしまっています!みたいな名作なので、読まないと日本人失格ですよもう。これねー順位はもう適当。だって、『ワンピース』とか『ドラゴンボール』みたいなもので、もうそれを入れたらずっと1位独占でしょう見たいな作品なんでねぇ、、、。とりあえずでも入れないわけにはいかない、みんな読んで!的なメッセージを込めて。ちなみに『ワンピース』は少し読んでいる巻が抜けているので、入っていないだけで、リアルタイムで読んでいれば、まぁ間違いなく1位でしょう。

第3位:『ちはやぶる』 末次由紀
ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

3月のライオン』『BabyStep』『しゃにむにGO』と来ると、結局は、この動機が薄い現代社会で「いかに熱く情熱を持って生きるのか?」「それはどういうことなのか?」ということを描いている漫画で、且つたくさんの人に支持されている漫画を、僕は高く評価していることがはっきりわかるなー。これは部活モノとしてカテゴリーされるとは思うのだが、やっぱりこれも、自分の姉に比べて自身がない女の子が、自分自身を打ち込めるものを見出して、その狭い世界で、頂点に達そうとする物語。情熱によって、周りが見えなくなって、夢中・・・・夢の中にいるような、視野狭窄出回りが見えなくなっているテンションで生きる生きたかを描いたもの。ああ、これは、同じものを「正」の側面(『BabyStep』『ちはやぶる』)で見るか、「負」の側面(『3月のライオン』『しゃにむにGO』)で表現するかの違いなのかもしれない。この『ちはやぶる』も、とても楽しそうに描く青春部活モノだけれども、実際の登場人物たちの切迫感や切実感は、やっぱり、同じものだ。同じものを描く描き方のパターンに過ぎないんだと思う。

第4位:『ちょっと江戸まで』 津田雅美
ちょっと江戸まで 1 (花とゆめCOMICS)

これねー僕には、あだち充さん的な、あの手抜きだかわからないような「間」を使ったウルトラ玄人の熟練の技を感じる作品です。しかも時代劇という非常に入りにくいものを、テキトー世界観に作り替えて、「わかりやすく」「読みやすい」形に料理する技は、その方の力が抜けきった超絶技巧と相まって、凄いレベルの作品になっている。アーカイブに残る作品か?と云われれば、カレカノとかに比べるとそうではないかもしれないが、とにかくある種の極みに到達したプロフェッショナルの技を感じる作品です。ただ、「これ」をよんで時代劇を読んでみようと思う読者がたくさんいることは、まず間違いないところが、凄い作品です。

第4位:『大奥』よしながふみ著 
大奥 第5巻 (ジェッツコミックス)

権力者の狂気と孤独が見事に描けている。「向こう側に行ってしまった」人の行動や表情を書くのが、よしながふみさんという人は、本当にうまい。しかしなーこれが、こんなに巻数が続くとは思わなかった。よくこれだけ物語を続けることができたなーと思う。それによって物語世界の罪が凄く増したもの。

第4位:『医龍』 乃木坂太郎著 原案 永井明
医龍 21 (ビッグコミックス)

医療漫画で、組織が描けること、は、まさに日本社会を描きだすこと。それが、十全にできている!というだけで、桁外れの面白さであることが分かると思います。物凄い作品になりつつあります。最初は主人公のヒーロー物語になるかと思っていたのですが・・・。違った。ちなみに、僕は最初から最後まで、加藤助教授の大ファンです。理由は、すげーぞくぞくするほど、かわいいよ、彼女。おれ、この手の女性、ダメ、物凄い好き。

第5位:『ガンスリンガーガール』 相田裕
GUNSLINGER GIRL 11 (電撃コミックス)

もう完全に安定したなーと思います。あとは、、、これを「どこに最終的に持っていくか」です。もうそこまで来た。うん、さすが。

第5位:『MOON 昴』 曽田正人著 
MOON 4 (ビッグコミックス)

第一部の方が、物凄い見事にまとまっていて、天才の狂気が描けていたんだが、第二部は少しスローペースに。たぶん物足りなくなる人もいると思うのだが、これくらいにいったんクールダンしてからの方がいいのかもしれない。僕は太く短くしによりも、あのような存在が、どう生きていくのかをもっと、あがく姿を見てみたいです。

第5位:『罪と罰』 落合尚之
罪と罰7(アクションコミックス)

物凄く暗い話なので、1巻で終わるかと思っていたのですが、ちゃんと長く続けてくれてよかった。落合尚之さんは、大ファンなんです。この人は売れてほしい、もっと『黒い羊は迷わない』以来の、ずーーーっと追っている人なので、この人が持つテーマをこういう形で書きすすめるのは、うん、うれしいです。

第6位:『神のみぞ知るセカイ』 若木民喜
神のみぞ知るセカイ 5 (少年サンデーコミックス)

現実の世界とゲームの世界(理想の世界)を対比するというヲタク系の物語は多々あるのだが、現実をバランスよく生きながら、はっきりとゲームの優位性を主張して生きている主人公は、とてもさわやか(笑)。そして、ある種のルサンチマン(=おれはもてねーよとかいうひがみ)ではなく、ニュートラルに世界を眺めながら、この二元論を行ったり来たりする構造はとても秀逸。サンデーだよね?たしか、らしく非常に陳腐な一話づつの話が続くのだが、これきっと、全体の構造をよくよく考えている気がするんだ。完結までがすごく楽しみな作品なんです。

第7位:『とある科学の超電磁砲』 冬川基
とある科学の超電磁砲 4―とある魔術の禁書目録外伝 (電撃コミックス)

本編よりもはるかに面白いんだから、罪な漫画です(笑)。いやー黒子と美琴の高め合う関係は、凄く好きです。とはいえ、それだけ枝葉のストーリー作りの才能が小説の作者にあることでもあるんだとは思います。アニメも、見る必要があるかっていうと、ないんですが・・・いい作品です。確か、『とらドラ!』と同じ監督だったよね。あれを日常を描く話にするのは、非常に正しい選択だと思います。

第7位:『ぼくの家族』 南Q太
ぼくの家族

10年くらい前に好きでよく読んでいたのですが、流されるタイプの女の子(もちろん男の子も)とてもよく描けていて、それがここに来るんだ・・・と、いろいろ思うところがあった。この作品単体ではなく、この人の作品を初期から読んでいると、なかなか思うところがある。小池田マヤさんの『すぎなレボリューション』の結末を凄く思いだした。近代社会のシステムに疲れると、ここになるんだなーとしみじみ。

第8位:『神様ドォルズ』 やまむらはじめ
神様ドォルズ 5 (サンデーGXコミックス)

やまむらはじめさんです!という作品です。SFなのに、ぜーんぜんマクロの目的とか見えないんだけれども、とてもいい。やっぱこの人大好き!。女の子が凄くかわいいです。青春です。

第8位:『プリズマイリヤ2WEI』 ひろやまひろし
Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ツヴァイ! (1) (角川コミックス・エース 200-3)

こっ、この作品が、ランキング入りだってーーー!!と驚くような萌&パロディ作品ですが、、、これが、物凄いい!。FATE本編知らなくてもいい!。1期のバトルシーンとか、続々ものでした。まったくFATEのバックグラウンドがなくても、僕はこの漫画好きになったでしょう。間違いなく。いい作品です。この作者、やります!。

第9位:『MOON LIGHTMILE』 太田垣康男
MOON LIGHT MILE 18 (ビッグコミックス)

とにかく、、、スタート地点から、「ここ」まで来る、「ここ」まで描き切る力量に、乾杯です。

第10位:『ボクラノキセキ』 久米田夏雄著
ボクラノキセキ 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

まだ物語の構造が明らかになっていないので、ほんとうーは順位に上がらないとは思うんですが、ごめん、好きなんです。物凄く。高尾がかわゆーてかわゆーてたまりません。男女が逆転して転生するというのは、おもしろいです。これのおかげで『NGライフ』も紹介してもらえました。でも、好きな度合いは、こっちが凄い断トツです。

第11位;『トライマイスタ』 中山敦支
トラウマイスタ 5 (少年サンデーコミックス)

打ち切りが決まってからの、その「捨て身ぶり」が伝説の作品。きっとこれは、絶版になります!!ぜひ買っておきましょう(笑)。いやまーあの展開は、正直たまげたよ。

第12位:『アホリズム宮条カルナ
アホリズム aphorism 4 (ガンガンコミックスONLINE)

構造すっごい悪いと思う。それとマクロ的な背景も全然、まだわからない。でも、おもしろい。うーん、おもしろいんだよ。このアイディアがうまいと思う。こういうバトルロワイヤルものは、なぜそうなったか?の仕掛けが重要で、そこがまだなのが惜しいところ。しかし、その「舞台」は見事。