『カールじいさんの空飛ぶ家』 ピート・ドクター監督 

評価:★★★☆星3つ半
(僕的主観:★★★☆3つ半)

いつものごとくJALの国際の中で見たのだが、、、それが失敗だった。たぶんこの作品は、その映像の美しさであって、「それ」がないとかなり魅力が半減してしまう。ちょっと失敗。しかしながら、全体的に「あの」『モンスターズインク』の監督にしては、僕の中ではいまいちであった。いや、さすがピクサーという素晴らしい完成度の作品なんですが・・・。ちなみに、これは3Dの映画だそうですが、その意味はまったくないんじゃないかな?って思います。たぶんこのカラフルな映像は、むしろ3Dでない方が美しいと思います。

冒頭の少年時代のカールとエリーの出会いから、二人が過ごした70年間を描いた数分間が素晴らしい。
結婚式以降は台詞の無い、この濃密なシークエンスは間違いなく本編の白眉である。
私はもうここだけでウルウルとしてしまった。
よく長年連れ添った夫婦は、出来れば夫が先に逝くのが良いというが、これは逆のパターンになってしまった夫が、人生の最後の冒険へと踏み出す映画。

ノラネコの呑んで観るシネマ
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愛する人を幸せにするというのはどういうことだろか?

上記でノラネコさんが言っているように、この映画の最も美しく濃密なシーンは、少年カールと少女エリーの出会いから二人が過ごした70年間をセリフなしで、見せる部分です。この素晴らしさは、もう圧巻。僕もここで涙しました。しかし、、、その後不満を感じてしまったんです。このカールじいさんに。というのは、この辺は僕の美学の部分だと思うのですが、このエリーという奥さんの本当にしたかったことを、なにもさせてあげられていなかった!という男としてふがいなさについて、、、なんです。死んでから後悔するのは、遅いだろう!と思ってしまって、それ以後、この偏屈さが許せなくなってしまったんです。ちなみに、これは僕の間違いなく誤読・誤解です。いや、実際に人生というのはままならないもの、、、このエリーに子供ができなかったこととか、人生は、なかなか思いのようにはならず、そのなかで二人は、素晴らしい濃密な時間を重ねてきたことが分かります。だから僕のような、「男だったら、もっと愛する人に何かをあげられただろう!」と考えるのは、ある種のマッチョイズムで、たぶん、あまり価値のある批判ではないと思いますが・・・それでも、僕の「美学」として、このカールくんの朴訥さは、好きになれなかった。まぁ、ようするに思い込みです(笑)。これから映画を見ていない人は、僕の解釈は、明らかに偏ったミステイクなので、誤解なきよう。普通は、そうは感じないと思います(苦笑)。あっちなみに、何度も書きますが、僕はとってもこのノラネコさんのところのブログのヘビーユーザーで、この人がいい!といったものは、できる限り見たいと思っている人です。



■阻害されている者が現実に立ち向かっていく勇気を得るためのイニシエーションとしての冒険

さて、老人と少年という構成が、明らかに未来へつながっていくことを映画いているんだと思います。

亡き妻との約束の場所、天空の台地にあるその名もパラダイス・フォールという滝に、沢山の風船をつけた家ごと飛んで行くという展開からも判るように、これはカールにとって亡き妻の後を追う死への旅立ちである。
それが、ラッセル少年という予期せぬ珍入者によって、旅の意味が大きく変わってくる。
ラッセルもまた複雑な家庭事情から、カールとは違った意味で孤独を抱えており、自分を必要としてくれる人、自分の居場所を探しているのだ。
物語の途中から、カールとラッセルはテーブルマウンテンに降り、それ以降はずっと浮かんでいる家を引っ張っている。
それはあたかも、エリーの魂が二人の人生の旅路を見守っている様で象徴的だ。
これは孤独な疎外感を抱える一見対照的な二人が、文字通り天国への旅を通して、逆説的に人生の次のステップへと踏み出す道筋を見つける物語なのである。


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そうそう、これって、テーマ的には、クリントイーストウッド監督の『グラン・トリノ』と同じだと思うんですよね。ただ「継承」がテーマというよりは、「孤独」を抱えた疎外された存在が、お互いに冒険をすることによって、もう一度現実に戦う危害を復活させるという癒し系のイニシエーションになるんだと思う。そういう意味では、少し弱い気がする。いやまー単純に娯楽として考えるのならば、弱いもくそもないんですが。

本当は、アニメーションで、もっと深いところまで踏み込んでほしいとは思うのですが、昨今のアメリカ社会は、ダイヴァーシティーが当たり前になって(黒人の大統領まで誕生したし!)、それなりに配慮する仕組みができて、そういった表現がはまってしまっていて、、、そういうアメリカ映画では、ディズニーの『ムーラン』や『ポカホンタス』のころのような、鮮烈に相手側の視点へ切り込むような作品は少なくなった気がします。そういう意味では、寓話的ではなくそのものずばりのものとかをもっと見てみたいなーと思う今日この頃です。むしろ『硫黄島の手紙』など、アニメではないほうがよほど見事に切り込んでいます。


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