『アリス・イン・ワンダーランド(Alice in Wonderland)』  Tim Burton監督 非常に分かりやすいハリウッド映画〜大人になったアリスの自立を描く

評価:★★★★星4つ
(僕的主観:★★★☆3つ半)

■3D映画を見に行く

ワーナーマイカルズシネマが併設されている巨大モールに買い物に行くついでに、久しぶりに妻と映画でも見ようと、数時間ほど子供を両親に見てもらい行ってきた。この時期だと『第九地区』が見たかったんだが、恋愛映画が基本好きな妻と趣味が合わないので、妥協の産物。とはいえ、妻は『アバダー』を見ていないので、3Dを経験したことがないようで、ぜひとも3Dを経験しようという名目もあった。3Dは、やはり最初映画館で感じたいよね、という名目で映画館に足を運ぶ人も多いと思う。いまって技術の過渡期なんだなーと思う。次々と3D映画が作られて、それが基本になりつつある気がします。とはいえ、この映画が3Dである必要性は、ほとんどなかったんですけどね。でも、初めての導入には、ちょうど良かったかも。

■全体の講評〜ストレートなハリウッド映画(=アリスの成長物語)

全体の好評としていえば、第一に、やっぱり女の子と見に行くと、いい感じの作品ですね。いつも思うのだがティム・バートンは、デート向きの映画を作ると思う。どれも暗くはあるが『シザーハンズ』も『スリーピーホロウ』も、なぜかデート向きに凄く美味しい感じがする。。。なぜだろう?。

第二に、非常に分かりやすいハリウッド映画でディズニー映画だった、ということ。一言で言うと、父親が死んだあとながされるままに生きていた「大人になったアリス」が自分の意思で歩きだす、というアリスの成長物語としてストレートにまとまっている作品。それはもう『ビックフィッシュ』(2003年アメリカ映画)のような、現実と幻想の境目が分からない、少しシニカルにひねった「毒」のある作風が好きなティムバートンにしては、ほとんど彼らしいひねりのないストレートなハリウッド映画だった。そこが、残念!という人と、だからこそ面白い!という人と、見る人によって評価は分かれてしまいそうだ。

ただし、奥さんは『シザーハンズ』(1990年アメリカ映画/原題:Edward Scissorhands)以来のジョニーデップが結構好きなようなので、奥さんには好評であったため「僕の映画を見に行く目的」として非常に価値があった。目的は、普段子育てと仕事に疲れている奥さんに、一時の癒しとヒマつぶしを、でしたので。これが『第九地区』ではそうはいかなかったでしょう(笑)。そういう意味では『書道ガールズ』も候補であったが、あそこまで行くと今度は、エンターテイメントとして確実に面白そうなので、それはそれで、ちょっと、、、と思ってしまった。

シザーハンズ (特別編) [DVD]
スリーピー・ホロウ [Blu-ray]

■この映画の面白さとは?〜ストレートな夢見がちな少女が現実に踏み出すビルドゥングスロマンという王道の脚本が不思議を打ち消す

ティム・バートンルイス・キャロルという、不思議な世界と異形の生物たちをこよなく愛する二人のファンタジー作家による、世紀を超えたコラボレーション。
アリス・イン・ワンダーランド」というタイトルながら、これは「不思議の国のアリス」でも続編の「鏡の国のアリス」でもない。
少女時代の大冒険から13年後、大人の世界へ足を踏み入れようとしている19歳のアリスが、再び不思議の国を訪れるという後日談的なオリジナルストーリーとなっており、物語は「鏡の国のアリス」に出てくる、鏡文字で書かれた「ジャバウォックの詩」という本がベースとなっている。

http://noraneko22.blog29.fc2.com/
アリス・イン・ワンダーランド・・・・・評価額1600円』 「ノラネコの呑んで観るシネマ」より

この作品は、まぁ一言でいえば、19歳の「大人になったアリス」が、夢見がちな現実逃避の少女から、自分の意思で歩く現実から逃げない女の子になるというお話なんですが、、、、わかりやすいです、ほんとぉーにわかりやすい(ちょっと斜に構えた感じのセリフで・・・)ので、逆に、その骨太のわかりやすさが、ルイス・キャロルの原作の持っていた、薄さと深さの紙一重の「どこに現実があるかわからない」といった感じの「不思議感覚」が、消えてしまっているような気がする。ジェームスキャメロン監督の『アバダー』と同じように異世界の造形は素晴らしく見事なんだが、上手く言葉では言い表せないファンタジー分(=ここではないどこかを感じるセンスオブワンダー)が、凄く薄かった気がします。

アバター [初回生産限定] [DVD]
ビッグ・フィッシュ コレクターズ・エディション [DVD]

もちろん、この物語の方向性には異論もあるだろう。
キャロルの原作は英国らしいナンセンスさ、翻訳者泣かせといわれる言葉遊びが溢れ、意味が有りそうで無く、無さそうで深読みすれば見えるという難解でシュールな味わいが魅力だった。
子供たちは不思議な世界観やキャラクターたちを楽しみ、大人たちはこの世界に散りばめられた知的な遊び心を楽しむという、読者の年齢によって異なる受け取り方ができるからこそ、百年以上も世代を超えて親しまれているのだと思う。
その意味では、世界観やキャラクターは共通するものの、原作に比べれば圧倒的にわかりやすい“ハリウッド映画”であるこの作品はやや趣が異なる。
アリス・イン・ワンダーランド」は、19世紀に書かれたファンタジーの金字塔を、21世紀の技術と新解釈で蘇らせたティム・バートンらしい良く出来た娯楽作と言えるが、特に原作のディープなファンにとっては物足りなさを感じるかもしれない。

http://noraneko22.blog29.fc2.com/
アリス・イン・ワンダーランド・・・・・評価額1600円』 「ノラネコの呑んで観るシネマ」より

ファンタジー分が薄かったのは、ハリウッド的自己成長の王道の物語は現実逃避の否定なわけで、脚本の意図に「不思議さ」が打ち消されてしまっているんだと思う。ここを残念と見るか、わかりやすくなった!と見るかは、難しい気がする。僕はどれくらい売れているかが分からないが、むしろ普段のティムバートンよりも、売れそうな気がする。理由は単純。わかりやすいからだ。とても教育的に正しい感じがするでしょう?これ。このへんは、マイナーとメジャーの境目の問題なので、一概にどちらがいいとかは言えない気がしますよ。僕は、マイナーとは言えないけれども、ある種の、偉業を愛して、単純に現実を現実としてみるのではない斜めに構えた視点で世界を眺めるマイナー視点のティムバートンこそを愛しているので、少し残念な気はしますが。