『ともだち同盟』 森田季節著 ここから「どこ」へ向かうのかが楽しみ

ともだち同盟

評価:★★★3つ
(僕的主観:★★★☆3つ半)

「ビターダークな青春ミステリー」と帯にあるが、ライトノベルっぽい味付けに、必ずしも予定調和のカタルシスではないオチという組み合わせは、とてもマーケティング的には狭い範囲の志向だと思う。たしかに「ビター系」だ。でもこれって「売り方」が凄く難しい。そもそもどういうマーケティング戦略を考えてこの本を書こうと、売ろうと思ったのかが、不思議だ。これって企画通りにくい類のものだろうなーと推察する。それも、ハードカバーで販売したというところに何となく意気込みを感じる。ライトノベルというには、物語としてバランスのとれた(ようはマンネリ?)めでたしめでたしにならない。かといって、「文学」と言い切ってしまうには、著者の出自からくるであろうライトノベル的な要素が多い。


僕は全体の読後感は、かなりよかった。特に、こういうビター系は久しぶりに読んだので。けれども、そもそも「誰が最初に手に取る」のだろう?という疑問は、やっぱり感じてしまう。「そこ」が凄く不思議な作品。特に、この内容で「ともだち同盟」を結ぶ3人の千里、朝日、弥刀の「挿絵を入れない」というのは、大きな判断だったと思う。「どう売りたいか?」の議論に遡るもの。というのは、この作者は、ライトノベルの世界では生きられないと思う。かといって文学というか一般文芸の世界で生きるには、もう一つ軽すぎるだろう。だから、この種の微妙な境界の領域で固定ファンを作って、秀作を書き続けて、化けるのを待つしかないと思う。そういう意味で、ハードカバーといううのは、わかる。


ハードカバーということもあり、単純な萌えとかそういう予定調和なモノではないはずだ、という想定を立てて呼んだが「ともだち同盟」を結ぶ3人の千里、朝日、弥刀のうちの一人がいきなり自殺したところで、話は急展開。ぐいっとひきこまれた。「誰が手に取るか?」という最初の問題を除けば、なかなかに読み応えるの物語。しかし、この種のビター系?な「不思議」さを売り物にする青春小説は、大きな問題点を抱えると思う。というのは、ここでは、いまだに3人の特に、千里の動機が、僕にはよくわからない。この「わからなさ」が、感性とか言って売りのポイントになる。ある種のホラーともミステリーともいえる不可思議な雰囲気は、この「意味不明さ」に遡る。そして、作者は文章もうまいので、それをよくまとめている。短いページ数?なのかな、僕は短く感じたが、展開がうまくとてもテンポよく読めた。が・・・・著者の森田さんだけではないが、この種の小説は「動機がロジカルに説明できない」感じがする。言い換えれば、説明できない「感性」に頼っているので、これを量産し続けるのが難しいし(どれも同じようなテイストになってしまう)、著者が作家として成長していくのに必要なテーマ性に欠ける感じがするんだ。だって、千里が究極的には何がしたかったのか?ってのが、僕にはよくわからない。また、なぜこれほどの激しい情感を持つ性格に「育ったか」ということがわからない。enfant terrible系のテーマって、感性に頼りすぎる思うんだよね。これでそれなりに量産できるのは、、、「映画」とかならできるかもしれないが、内面を描写する小説では、どうしても一発屋的な印象を捨てられない。僕のイメージは、フランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちは』や、サリンジャーの『ライ麦畑で捕まえて』のようなカテゴリーを思い出させるが、「この後」というのは、ないものなんだよね。というのは、この先って、主人公たちの「自殺」か、現世で生きることの諦めとか断念という、ある種の、生きていることの無意味さを前提にしている世界観だからだと思う。こういう作家は、このテイスト「だけ」を追求していく、マイナーな売れない作家になっていくか・・・・それとも、プロの小説家として違う幅を見つけ出せるか?が勝負になるんだと思。僕は、長編の物語が好きなので、こういう動機の説明がしにくい感性に頼ったものは、どうしても評価が下がってしまいます。

とはいえ、面白かったのも事実。