物語三昧 2010年ベスト 漫画部門

恒例のテキトー物語三昧2010年のベストですが、これは「僕が2010年に読んだ」モノの中から選んでいて、2010年に出版されたという意味ではありません。故に超主観です。またそもそも去年とかにランクインしているものは、基本的にはランキングに乗らないか、乗っていても低めの順位になります。たとえば、ネギまやランドリ、風雲児などは、不動の上位にいますが、あまりに毎回なので、載せないとかそういうことはあります。また、3位以降は、事実上あまり順位は関係ないです(苦笑)。膨大な漫画を読んだ中からの僕の今年の2010おすすめセレクション、と思ってください。

第1位:『聖☆高校生』 小池田マヤ
聖・高校生 11 (ヤングキングコミックス)

12年間の果てに遂に完結。感無量です。僕は漫画史の残る大傑作だと思います。日本の1980−90年代の「自意識の告発と解体」という時代性の極められた作品。そして、男性作家でなく女性作家の描く時になぜか見られる、これほどの許されない罪と罰を抱えながら、着実に前へ進んでいく「解放感」の自由さ。そしてそんな難しいテーマを超えて感じられる、物語としての面白さ。天才・鬼才としかいいようのない極端な闇と陽だまりの温かさの同居する小池田マヤさんの集大成。いじめられっ子で、ヘタレだった高校生の聖の20歳までの軌跡。星でいうと、10個の大傑作です。文学性としての深さと物語エンターテイメントの二軸を同時に成立させている超ド級の作品です。いいから黙って買いやがれ!(という気分になります)。

第1位:『バーサス・アンダースロー』 相田裕

なぜか胸に響いて何度も読み返している。清々しい「断念」を感じるからだと思う。人は誰しも、全能感に満ちていきているわけではなく、何かをあきらめた、とか、自分自身の卑小さにくじけて、そしてそれを抱えながら、ぐっと我慢しながらも、明るく前向きに生きているものなんだと思う。非常に短い作品で、まだ4冊しか出ていない同人誌なのだが、僕は凄く凄く好きです。ラジオで、ゆうきまさみさんの『究極超人あーる』のような日常を楽しんで生きられることが、学生時代の頃の夢だった、あれが僕には楽園に見えた、と言ったことがある。けれども、たぶん、正しい形は、こっちなんだろうと思う。逆にまだからこそ、断念を知り、それでも日常を前向きに楽しく生きていこうとするこの年齢だからこそ知れる苦みがある。ぜひぜひ商業化して、もっと続きを書いてほしいです。珠玉の作品です。

第2位:『スキエンティア』 戸田誠二
スキエンティア (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

短編集が故に、『聖☆高校生』ほどのボリュームと時間の流れ物語の展開のシークエンスによる「厚み」がないのに、全く同じレベルの印象を感じさせる、深さ。この作品もエンターテイメントには珍しく光と闇が同時に凝縮されている。たった数分で読めるであろう短編に、世界の何がしかの実在感を感じられる、凄さ。考えてみれば、ミクロがきわまっているのに、マクロを超えた世界を感じさせるという意味では、そこを突き抜けている作品なんだろう。

第2位:『とある科学の超電磁砲』 冬川基
とある科学の超電磁砲 5 特装版―とある魔術の禁書目録外伝 (電撃コミックス)

冬川基さん。この人上手過ぎる。仮に鎌池さんが脚本を書いているにせよ、漫画としての上手さが、異常に上手い。僕のような素人が見てもめちゃめちゃうまいことがはっきりわかる。それに、彼の書くキャラクターのかわいさがあったればこそ、レールガンの外伝がこれほど面白くなっていることは間違いない。オリジナルの小説の漫画化ではないので、ある程度脚本ベースに自由に書けるとは言え、外伝で原作があって、という作品で「ここまでオリジナルの輝きを放つ」作品というのは、本当に珍しい。この存在で、本編が何倍も照り返しで輝くので、見事な作品だよ。同人誌作家の頃の作品も驚嘆するほど、上手いし、面白い。『よつばと』の同人誌なんか、あれ以来、完璧にあの流れで脳内補完してしか読めなくなってしまったよ。ほんとめちゃくちゃ素晴らしい漫画家さんです。僕の中で、メディアミックスがオリジナルより凄いと思える例は見たこと無かったんですが、これはその稀有な第一号です。

第3位:『乙嫁語り
乙嫁語り 2巻 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)

作者の世界への偏愛をまざまざと感じさせる素晴らしい作品。中央アジアの物語なんて、他にほとんど見たことないもの。通常ある何かへの偏愛は、他の人にはさっぱりわからない凝縮さで表現されるものなんですが、ヴィクトリア朝のメイドを舞台にした作品もこれも、万人にわかりやすく開かれている物語として描けるところ、本当に秀逸。一言でいえば、民族衣装好きやねん!という「だけ」と言っても過言でもないが、それが生き生きと息づいている「世界」と「日常」を余すところのない密度の重厚さで書きこまれている・・・本当に「好きで好きでたまらないっ!!!」と狂うぐらいでないと、ここまでは描けないと思うのだ。こうした凝縮したシーンへの偏愛は、普通物語になりにくいはずなのに、地味な話をぐっと深まって物語にする・・・・本当にこの作者は、素晴らしい作家さんです。大好きです!。・・・ちなみに、凄くすがすがしい初々しい恋愛がいつもメインなのだが、実は熟れきった深みのある愛も随所に書かれていて、、、この人、めっちゃ恋愛について大人だなーといつも感心します。

第4位:『もやしもん』 石川雅之
もやしもん(8) (イブニングKC)

この本でオクトーバーフェスタの存在を知った。いつか行くぞ!と思っていたが、今年のドイツ出張で、まさに!という体験が出来て、ああ本当にこういう世界が実在するんだなーと関心。8巻はビール好きの僕としては、バイブルです。何度も何度も読み返して勉強しています(←まじで)。この密度で話が続いていくのならば、ほんと大したもんだよ、これと思う。

第5位:『ボクラノキセキ』 久米田夏緒
ボクラノキセキ 3 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

魂の転生ものなんですが、この系統の作品に僕は弱い。なぜだろう?。そこまで「僕は神から選ばれた戦士だ!」とか思い込むほど子供ではないはずなのですが・・・(苦笑)。でも好き。ただ、絵柄が物凄くすきというのはあるかもしれない。僕は絵柄でほとんど「入れるか入れないか」が決まってしまうので、好きな場合は、いろいろなものをあっさり超えてしまう。この作品の描く女の子は、僕は凄い好きです。大好きです。それで読み始めたといっても過言ではないくらい。いまだ完結していないので、評価のしようがない部分はあるんですが、とにかく「好き」って感情は理屈を超えるので、この順位。

第6位:『EDEN〜It's an Endless World』 遠藤浩輝
EDEN(18) <完> (アフタヌーンKC)

SF作品としては、オーソドックスオブオーソドックスで、『結晶世界』とか、さまざまなハードSFのバックグラウンドをもちながらも、ギリギリのラインで、マクロの方向へぶっ飛んでしまうSF的帰結に至らないのは、ある種の肉感的な部分(女の子かわいいし、柔らかそーだもん)や南米的な終末に彩られた極限の世界での人間関係が、作者は好きなんだろうと思う。ごみための中に「こそ」ある真実の関係や、その中で匂う暴力と肉感的な感覚が、彼を飛躍から逃れさせているのだろうと思う。これは傑作だった。ケンジだったよな、彼の半生や、彼に雛のようにつき従う黒人の女の子のエピソードが凄く凄く好き。健康的な愛で、いいなーと思う。

第7位:『超弩級少女4946』 東毅
超弩級少女4946 4 (少年サンデーコミックス)

『まおゆう』との関連でこの人の作品に出会えたことは、ここ数年の大収穫の一つ。少年漫画にあるまじき、「恋愛の不可能性の設定」を設定しながらラブコメをしようとするこのバランスのギリギリのところが、見事。この作品で自らの妹好きがはっきりと自覚された感じ。

第8位:『進撃の巨人』 諌山創著
進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)

ミカサがかわいくてたまりません。マクロの謎の部分ばかり注目ていていたのだが、結局は基礎的な人間描写が凄くうまいからこそ、SFでありがちな大味な設定が、深く微細に読者を引きずりこませるリアリティを持つんだということが2巻目でよくわかってきた。こういう重厚な作品は、本当に時間が楽しみです。

第9位:『あめのちはれ』 びっけ著
あめのちはれ 3 (B's-LOG COMICS)

雨が降ると女の子になっちゃうというジェンダー置換もの。もともと、僕はこの作者の書く「女性」がホントかわいくて、たまらないのです。もともとBL(ボーイズラブ)の作家なのですが、『真空溶接』のころ男同士のラブを書いているんですが、そこにちょっとだけ出てくる女性が異様に好きだったり、なぜだろう?。この作品も、女の子自体はかわいいのですが、男の子から女の子に換わったほうが、何倍もかわいく見える???この変態的意識は、なぜ生まれるのだろう?(笑)。なんちゅーか、ほんと疑問もたないで悩まないで普通に生きているよなーこの連中と、まじめに考えると凄くおかしいのですが、でもなんか物凄く自然案ですよね、、、このへんに鍵がある気がする。

第10位:『百舌谷さん逆上する』 篠房六郎
百舌谷さん逆上する(5) (アフタヌーンKC)

なんというか、自意識の空転が、えっそんなところまで突き抜けて転がってしまうの?というほど空転が大回転する漫画です。時々コラムのように作者の日常(なのか?)がでるんですが、この自意識の空転っぷりには、ほんとうに癒されます(笑)。近くにいたら物凄いうざいと思うけれども。これが芸になるのだから、見事な昇華だなーと思います。

第11位:『ベイビーステップ』 勝木光
ベイビーステップ(13) (少年マガジンコミックス)

いま周りを巻き込むスター性のある選手と対戦中。本当に地味で地味で、ついになっちゃんと恋人に!!とか、めちゃめちゃにやける展開こそあるが、やっぱりこうやって地味に沈んでいくかなーと思いつつも読み続けていると、松岡修三さんバリのなんと言うか「凄い引き込まれ感」が最近やってきて、地味な展開は何一つ変わらないのに、、、やっぱすげぇこの作品と、価値を新たに見直した。

第12位:『高杉さん家のおべんとう』 柳原望
高杉さん家のおべんとう 1

この作者のなんというか御伽噺的「めでたしめでたし」の雰囲気が凄く好きなんですが、ひさびさに柳原さんワールドに触れられて、感無量です。デヴュー作からのファンなので。僕が中高生の頃にLALADXとかに出ていた作家さん(今は大御所が多い)の新しい作品がなぜかそこかしこで見るので、少女漫画熱が最近戻ってきそう。なぜかな?。これも『よつばと』とか高野真之さんの『』とかの類型の作品なんだと設けれども、ギリギリ?多分、家族がテーマになっているんで、ほんわかするんだろうと思う。

第13位:『うそつきパラドクスきづきあきら+サトウナンキ著
うそつきパラドクス 4 (ジェッツコミックス)

ええ作品やー。巨乳への愛を凄く感じるよ(笑)。なんというか、面白い作品になったよなーと思う。というのは自意識の告発系のイタイものばかりがメインテーマなので、長編や中篇がかけない作家なのかなと思っていたので、恋愛ものをイタイ自意識告発なくして、こうして続けられるのはうまいなーと思う。主人公の男は僕は凄い好きだよ。彼はだって、ぜんぜんイタクないんだもの。非常に大人であって自意識が揺らいで壊れているわけではない、けれども、それでもいろいろな出来事で強く感情に揺さぶられるものなんだもんね、人間は。

第14位:『ライアー×ライアー金田一連十郎著
ライアー×ライアー (1)(デザートKC)

これも変身もの。血のつながらない姉(大学生)が、女子高生のカッコをして歩いていて弟に恋されちゃったというドタバタコメディー。『ニコイチ』サブストーリーを別の物語にしたって感じ。確かにあっちの話も、そのまま本編クラスになるよなーとは思っていたんで、とてもうれしい。よく知らないのだが、この作者物凄く安定感のある物語を作るなーと感心する。他の作品もたくさんあるようなので読んでみたいよ。

第15位:『不思議くんJAM』 小池田マヤ
不思議くんJAM 2 (アクションコミックス)

悲しいことに『聖★高校生』はついに終了してしまったけれども、まだこっちが連載中なので、これも楽しみ。はっきりいってかなり趣味はいっている輪廻転生もので、これ、、どこまで続けられるのだろうか?というようなマニアックかつマイナーな印象なんだけど、きっと、小池田マヤさんやってくれるぜ!と祈っています。様々な人間が輪廻の果てに現世に転生してきているようなんだけど、輪廻物の面白さは、過去からディープに絡まる人間関係の深さなんだけど、この面白さが際立つには、過去の人格や関係性の複雑さを再現したりする作者の力量が試されるということで、十分可能であろう作者なだけに、凄い楽しみです。

第16位:『海街diary 3 陽のあたる坂道』 吉田秋生
海街diary 3 陽のあたる坂道 (フラワーコミックス)

これについては、もう素晴らしいとしか言いようがないね。

第17位:『ちとせetc.』 吉住渉
ちとせetc. 1 (マーガレットコミックス)

妻のお気に入り。&僕もデヴュー作からの大ファンなんで、ひさびさに、少女漫画の世界の戻ってきてくれたので(ここ最近大人なやつが多かった)凄くうれしい。いやーこの人の書く女の子ってかわいいんだよなー天真爛漫で。けどふとおもったんだが、僕はこの人の主人公の相手役の男の子のライバルになるやつがめっちゃ好きになるケースが多いと思う。だって一哉よりカニ君のほうが良くなかった?。

第18位:『エデンの檻』 山田恵庸
エデンの檻(10) (少年マガジンコミックス)

意外や意外巻を重ねて、10冊を超えて、、、『LOST』とか『7SEEDS』系のなんちゅーか良くある系統じゃんと思いつつも、実は凄く面白い作品なんだよね。マガジン的少年マンガの色を凄く残しながらも、週間の漫画としてとても面白い。『進撃の巨人』と同じように、地味な基礎の部分が良く安定しているってのがあるんだろうと思う。良くある設定何がその、良くあることの『よさ』が色濃く出ている作品。僕は好きです。

第19位:『マブラヴオルタネイティヴトータル・イクリプス』 イシガキタカシ
マブラヴオルタネイティヴトータル・イクリプス 1 (電撃コミックス)

やっぱり本編に比べるとそもそも絵を見たことがない世界なので、こっちのほうがぐっと入るなー。本編の漫画は、読むとゲームがしたくなってしまうので、繰り返し読み返したりはしないんだよね。けど、TEは繰り返し読むなー。なんというか、いまはマヴラブワールドの本編以外の時系列に凄く関心があるので(凄いたくさんSS読んだんだよ)その他の情報量を探してしまうんだよ。ちなみに、この作品も、巨乳への愛を感じる作品だ。

第20位:『テルマエ・ロマエ』 ヤマザキマリ
テルマエ・ロマエ II (ビームコミックス)

なんちゅーか、非常に不思議な漫画。これを単独で読んで、どこを面白いと普通の人は感じているのだろうか?と疑問に思う。いや僕はそもそもローマ世界が盛り上がっていることや基礎知識があるんで、ここで描かれていうる(かなり教養が基礎にある作品だぞーこれ)ことの意味が良くわかるんだけれども、一般の人がそれをわかっているとはとてもじゃないけど思えない。ではどこが?ときかれると、マイナー形で面白く読まれる作品ではあると思うが、こんなメジャーになるとは思えない感じなんだよなー。不思議な作品です。

第21位:『ニコイチ』 金田一蓮十郎
ニコイチ 8 (ヤングガンガンコミックス)

『ライアーライアー』と同時に読むと、おおなるほど?と思う部分がたくさんある。お母さんがお父さんだった!という本当にもって意味不明な作品なんだけれども、それがなんちゅーか安定した物語で読める不思議なコメディー。この作者、不思議な人です。というのは、物凄く常識人で、人間理解も大人で、安定している匂いがものすごく匂うんですが、なのに書かれている物語がぶっ飛んでいるんだよね。ぶっ飛んでいるんだけど、なんというのだろうな、厨二?という言葉でいいのかな?(意味わかっていないですが・・・)、そういうところがまったくないのが凄く不思議。こんなにおかしな世界なので、ぜんぜん不健全なにおいがしないのが不思議。

第22位:『7SEED』 田村由美
7SEEDS 18 (フラワーコミックスアルファ)

ちょっと丁寧に書きすぎてだらだらな感じがしますが、それでもまだ18巻なんだなー。この系統のものはあまりに長く描きすぎると、謎が謎過ぎて、めんどくさくなってしまうところがある。そういう場合は『エデンの檻』ようなHなシーンとか小説話をいれて盛り上げるんだけど、少女漫画であるためか、それともお話が深刻過ぎるのか、微妙に冗長に感じてしまっている。ただ、完結して一気に読んだらとてつもなく面白い作品であろうことは、間違いない。