『社長が戦わなければ、会社は変わらない』 金川千尋著 名経営者の戦略の打ち手

社長が戦わなければ、会社は変わらない


日本が誇る名経営者、信越化学の金川千尋さん。この人を僕は尊敬していて、なるべくこの人の思考方法や打ち手の「ロジック」を理解しようと指標にしている人の一人です。先日、腹心の一人だった金児昭さんの『Mr.金川千尋 世界最強の経営』を読んだんだけど、全然おもしろくなくて、というか、金川ウオッチャーにしてみると「知っているエピソード」ばかりで、「本人でない視点から見る」という面白さはな気にしおあらずだけれども、やはり、主観の言葉を通して語られる「凄味」なしには、しょせん平凡というか、血と肉がはいっておらずいまいちだった。ので、本人の本を買ってみた。


結構前に出たものだが、塩ビの大投資を実施するにあたって、アメリカに投資をするロジックを説明したくだりは、「さすがだなー」と思った。簡単に言うと、コモディティの利幅が薄く数で稼ぐ商売を実施するには、最も低いコストで実施するオペレーションエクセレントが追求されるが、それを、なぜか「もっとも人件費が高いアメリカで実施する」というのだ。いいかえれば、薄い利幅で徹底したローコストオペレーションで、「長く経営を実施して」かつ「経営すること以外のリスクにとらわれない」でやっていくには、カントリーリスクが最も低いことが必要だ、ということだ。カントリーリスクというのは、イラン革命など独裁政権などの不安定な国の政治体制や仕組みが一気に変わってしまうことを指している。


2011-01-29 アラブの政変で負けようとしているのは誰なのか?
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20110129


いまエジプトでこういうことが起きているのだが、これって、まさにカントリーリスクの典型例。これがもしうまくいっちゃったら、過去の反米かつイスラムの盟主としてのエジプトが復活する可能性がある。そしてエジプトを中心とした「反イスラエル・反米」で連携した広範なイスラム連合体が生まれる可能性がある。いいかえれば、イランを軸にあの地域の大再編が起きてしまう可能性があるってことだ。ここらに、凄まじい投資をしていた日本企業とか欧米企業は、いま、、、たぶんものすげで冷や汗状態だと思うんだよね。それに、フェースブックtwitterなどのメディア媒体が、独裁政権に対して革命や民主化の契機になる可能性があるとしたら、全世界でいま一番ヤバいのが中国だ!ということになる。逆に言うと、「これ」を見越している中国共産党とそれを支える官僚群の優秀さ、慧眼には恐れ入る。アラブ諸国は基本的にわきが甘いからね。


かなり前の本なんだけど、いろいろ思うところがあるけれども、アメリカに投資をするということとカントリーリスクの考え方と、今回のエジプトの話が重なって、、、おお、こういうことか、、、と思った。