hakaiさんのコメントが面白かったので掲載


hakaiさんの書いてくださったコメントがとても面白かったので、本人の許可をとって掲載させていただきます。

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お久しぶりです、あの災害からまだ一週間足らずしか立っていないというのも不思議な感覚ですね。

前々から語られていたこのテーマには注目しておりまして、色々な文献を読み漁っているのですが、何分基礎となる勉強の基礎部分が足りず、うまく纏めることができないのが歯がゆく感じています。 プッシュされている「風雲児たち」を読むと分かるのですが、学生時代に日本史で教えられた制度や仕組みは、それを取り入れる社会背景の理解がないと、その必然性がまったく理解できないんですよね。明治維新を描くために「風雲児たち」が関が原から出発したように、日本人の歴史的な物語(根本的なもの)に触れようと考えると、近代的な思想をきちんと整理したうえで武士の社会に潜っていかないといけないのかなと考えて勉強を始めてみたものの、まず当時の文献が読めない、弱った(笑 といいますか、流石にこのやり方は一個人の趣味レベルを大きく逸脱しているので「風雲児たち」のような読みやすく解説している初学者用の本を探してみたのですが、これもなかなか……
そんなこんなで、ちょいとネットで気分転換をしていたら、これはなかなかというものがあったので紹介してみようと思います。


まぁやる夫系作品なのですが、風雲児たちの亜流の流れというか、まぁこういう砕けた入門書もあって良いのではないかと思いまして。


「やる夫が吉良邸に討ち入りするようです」(まとめサイト:泳ぐやる夫シアター)

「【綱吉・白石・吉宗 他】やる夫たちと学ぶ江戸時代」(同作者さん・まとめなし)


忠臣蔵赤穂浪士事件を題材にされているのですが、当時の武家の背景を描くために途中から元禄時代とはどういう時代であったか」という点に触れられています。簡単に説明すると、武断政治から文治政治に移行するために綱吉がどういう改革を行っていたかを解説されています。生類憐みの令など色々と評判の悪い綱吉ではありますが、彼の改革案が後の幕政の基礎となっている点など、中々読ませる内容になっています。いわれて見ると、荻原重秀の貨幣改鋳など悪手の代名詞のように教えられてきましたが「実物貨幣から信用貨幣へのシフト」という視点がないと、まったく理解できないんですね。実際の布告文の内容を見ると色々と考えさせられます。

上記作品で江戸時代の武家社会の萌芽はどのようなものかを語る際、綱吉が儒教を大きく取り上げたことが書かれているのですが、そもそも日本の儒教の基を作ったのはいったい誰でしょう。 ペトロニウスさんが「『韓国民に告ぐ!』金文学著」で述べられているように、日本の儒教規範は韓国から取り入れる際に取捨選択しているのですから、間違いなくそこには何者かの意思が反映されていないとおかしい。(2005年の記事・もうそんなに経つのか!?) このやる夫作品によると、林羅山のお師匠であった藤原惺窩と、朝鮮出兵によって連れてこられた捕虜である姜?の出会いが、日本儒教の萌芽の第一歩であるとしています。


「新・やる夫の関が原戦線異常アリ」

(まとめサイト:やる夫短編集→途中から「それにつけても金のほしさよ」に引継ぎ)


元々は関が原の戦いの前後を小早川秀秋を主人公に(!?)置き、あの有名な関が原の裏切り劇にどうして至ったかを描写するスタイルをとる……はずだったのですが、如何せん秀吉や家康、石田三成の存在感が大きすぎたこと。また奥州を初めとした他の大名たちが面白すぎる濃い連中であること。そもそも秀秋が光り輝く瞬間は2〜3箇所くらいしかないことから、彼は殆ど空気のような存在に落ち着いておりますw


とはいえ、風雲児たちが関が原から始まったことを考えると、秀吉の政治と関が原に至るまでを綿密に描写してくれるというのは歴史の継続性を探る上で非常に有用であると思われます。つまり戦国の覇者となった秀吉が、戦国大名というひじょーーに濃い連中をどう統率していったのか。そして「関が原の戦い」の意味とはどういうものかという点がポイントとなります。武家社会と公家社会の折衝の意味。それから珍しいことに朝鮮出兵についてもきっちり正面から書かれているのがポイントになります。

書いているうちにちょっと量がとんでもないことになったのでメールのほうに続きは書かせていただきます。
長文失礼しました。


(以下メールより転載)


以上作品の経緯を踏まえると、言っては何ですが、儒教が入る前の武士たちの生活というのは非常に泥臭く、教養というものとはちょっと無縁の連中が多いように見受けられます。

モーニングで連載されている「センゴク」という漫画がありますが、想像するにあの作中にあるようなむさ苦しい社会であったのではないでしょうか。

では、その武士たちの源流は……と遡ろうとしましたが、山城国一揆辺りを分かりやすく紹介してくれる作品がありませんでしたw 
まぁ分からないでもない。
戦国大名の勃興をやろうと思えば、室町時代の知識がないといけない。
となると義満の治世の意味や、専門家ですらわけが分からない大混沌時代である南北朝について、自分なりの見識をまとめないといけないことになります。
そこまでいくと光圀公の大事業になってしまう。

ただ、その前の鎌倉時代。 つまり公家の社会から武家の社会への変革点についてはきっちり描写されている作品がありましたのでご紹介します。


やる夫は鎌倉幕府の成立を見るようです(まとめサイト:泳ぐやる夫シアター)


吾妻鏡や当時の日記を題材とし、「足利氏」を中心に置いた平安〜鎌倉徳政についてまでを綴った大作です。
太平記において足利尊氏が対北条の大将として期待されて持ち上げられ、最終的に決起にいたるわけですが、考えてみると、何故「足利氏」がその役目を負うことになったのかについて、教えられた覚えがまったくない。 
それどころか、足利氏という一族が、鎌倉初期にどのような役割を果たしていたかすら知りません。 
それは足利氏が頼朝から「特別扱い」をされていた一族であったこと。
そして、彼ら一族は北条氏とも連携をとることで粛清を免れた一族であったためだ……という物語を幹においております。

また墾田永年私財法による土地の私有化による律令政の崩壊と、代官制度の持っていた意味。
平将門藤原純友の乱に見える中央政権の支配力の弱い地域における軍閥化の意味。
棟梁の役割と武士団の総大将の意味。
源頼朝のチートじみた政治運営と、彼の死後において行われた内ゲバと大粛清の意味。
北条泰時が掲げた徳政による政治と、それを維持しようとして四苦八苦した時頼の苦闘。
そして北条特宗政治の崩壊に至っていく物語を、分かりやすく解説してくれています。
また、室町時代に台頭してくる悪党や国人、守護大名の源流というべき連中がこの頃から頻繁に顔を出しているので、これから室町を勉強しようという人にとってもいい教材に成るかと思われます。

長々とここまで書いてきましたが、結論として何を言いたいかというと、これらの作品群を追うことで、室町時代とその周辺の除き、鎌倉から関が原までの武家の物語を構築出来るのではないかなということです。
とにかく長い話なのでもう2〜3回読み直さないといけないと思っていますが、1回読んで大体理解できたことは

1.武家において、何より大事なことは家(一族郎党)の存続と領地の死守で次に面子。
主君への忠義は基本的にその次。

家のためなら、他家に嫁がせていた娘であっても見殺しにするし、簡単に離縁する(特に鎌倉時代)。


2.鎌倉の作者さん曰く、当時の武士は基本的にチンピラと考えるとしんなりくる(らしい)。面子を非常に大事にし、血の気が多く、ちょっとしたことで刃傷沙汰になっていた。
センゴク」でも脇差に足をぶつけたら、因縁吹っかけられたとして切り殺されても文句は言えないとか、そういう描かれ方をしてましたが、まさにそんな感じ。
逆にそういう連中を教科しようという試みが信長の茶の湯であり(へうげもの)、公家の作法や古今伝授などの教養と儒教を取り込むことで、武断政治から文治政治へ移行し「戦国の世」を終わらせる必要があった。
(チンピラを教育して官僚に仕立て上げる教育の必要性)

3.官僚機構が整備されていないため、君主が実際に動かせる家臣は非常に少ない。
北条義時や秀吉はこの点で非常に苦労している。
(秀吉の場合、彼に振り回された石田三成が困り果てました)
直々の家臣が少ないので、少数の有能な家臣が気の毒になるほど施策のために奔走することになる。
そして新参者や熱心に働きすぎる者は恨まれ、君主が死去した後に大バッシングにあって粛清される。
逆に家康は秀吉の命によって江戸に転封されたことで、北条家が作り上げていた官僚システムと家臣団をそのまま吸収していたことが、後々非常に統治システムを作り上げる上で有利になりました。

といったところでしょうか。
国民感情の掘り下げという点でみると、大分離れてしまったw
とはいえ、民族的な下地としてのものが、現代でも慣習的な部分でちらりちらりと姿を見せているように思えます。

ペトロニウスさんは、大学時代までの教養からの近代的思想的な視点から、よくそこまで掘り下げることができるものだと、常々感服させられております。
理知的な視点や理論から外れた、感情的な理論にならない部分を歴史を遡ることで日本人とは何かという点を併せることで補完できるのではないかと試みてはいるのですが、如何せん何分文量が多すぎて、まだうまく纏めることが出来ません。

やる夫系作品はAAイメージに印象を誘導される恐れがあること。
ある程度オタク的な知識が必要になること。
作者の主観が作品の全面にでることで、その史観に誘導される危険性があることなど万人に薦められる方法ではありません。
とはいえ、ネット上でフリーで読めるという利点があること。
上手な作者が作品を作れば、既存のイメージを壊した上で、歴史を見る目に新しい視点を生み出す一つの契機になることなどの利点もあります。
あまり大上段に構えず、歴史物語を楽しんでみようかという軽い気持ちで呼んでみるのも一興かと。

それでは長々と失礼致しました。


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僕は上記のやる夫シリーズを読んでいないので、なんともいえないが、僕が考えている問題意識と凄く重なりそうな雰囲気があるので、面白く読ませていただきました。情報提供多謝です。とても興味深いので、探して読んでみるようにします。