2011年 物語三昧なんちゃってベスト 小説部門

第1位:『スロウハイツの神様』 辻村美月著
スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

今年の圧倒的ナンバーワンは、『スロウハイツの神様』と『少女不十分』の抱き合わせだろう。同型のテーマ。明らかに西尾維新が『スロウハイツの神様』の触発を受けているなど、同時に読むのがいい作品です。ご都合主義にの上に、読む人を選ぶような作品だけど、この作品で感動して泣けない人は、どうも僕とは本当の意味では友達になれないというのがはっきりわかったほど、僕にとっては魂を揺さぶる作品。ご都合主義すぎる、という批判というか、受け付けない理由はたくさん聞いたが、この世界が「ご都合主義」で行けない理由がどこにあるのだろう?。最悪の悲劇もすぐ横に広がっている代わりに、最上の出来事ももしかしたらその隣にあるかもしれないのが、「世界」ってやつだ。小説を読む一番の理由は、やっぱり、驚くほど複雑に計算されたご都合主義が見たいんだと僕は思うんだ。けど、世界は、計算でも構造でもない。その「出来事」によって、人の心に、魂に起きる出来事が、重要だと思うのだ。僕は、この作品の二人の心にあった出来事に、めまいがするほどの感動を覚えました。


スロウハイツの神様』 辻村深月著 この絶望に満ちた世界を肯定できると力強く断言すること
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20110616/p3

第2位:『少女不十分』 西尾維新
少女不十分 (講談社ノベルス)

同率ではなく差はあるが、やはり2011年の最も衝撃的な作品であった。この文脈を理解すると、西尾維新の作家性がスンナリ全部理解できてしまう。これが妄想なのか多少は体験が入るのかは分からないが、このキャラクター造形や「世界認識」が西尾維新の核だということは、いやというほどわかる。このことがわかれば、西尾作品のすべてのキャラクターの動機の構造が、説明がついてしまう。そして、『スロウハイツの神様』の後書きが西尾維新であることから、そして小説のプロット・構造が同系であることから、これは西尾さんの変化といえると思います。けど、方があるからこそなのかもしれませんが、西尾維新の本質がこれでもかと凝縮されており、衝撃を受けました。異端の視点から世界を眺めること、異端を異端としてひねくれながら(笑)人生を受け入れること、という西尾維新の過去の全作品に「描かれていない」、登場人物たちの「動機の根拠」がここにあります。これを読むと、ほんとうに、ああ、西尾維新が世界をゼロで考えると、あるべき姿ってこうありたいと思っているんだ、という部分のコアがわかります。素晴らしい小説でした。ただ、万人受けという意味では、同じ構造でも、辻村さんの作品かなーとは思います。そのへんのマイナー感もまたいいです。


『少女不十分』 西尾維新西尾維新の描く小説家が小説を書く理由・・・という物語(というあたりがメタ的だよなー(苦笑))
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20110926/p1


第3位:『新世界より』 貴志佑介著 
新世界より(上) (講談社文庫)

典型的な管理社会ものを骨太の物語として描く。ほんと、SF読みにしてみると、なんの新しさもない典型的な作品だが、ここ10年近くで、これほど骨太の「小説の醍醐味」を豊穣で過剰なぐらいどっぷりと味あわせてくれた物語はない。ああ、これぞ小説!だ!と叫びたくなるほどの名作。僕ぐらいの量を読んでいて、ここまで新奇さ(=目新しさ)がない作品で、ここまで、物語の世界の引きづり込まれるような丁瞑感を味あわせてくれるとは、素晴らしい小説家です。こういう骨太の小説に出会えると、人生に感謝します。これ2010年に読んだか記憶があいまいなんですが、貴志さんは他の作品を読んだことがないので、作者としてのイメージは僕には皆無です。けど、ここたぶん1年近く、ことあるごとに、この作品のことを連想したり思い出したりするんですよね。僕にとっての「あるべき物語!」という物の理想像に近い作品なんだと思います。関係性や萌えなどそういうミクロがほとんど現代的には存在しない作品で、まさに物語のダイナミズムだけで動く古典的な作品なんですが、大作の風格がこれでもかと感じられる。

新世界より』 貴志佑介著 典型的な管理社会ものを骨太の物語として描く(1)-(3)
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/searchdiary?word=%2A%5B%B5%AE%BB%D6%CD%A4%B2%F0%5D


第4位:『永遠のゼロ』 百田尚樹
これ、いつ読んだんだっけ?。少なくとも2011年は、このイメージと物語が、ずっと僕の頭の中で支配的だった。『桶狭間戦記』と並ぶ、自分の内的世界に大きなエポックメイキングな楔を打ち入れてくれた作品。これで、第二次世界大戦の海軍の対アメリカ戦争の全体像が、スッと理解できるようになった。JIN(大日本帝国海軍)の存在が非常によくわかるようになったきた。そして、そういうマクロ的な理解の補助だけではなく、それが、スッと入ってきてしまうほどの物語の出来の良さに感心。これも、日本の戦争物語の中での、出来の良さは、ダントツの作品だと思う。この後、阿川弘之さんの海軍提督三部作に向かおうとしているんですが、やっとその準備が整った!と思わせる作品でした。

永遠の0 (講談社文庫)

山本五十六 (上巻) (新潮文庫)米内光政 (新潮文庫)


第5位:『囮物語』『鬼物語』『恋物語』 西尾維新
囮物語 (講談社BOX)鬼物語 (講談社BOX)恋物語 (講談社BOX)

西尾維新さんの『少女不十分』のおもしろさは、その他の彼の作品シリーズを読んでいること、でMAXになるものなので、こちらも、重複して面白くなった。ああ、そうなんだな、みたいな納得がたくさん訪れた。この作品と、西尾維新が『少女不十分』で書いた本質は、ハーレムメイカー問題に対する一つの答えを示している。ハーレムメイカーの問題点として、これをクリエイターの側からみると、ドラマツゥルギーを作ろうとするならば、男の子に惚れる「理由」をつくりださなければならず、その理由とは、すなわち解決される女の子側のトラウマのことを指す。つまり、クリエイターにとっては、男の子のもってもての夢を表現するために、登場人物の女の子たちのを不幸のどん底へ落とさなければならなくなるんだ。そして、この作品が分岐をベースとするビジュアルゲームで、脚本が飛躍を遂げたのは、この不幸に対する構造的問題点が、「一人を選ぶとすると」それはイコール「選ばれなかった人の不幸を肯定する」ことにほかならず、そこには罪の意識が、少なくともクリエイター側には付きまとうはずだからなのだ。この並列世界の宙ぶらりん(=何度でも選べるということは、なにも選んでいないと同じようなもの)に対して、構造的にいいかえればメタ的に解決をもたらそうとしてきたのが、90−00年代のビジュアルゲームのハーレムメイカーへの展開と解決だった。つまり構造的アプローチの解決を目指したわけだ。けど、『少女不十分』で明らかになった西尾維新の世界観は、男性(=感情移入のポイント)も含めて、すべての人が異端で構成されている。そこでは、「解決される」不幸があるのではなく、そもそも異端(=生まれついて解決のしようがない)という前提が張り付いている。別に解決してもしなくてもいいじゃないか、なぜならば、そもそも「そうなってしまった(=異端である)」ことは、解決するとかそういう問題ではなく、受け入れていくことだからであり、それを肯定して重要して生きていくしかないじゃないか、というとても「後ろ向きな生きる肯定」をしている。読めばわかるんだけど、ある種の諦観はありつつも「それで悪いか!」という肯定(=生きる意志と動機)があるんだよね、この人の作品。そこでは『化物語』シリーズのようなハーレムメイカーの構造を備えながらも、通常の後ろめたさが感じられない。なるほど、こういうのありか、と感心した。ちなみに、物語として面白く、売れるようにしたければ、女の子側の不幸は大きければ大きいほどいいのです。つまりドラマが盛り上がるわけだし、解決する男の子側の全能感も極大になるので。でも、それは、最終的に「オチ」を付ける時に破たんするんですよね。終われない。だって、「誰を選ぶの?(=一人しか助けられない)」という前提があるのだから。「全員を助ける!」というのは、男の子側の「器」の問題になるけど、このオチは、通常の意味では、受け入れられない。なぜならば、複数の人生を抱え込めるほどの、男の子側のキャパシティが大きい場合は、それは「特別な人」であって、パンピーの感情移入の対象ではなくなるからです。

第6位:『ソードアートオンライン』 川原礫
ソードアート・オンライン〈7〉マザーズ・ロザリオ (電撃文庫)

まぁあね、、、もうウェブで読んでいる人は、この「次のシリーズ」がどれほどとんでもない傑作か知っているからねぇ(苦笑)。その片鱗を見せ始めているこのあたりの話は、ねぇ。まぁ、そういったマクロ的な評価はともかく、ネットの世界に閉じ込められるという脚本で、これ以上に分かりやすくおもしろい冒険ファンタジーはないと思う。テーマの広さの割には、少年の冒険物語、というジュブナイルといってもいい基本はずっと外さない。そこは本当に素晴らしい。

第7位:『大人になれない英傑殺し - The repetition of the wand of the ruler』 止流うず著

http://ncode.syosetu.com/n5348v/

ここからは、「小説家になろう」の公開されているものから。これは、傑作。文章は下手だと思うし、構成もこんがらがるし、読みにくいし、何を話しているか時々わからなくなるし、小説家としては本当に、駆け出しなんだろうと思います。けど、おもしろい。本当に面白いの。そういった難解さや読みにくささえも、「もっと読みこんでやる!」という意欲に展開させられるほど設定、舞台、登場人物の内的葛藤、マクロの構造が素晴らしいオリジナル。これが、アルファポリス?だっけの大賞をとり、書籍化されるのは、よくよくわかります。並行世界の物語や物語の置ける英雄とは?といった、いままでの物語で、特に全能感を追う形式の物語の、見事なまでのアンチテーゼとして設定されている。もちろん、まだ終わっていないという弱点はあり、それは、なろう形式の物語の問題点でもあるので、どこまで行くかは今の時点では何とも言えないが、それでもここまで描けているこの面白さで、僕は感心しました。


第8位:『厚労省日本アガルタゲートウェイ ヘヴンズアンダーコンストラクション』 Lizreel著

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これも「なろうの形式」ではないとなかなか物語としては読みににくいな、というような、「途中が面白い物語」ですいね。けど、川原さんのSAOのマザーズロザリオなど終末医療とネット世界というテーマは、たぶん2010-20ぐらいの重要な小説のモチーフになると僕は踏んでいて、そのことを極大まで展開しているこの作品は、凄く注目している。まぁいってみれば、シムシティみたいに、一つの世界を作り出すというものだけれども、やはり小説家としてこなれていないので、設定マニア的だし、ダラダラ長いし、というのはあるが、次世代の小説の可能性やテーマの宝庫だと思う。むしろ、小説家や小説家志望の人が見てもいいと思う、先端の物語。まぁ、なるの形式がなければ展開できなかったと思えるので、この設定をパクって、おもしろい小説にすることは凄くできると思うよ。


第9位:『− Arcana Online −』 猿野十三著

http://ncode.syosetu.com/n8415w/

そしてこれ。『魔法科高校の劣等生』や『ログホライズン』レベルの可能性を秘めた、商業レベルの安定性を備える作品。何がいいのか?という意味では、上の二つと比べると、なにもない。マクロ的な設定のオリジナル性はゼロ。まさに、ゲームの世界に閉じ込められる異世界ファンタジーの基本中の基本。かわいい妹がいるところとか、べったべたなべた。それくらい、批評的にいうと面白くない作品、、、、「にもかかわらず!」え!!ってて思うくらい僕は面白かった。なんだろう?これって感じ。ようは、キャラクターの描き分け、小説としてのうまさが、群を抜いているんだろうと思う。上記二つに比べると、信じられないくらい、読みやすいもの。作者はどれくらい小説を書いているかわからないが、この人は、もうああ、書く気力さえ持続すればプロでやっているけるレベル十分だな、と読んだ瞬間思いました。そして、ここまで小説世界やキャラクターが描ける人は、どんなに最初が陳腐でも、ぜったいにレベルが深まり腕が上がるもの。凄い期待している作家です。


第9位:ジュディハピ!  田中著

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基本的に、なろうの作品は、「なろう文脈で集中的に読むからこそ面白い」ということと「落ちがつかないダラダラ系が多い」という二大問題点が、ここにあげた選りすぐりの作品にさえあるのですが、ただ、商業的な意味でおもしろいというのとは違う面白さも「面白さ」であることには違いないと思うのです。ジュディハピ!もまだ終わっていない作品であるという問題点はありますが、これもおもしろかった。僕の「読みの文脈」で、並行世界からの脱出というテーマがあるのですが、この作品は、そういう世界に巻き込まれたある女の子の話で、脱出をミステリー仕立てにするというのは、ずっと見てみたかった形式なので、その、最も秀逸な形で展開してくれていて、興味深いです。Aパートの永遠に続く日常の中で、あれ?って違和感を見つけて犯人を捜し出すくだりは、見事なミステリー。その後のBパート、そこからの脱出と、「そこ」へ閉じ込めた犯人への復讐譚は、まだはじまったばかりですが、これだけの筆力のある人なので、超楽しみです。


第9位:『ときメロ』−恐怖のイケメン学園− 兎浪みなと著

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単純に楽しかった。キャラクターの書き分けが凄いうまい。


第10位:『やる夫が鎌倉幕府の成立を見るそうです』


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USTREAM:物語三昧ラジオ〜『やる夫が鎌倉幕府の成立を見るそうです』
http://www.ustream.tv/recorded/19377919