『井上茂美』 阿川弘之著 反英雄の物語

井上成美 (新潮文庫)

評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★★5つ)

おもしろかった。3部作の中で、一番面白かった!!!。そして、文学作品としても、3人の中で最も出来がよかった。これは、構成とか作者の力量もあるんだろうけど、この井上茂義大将という人が、物凄く興味深い、なかなか日本では存在しにくい特殊なキャラクターだったからだと思う。


あとがきのレビューで、反英雄の物語、というようなことが書かれていたが、まさに。戦場で戦死した華々しい生き様の山本五十六でも、大日本帝国の幕引きをしたという歴史に選ばれた米内光でもない、戦争というマクロの出来事のなかで、歴史的な役割を果たし、そのドラマトゥルギーを昇華し切った(良くも悪くも)英雄的な物語というか人生に比べると、非常に、それを裏切るというか、そういった『歴史の流れ』に全力で、死ぬまで、ほとんど狂ったくらいに反逆し続ける人生で、、、、、いやこの人、物凄い興味深い人です。


で、なにが興味深いっていうかというと、戦後もすごい長く生きるんですが、帝国海軍最後の大将としてなくなりますが、なんというか、信じられないほどその人生に一貫性がある。わかりますか????空気に流されやすいという国民的伝統がある日本民族のど真ん中で、しかもあの大戦争中に!軍隊の最高位まで上り詰めて次官までやり、しかも米内光政の戦後の幕引きの事実上の実務をすべて貫いたようなめちゃくちゃど真ん中に生きた上に、さらに!!!価値観が全く変わってしまった戦後にかなり長生きをしたにもかかわらず、『その生き様が全く変化がなくぶれない!』ということの、すさまじさが!!!!。はっきりいって、狂っています(苦笑)。


実際、海軍提督三部作は、あの狂った時代に、これほどリベラリズムを貫いた生き様があったのだ、という海軍の(かなり美化が入っていることも否定できないと思うが・・・)視点を、職業軍人としてまともに機能していた組織もあったのだという、戦後の「戦前の全否定」への抵抗的な位置づけがあったんじゃないかな?と思われるような、凄い情報量で、、、、端的に言うと、読むのがしんどいくらい量が多い、、、いいかえれば冗長です。けれども、同じ時代を3人のそれぞれの視点から、びに入り細に入り描くことで、しかも、伝記なので当時の軍人の少尉からのキャリアを忠実に描くので、大正から昭和にかけての帝国海軍の軍人の具体的なものがすごくわかって、凄くイメージが付きました。まぁいいかえれば、少し読むのがつらいかもしれませんね、物語としては冗長なので。けど、この提督三部作を同時に連続で読むと、かなり時代の感じがよくつかめるようになります。ライトノベルではないですが、やっぱり『主観の視点』から理解するほうが、まずは理解がすごく早いと思うのです。歴史のマクロの抽象的なものは、未来に生きている我々は、なんとなくですがそれなりにわかるものなので、僕の読書のタイミングとして、、、、『永遠のゼロ』や『とある飛空士の夜想曲』などをよんで、波に乗っているときに読んだので、凄いよかったです。『永遠のゼロ』はすごい面白いので、ここから入って、マンガとかで帝国海軍の空母とかのスゲー美しさとかイメージがついてから、読むと、凄く読みやすいと思います。


いろいろ、、、、思うところはありすぎるのですが、ありすぎると書けないもので、まぁ思いつくのだけ、思考の履歴なので、吐き出しておこうと、ちょうど今日は余裕があるので書いているんですが、、、、いや、もっとも興味深かったのは、第四艦隊の提督としてアメリカ軍と戦った後に、左遷で海軍兵学校江田島の校長としておくられるんですが(わかる人にはわかると思うのですが、いまクロニクルズでキャリアから左遷させられたまりもちゃんと境遇が同じなんだよぉぉぉ!!!)、彼は、非常に学者肌の理屈屋さんだったんですが、教育者としての自分が一番性に合っていたんですが、彼の当時の、、、つまり、アメリカと戦争しているあの当時の海軍兵学校(あれそうだよな??)で、たぶん日本で唯一ともいえる英語教育の継続とか、いや、その発想がすごいんですよ。すぐ戦地に送るために早期教育を要求する上層部に対して抵抗していろいろなことを貫くのですが、その理由がすごい、、、この戦争(対アメリカ戦)は早晩負ける!だからこそ、戦後の日本を支える人間を育てるためにこのカリキュラムをするんだ!って凄い意識しているんですよね。もしくは、戦後の解体される軍隊では食っていけないから、ちゃっんとした人間になるために、と普通課程を凄く重視してたり、、、なんつーか、左遷されたほうが、物凄いうれしそうな、、、いやーこんな人がいたんだ、と驚かされます。石橋湛山とかもそうだけど、日本社会には、こういうリベラリズムを貫いてた人がいたんだなーと感心。というか、軍人で、ここまで本気で、リベラルな人は、凄いと思うねー。あと、このリベラリズムというか職業軍人としての責任意識が、ほんものだなーーーと感心するのは、戦後、日本海軍の最高階級まで昇進したレベルの人が、なんというか、、、、、身につまされるほど、ちょっとくるっているんじゃないかというほどの貧乏生活を送り続け、公の場にはこれもくるっているくらい出てこないんですね、、、、、それは、あの戦争を止められなかった高級軍人として、その責任があると、痛烈なまでの自覚があるからなんですよね。というか、止めるために、人生と命をかけて、ほぼすべてのキャリアの中で、抵抗し続けていた「のに」ですよ。なのいうか、そのかわりに、周りに対しても容赦のない批判をぶつけまくる、あまりの空気のよめなさっぷりには(苦笑)には、読んでて、こんな人のそばには痛くないなーーーーと痛烈に思うんだけど(苦笑)、全編読むと、その怖いぐらいの人生の思想と行動の「一貫性」に感心します。また、これほど、いくらなんでもそんなに堅くて、おもしろみのない、かつ人に対して凄い要求が激しい周りに妥協しないウルトララディカルスクエアな生き方をしていて、テロに合わなかったのもすごいし、なによりも、海軍大将まで出世した!!!中のが信じがたいです。あの時代の大日本帝国の、しかも軍隊でだよ!(苦笑)。いや、ほんとうに、あまりにありえないタイプの空気に全力で逆らう人生に、なんか、物凄い感銘を受けます。やっぱり一緒に仕事をするのは、勘弁と思うけど(苦笑)。

永遠の0 (講談社文庫)