何を教育するかは、その国の夢と志を表す

新装版 蒼海訣戰(2) (電撃ジャパンコミックス)

新装版を読み返しているのだけれども、このマンガ素晴らしいなぁ、、、司馬遼太郎の『坂の上の雲』的な、近代日本の『坂の上の雲』を追いかける気持ちが詰まっている作品で、まったくのファンタジー(架空設定世界)なんだけど、ベースが日清、日露のころの近代日本をベースにしていて、その海軍の話。


この国家の少数民族の出の少年が、海軍(物語では水軍)に入るところから始まる。


本当に素晴らしい物語だなーと思う。わかりやすいし、マンガとしてのカットなどの出来もすごくいいし、そして何よりも一本マクロの線が通っていながらも、キャラクターが非常に魅力的なビルドゥングスロマン(成長物語)になっている。本当に素晴らしい。まぁ、細かいことはどーでもいいんだけど、大好きなんですよ!!過去の記事を読んでもらえれば、その熱狂がわかるでしょう(笑)。



読み返していて、非常にぐっと来たのだが、この海軍の士官学校の生活をじっくり描かれるのだが、阿川弘之さんの海軍提督三部作を読んで、海軍を志す人の人生を非常に細かく知ったことで、感動が倍化している。


井上成美の江田島海軍兵学校の校長時代のエピソードを読むと、「人間を教育することの重さ」が、深く深く突き刺さる。人を教育するということは「その組織の、その国家の理想を指し示すこと」であり、「職能・技能を教えることだけでは全くなく、全人格的な成長を促さなければならない、、、それが、指導者をリーダーを育てることだ」ということの意味や、具体的なエピソードを知っていると、この海軍兵学校での教育の架空の物語の重さが、凄いぐっときます。知識があるとないとでは、読み取れる量が違うなーと凄くしみじみします。


最初は、「これは物語だから」、主人公の内的成長や差別や孤立についての内面の問題がいろいろ起きて、それを青春物語的に解決されるのだな、、、と達観して客観して読んでいたのだが、、、、いや、そうじゃないんだな、人を育てる教育機関は「すべからくこうあらねばらないのだな、本来は」ということが、なんかじわっと胸にしみてくるのです。翻れば、自分は教育機関に勤めるわけではないですが、組織の中間管理職として、次世代のリーダーたちを育てる義務が自分にはあるはずで、そのための理想や気概、意思を僕はもっているだろうか?となんとなく思いました。そういうことを考えない奴は、人の上に立つことも、組織を率いることもできないと思うのです。給料分以前の問題で、まぁしがない中間管理職であっても、、、、ね。なんかねーそういうのを凄く思いました。


そういう意味では、非常に長く、まどろこっしい話で、カタルシスの少ない(=英雄の壮絶なダイナミズムに比べれば)物語でしたが、井上成美大将の生涯は、素晴らしい物語だったなーと、しみじみ影響を受けています。


井上成美 (新潮文庫)


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