強度ある物語が生産され続けた結果、その淡さに物語を見出した人が活躍する時代なのかもしれません

乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)

評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★★5つ)

ルイさんのコメントが、相変わらず、素晴らしくよかったので、ちょっと転載。読んでもらえてうれしいです。森薫さんは、名手ですよね。本当に素晴らしい。いやールイさんの視点、言葉の使い方、いつもながらにしびれるほど、いろいろインスパイアされます。

ルイ 2012/05/14 21:04
名前が出されていて気になり、読んでみました。
まだ一巻途中ですが…面白いですね!
ある女性がある家に嫁ぐ。
嫁入りというのはとてもミクロな世界の縮図といいますか
異文化交流なり、様々なものを内包していると思うのですが
…と。
いかにもな切り口で書きだしてみたものの、ただし、
その「アミルさんのはじめて物語」といった部分を殊更に強調した進め方もしていないですよね。

既に彼らの日々は「始まっていて」、読者はそれをゆっくりと追いながら
途中で姉夫婦だその子供たちだその姉には更に姉がいて嫁いだのだ…等々
家族構成を把握していきながら、彼らと視点の位置を、世界のルールをすりあわせていく。
それだけでもう、物語がある。

豊かな、しかし他に頼る物語のない強烈な作りだと思います。
極端な話、困ってもバトルトーナメントできませんし(笑)。

ぼくはよく「ただの人間も(或いは平凡な日常も)また物語」という主張をする時、
既存の物語とバランスを取る為に
「ただしその物語は泡沫で可視化されない為、強度を獲得しない。
一方で意図に満ちた強度ある物語として抜き出した瞬間、生きる人間の物語が持つ淡さ(良さ)は喪われる」
みたいな事を考えるのですが、強度ある物語が生産され続けた結果
今はこういった、その淡さに物語を見出した人が活躍する時代なのかもしれませんね。
その中でも、特別な強度を持った泡沫と感じました。
獣の奏者』のような物語を読む時、動く物語の背景として強度を支える世界に
一方で「ただこの世界を味わいたい」という欲求も生まれるのですが、そちらに天秤を傾けられる人ですね。

いや、とにもかくにもすっごい面白いです。
おじさんの集落を探す回が物凄く好きで、
「ウサギを狙う野犬、それを狙うアミル(人)」が風景の中一体となっている事にもシビれましたし
おじさん達のリアクションによって「20歳」の今と違う意味が改めて浮き彫りになった事にもシビれ

SFほど劇的でない分、今と同じような顔をした何かが
実際は「違う」時の刺激は強烈ですし、そのすり合わせは愉楽そのもの。
遊牧から定住、昔と今の狭間にあり、今は既にない泡沫の世界。堪能させてもらいます。