『中国人エリートは日本人をこう見る』 中島恵著 日本はやっぱり住むのに最高に快適な国だぜ!

中国人エリートは日本人をこう見る (日経プレミアシリーズ)

評価:★★★☆星3つ半
(僕的主観:★★★☆3つ半)

まずやっぱり、言いたいのは、取材対象が偏っているしサンプルとしても絶対に極端になっているとは思うので、これをして信じきるというか、そうなのか!とは言い難い本ではあるが、その部分をバイアスを除けば非常に興味深い「日本人論」だと思った。また、著者が真摯に、考えを重ねて追求していこうとしている姿勢がしっかりしていて、それが故に、偏見や関わることなく外から見ていると「気づき」がたくさん溢れていて、手軽に読める新書だし、いい本だと思いました。まぁ全部読んだ人はわかると思うけど、中国人の若者の話ではなくて、明確な「日本とは何か?」という日本人論の系譜に連なる本。外国の人間から、日本がどう見えるか?ということを考えている。ちなみに、この本を読んでいて、凄く思い出したのが『ちきりんの日記』です。凄く連想させられました。僕は彼女のブログの愛読者なんですが、ずっと読んでいると、彼女が日本に対して主張したいことのポイントのいくつかは、


日本人のサービスレベルが飛び抜けて異常に高いこと
(ある意味ちょっと狂気じみててガラパゴスとも言えるぐらい)


世界でも群を抜いて食事がおいしい国であること
(世界中の料理がものすごく楽に食べられるというのも含む)


日本は世界中のどこと比べて住みやすい快適な国であること
(清潔であることや、国が非常に安定している、水や空気がとてもきれい)



2009-06-23 日本大好きなんで。
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090623

2010-07-30 日本はアジアのイタリアに
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20100730


などなどなんですが、中国人の留学生の日本への印象を総合していくと、まさにこの辺の主張と凄く重なる感じがする。これは、プラスの表現をしているが、それぞれにいろいろな言い方はできる。サービスレベルの高さは、世界標準(=グローバルスタンダード)とかけ離れており、その完璧主義やそのクオリティを万人に求める偏執的な部分は、ある意味、日本を孤立させる、もしくは日本人を理解しがたい存在にしている部分もあったりする。とはいえ、ここでは、「なぜ日本人がそうなのか?」については追及しないで現象面に話を終止させているのは、悪くないと思う。そこに入ると、ちょっと学術的になって、新書の読み物としては、難しくなりすぎるからだ。ちなみに、僕は歴史学の成果である「勤勉革命」なんだろうなぁ、と思うけど、そこは本論ではないので、深入りしない。


池田信夫 blog(旧館)/勤勉革命を超えて
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/af7e965f848079462718c38872fb7ecd


近世日本の経済社会


とはいえ、この「結果」として、日本人の美質も欠点も、出てくるんだなーと最近しみじみ思う。


あっと、原因に話が行ってしまった。そうではなくて、中国人の留学生が、日本社会を見て思うことってのは、まさに、ここでちきりんさんが、主張している日本社会のこととぴったり一致するんだよね。上記のエントリはすごくすごく好きで、僕は、これを初めて読んだとき時、ああ、日本の未来ってものすごく明るくて、楽しいんだ!と世界が開けたような気になりました。というのは、自分がバックパッカーで、仕事で世界中を回っていたり、たくさんの外国人の友人と話していて、そして生活していて、ずっと感じていたことなので、ああ、そうか、それを言葉に表現するとこういうことか、と思ったのです。自分の「生活から見た日常の風景」に言葉が与えられた感じ。


ちなみに、上記「原因」の話は、この日本人の特質、日本社会の特質は、日本人の「勤勉革命」的なルーツからきているものであって、それは、良さとか悪さとかの価値観で言えることではなくて(すぐに悪い方にも簡単に転ぶので)、そういう構造と事実があるんだなーという話。いいかえれば、プラスに表現しているけれども、日本人のダメな部分の原因とも重なる、同じことの異なる面だということ。このへん村社会体質の『失敗の本質』を繰り返すのは、日本人そのものだしねー。とはいえ、戦後の日本社会は、歴史の主人公として世界に正義を求めるのをやめた代わりに、ものすっごく民衆視点での生活者の空間を充実させたんだなーと、本当に思う。素晴らしく住みやすい国だよ、日本って。まぁ、西ヨーロッパもいいところだけどねー。イタリアとか南フランスとか最高だよ?。・・・・近代化の貫徹や成長することをあきらめると、意外に、答えがあるような気がする今日この頃。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)
失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)


「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ
「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ

ちなみに、高度成長で物凄い上昇を遂げるめっちゃめちゃエキサイティングだけど、その分ハードすぎて人に物凄く優しくない高度成長の社会を生きる、というのは物凄く苦しいことんだな、というのがよくわかりました。中国人の若者が、そんな物凄い競争の中で生きるよりは、緩い日本の中で生きられれば、最高じゃないか、と思うのところは、まさに、ちきりんさんのいうイタリアモデル!だと思うのです。


日本はとても恵まれている国です、だって、経済成長をあきらめても、自然は世界最高峰レベルで美しいし多様だし、文化の水準も「あの」フランスが憧れる超レベルの高さを誇り、大日本帝国から古代までも含めて「過去は偉大だった!」と懐かしがれるノスタルジーツール(笑)はたくさんあって、なによりも、物凄く食事がうまい!。そして、政治家がどれほどアホでも、国も社会もすごく安定している。軍事アレルギーがあるから、よほどのことがあってもまず他人の家に侵略しようとはしないだろうし、これほど、緩やかに衰退していくのに、最高の国はない!って僕は思います(笑)。ましてや漫画やアニメなどの、大都市の集中による、ハリウッドにはないアメリカ文化ではない、都市型エンターテイメントがバシバシ生まれてくる、アメリカを除けば世界で唯一の国。このまま競争あきらめた方が『俺の国は世界いちぃぃぃぃぃ』と叫ぶのにふさわしい戦略だと僕も思います(笑)ちなみに、ギリシャのようには絶対にならないもん、日本。消費税20%上げれば、それで終わりだから。これだけの規模とアセットがあれば、なりふり構わなければ、はっきりいって、何でもやれるんですよ。いまだ、みんな変に成長をあきらめきれないので、いろいろあがいているだけだと僕も思います。国としての方針が、微妙にみんなまだ「成長したい」とおもっているんですよね。でも、経済成長って、競争追求だから、それって苦しいぜって思う。。。。だって、ジャパンブランドは、物凄いバリューがあるんだもん。もうイタリアみたいに観光資源とブランドだけで食うようになって、「Amore、Cantare、Mangiare!(アモーレ・カンターレ・マンジャーレ!)」でいいじゃないか!って思うんですよ。緩やかに衰退しながら、でもまーくっていけるし、人生楽しいぜ!と思うえるのは、国の規模があって、祖父たちの世代がすごく競争で頑張って近代化を遂げて、しかも物凄く豊かなレガシーが国土と文化にないとできない、ものすごく特権的なことなんだぜ!って思います。



日本人論なので、昨今大盛り上がりの中国を意識した話ではないなーと僕は思います。とはいえ、ちょっとなるほど思ったのは、p53です。中国の若手世代が、愛国教育(=反日教育)をうけた結果、日本にすごく興味を持って、日本ってすごい国だ!と思った、というくだり(笑)。なるほどなー。革命を重視する中国共産党の教育では、世界七大革命というものを学ぶそうで、7つの中身は僕は知らないんですが、その中で最も重視されるのが「明治維新」であって、歴史の試験とかで、


「康有為の百日維新は失敗したのに、日本の明治維新はなぜ成功したのか?」


とか


孫文辛亥革命は失敗したのに、日本の革命はなぜ成功したのか?」



ということで、日本がなぜ強かったのか徹底的に学ばされました、というくだり。これって、この前、日本銀行の人と話している時に、中国の財務系のエリートと話していると、日本の高度成長や歴史を物凄く詳細に勉強して研究している。特にいまは日本のプラザ合意後の急激な円高」でも、日本が生き残れたのはなぜか?ということを物凄く研究しているようで、それは、もちろん人民元の急激な円高中国経済に何をもたらすかを、シュミレーションするためなんだそうだけれども、、、、日本が急激な円高を生きのこれたのは、そこまでに、『技術のレベルがブランド化するレベルで高かった』からであって、中国の技術はそうした差別化が可能なレベルには、全然ないと彼らは自己評価しているようで、いま人民元が同じようになるよ、中国の経済は崩壊すると思っているらしい。ここは、中国の技術レベルがどれほどか?という評価によるんだが、、、、、たぶん、この共産党の官僚たちの自己評価は、正しいと思う。前回の世界銀行とのレポートで、中国の経済成長はこのままずっと緩やかに続くことが指摘されているが、その理由は、中国の都市化率が低いからです。つまりは、農村の人口が大都市に流入するという高度成長のモデルと、技術レベルが低いので合理化による効率性の追求が、その成長の理由とされています。この二点は、大前提として、中国の技術レベルが、まだ先進国最先端には追いついていないことを示唆しているからです。


というような話を思い出して、なるほど、、、、日本の近代化と高度成長を、物凄く詳細に真摯に研究しているんだな、と感心したのです。まぁ、だから?というわけではないが、歴史から学ぶ人が実務から官僚、政治家のレベルにいたるまで多いというのは、凄く強いだろうな、と思うのです。それは、大きな仕組みやマクロのレベルでの必要なことを考える人がたくさんいるということだから。まぁ、モデルがある、というのはとても有利で楽なことではあるのは確かだけれどもね。でも、ヨーロッパのモデルがあっても、なかなか真似するのは、世界中難しかったわけで、、、、。ちなみに、最近↓加藤さんの本も読み始めたー。この人とっても面白い。p215の河南省の話は、上記の話と重なるなーと思う。マクロ分析では、人民元の為替レートと世界の工場である現状と、そのもう一つ上のステージのオリジナル技術でのブランド化というのは、ここ20年の中国の課題なのかもな、と思った。

いま中国人は何を考えているのか (日経プレミアシリーズ)