『おおかみこどもの雨と雪』 細田守監督 細田守ブランドの確立〜失われていたファミリー層を吸収するアニメーションブランドの登場

評価:★★★★★星5つプラスαの傑作
(僕的主観:★★★3つ・・・マイナスαかも、、、)

客観評価と主観評価にこれだけ、凄まじい差がつくのは、ほんと珍しい。しかも圧倒的に文句なく素晴らしい傑作のアニメーションだと思う。が、これを見終わった後、僕はとても複雑な気持ちになった。というのは、僕の主観的な視点からいうと、琴線に触れるものがまったく(苦笑)といっていいほどなかったので、感想の言いようがないのだ。たぶん、よく考えれば、嫌いな内容(というか、あまり興味のない)の主張であるにもかかわらず、見ている時に引きこまれる「圧倒した演出力」が素晴らしかった。しかし、さまざまな角度から見ても、いろいろな批評視点で分析することはできるといえども、これがアニメーションの傑作であることは間違いないだろう。演出や脚本の完成度としては、いろいろ批判をほぼただの「芸」として切って捨てるだけの、水準をはるかに超える傑作であることは間違いないからだ。そして、ずっと話しているジブリの後継者問題というようなテーマというか視点で言えば、失われていたファミリー層を吸収する大型アニメーションブランドの登場、そしてそういう文脈での細田守ブランドが完成した、といえると僕は思う。そういう意味では、これってエポックメイキングな作品なんじゃない?って思う。日本のエンターテイメント、日本映画というジャンルにおいて、ファミリー層を吸収する作品群が登場することになる。宮崎駿が失速して以来長らく失われていた座に、新たなスターが登場したといえると思う。まぁ、そこまで売上とか支持があるかはわからないが、それになりうるものだと僕は思う。ここまでブランドが確立すれば、次回作は、凄まじい売り方ができるよ。『時をかける少女』、『サマーウォーズ』ときて、3作続けば確実に本物。これで、細田守監督は、ほぼ不動のポジションを手に入れたと思う。それくらいに大傑作であった、と僕は思う。ただし、見終わって家に帰って、少し頭で考えると、あの話嫌いかもな、、、ともたげる可能性があるので、ガチの売り上げを達成するかは、よくわからないが、、、まぁしょせん受け身で見る人は、そこまで考えないから、これだけのレベルの作品だったら、何の問題もないともうけどね。本当にいい出来でした。


・・・・そして、にもかかわらず、全然僕の心を動かさなかった、凄い作品でもある(笑)。でも、それは、僕の主観的文脈からの視点なので、大多数の人には、「芸」としては意味があっても、普遍性のある文脈で問えるものではないと思うけどねぇ。


普遍性のある文脈で問うならばこの作品の良さを、


その叙情性の演出のレベルの高さ、


動機を過剰演出する視点を喪失した3人称的な視線(娘の過去の回想等形で、事実上の主人公である花と狼男の内面の動機や意識が完全に消去されている)による神の視点の構築(=主観のキャンセル)


類型化したキャラクターを動機の演出なしに外から動かすことによる「神話性」というか、そこまではいかないんだけど、『おとぎ話的』な中距離の視点獲得


それらに付随する、内面の強度の無さを埋める風景や空間の強度によって埋めてしまうリアル感の演出



というものがあって、いやーいまって凄いなぁ、たぶん90−00年代の20年間くらいのやっぱり行きついた演出なんだよね。それまで強調されていた演出手法とまったく逆の方向。ちなみにいうと、京都アニメーションとかの『けいおん』とかの強度をというか日常の風景をリアルに描くことで実在感を感じさせるという演出方向と考えればいい。スタジオジブリがそのルーツだと僕は思っていて、『耳をすませば』と『海がきこえる』がこれらの演出手法の原点で、その果てが、新海誠監督と京都アニメーションだと思っています(←勝手なイメージ)。ほんとうに現代の最先端のアニメーションって、質が高くなったよなぁ。画像のハイクオリティ度合いが、昔と比べると狂っている。業界的に賃金はひどくなるし、絶対厳しいところなのに、なんでこんなに凄いレベルでクオリティが上がっていくのだろう…。

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さて、たぶんこの作品って、母親の花の動機が全然わからないって批判が出やすいと思うんだけど、それってすごく正しい視点だし、僕のこれまでの主観性と動機を問う分析手法からいえば、大きな失敗点なんだけれども、、、、そもそもこの作品は『おとぎ話』として構成されてその叙情性を問う作品なので、「そこ」は見るべきポイントじゃないんだろうと思うんだ。そこを見ちゃう人が多いのはわかるし、見た瞬間、????ってなる(笑)。だって、明らかにこの花って女の子スーパーマン。。子どもを医者に見せないで育てて、育児ノイローゼにならないとは、僕は思えない。どうも父子家庭ぽかった感じだし、そもそも、子供を育てる知恵とかもつたわっていない、都会の一人暮らしの女の子が、、、、それは無理だよ。そもそも、そこいらの女子大生が農業をやるような身体になっていないんだから、倒れるって。ふつう。そこまでがんばりきれないよ、、、というか、これだけピュアに、美しい母親像と、それが善意によって支えられていく構造を見せてしまうと、同じような状況に陥ったら間違いなく発生する現実をあまりに無視しているところが、いくら何でも理想的すぎて、、、、凄く嫌な印象を感じるという人は、「よく考えれば」多いと思う。けど、凄いのは、「よく考える」ことを見ている時は少なくとも大多数は感じさせない、演出力があることだと思う。それほどのまでに、物語空間を構築する技術が高い、と思う。ウソを見事にウソとして成立させてしまっているところが、いや、凄いなぁ、と思う。凡百の演出力では、これはできないと思う。


とはいえ、なんというかありえないのは、子育てにまつわる強度、、、子供を育てていくプロセスやその視点で感じる親の「積み重ね」による愛情の深まりとかは凄い良くできている(=というか、物凄い見事だよ!!)んだけど、、、、、実際に「この強度」をいまど真ん中で経験している親の僕からすると、この監督ってものすごい想像力と才能だけど、子育てを絶対したことがないな、と思う(←どうなのかな?)。というか、これ、子供を育てるのは、物凄い喜びと同時に、苦しみと絶望と不安で、マイナスの気持ちの嵐になるのいったり来たりするんだよね。この「感情の振幅の幅」が、子供への感情の深さとなって積み重なっていくものが、家族の「絆」ってやつになるのだけれども、これってマイナス面を物凄く吹き出るものなの。それが、この作中には一切ない。マイナスのことは発生するけど、それによって、花という子が精神的に壊れたり負の方面に振りきれるシーンが全くない。ああ、これは(苦笑)、と思うよ。これでは、「母親」を美化しすぎでつらいと、頭で考えれば見ている女性は思うはず。だって、これをやれ!といわれたら、無理ってふつう思うよ。


ただし、、、、きれいなおとぎ話としては、そこは、描かなくてもいいところであるのも事実。だって、結果として同じことなんだもの。ほんとは、子育てに困って田舎に帰るなんて言う、わざわざ選択肢を狭める行為なんてまずあり得ないんだけど、、、、「帰らなきゃいけない」という背設定上の縛りを考えれば、、、、結果としては、そこで生き残る設定をせざるを得ないもんね。。。おとぎ話の場合は、それの現実検証は必要ないからね。そっちがテーマではないし、なかなかこの監督凄い想像力だな、と思うのは、とはいえねぇ、、、マイナスのことも吹き出るけど、子育てって「目の前のことで精いっぱいの視野狭窄」になるので、もう小さいことかまってらんねーという風に、すぐ10年ぐらいすぎるもんだと思う。まぁ、そう考えれば、うまくいったケースとして、、、、といってもこういうのまずうまくいき辛い世の中だから、やっぱりこれは『おとぎ話』(=ウソの物語)に思えるなぁ。もちろん、そもそも物語なんだから、すべてが社会告発の写実主義的なものでなければいけない!ということはないんだから、ここを言ってもしょうがないんだとは思うけどねー。ただ、ここは言いたくなりやすいポイントだと思うよ。女性は、どう思うのかなぁ?。これって、ポジティヴにとるかネガティヴにとるかの姿勢にもよる気はするけどねぇ。この物語のテーマって、愛と、家族と、絆と、そして人生は続いていく、みたいな親から子供への「時間の流れ」がテーマになっているから、まぁ、、、子育てがうまくいっている人からすると、『終わった視点』から花に感情移入してぐっと涙が出る(←僕これ)人もいるだろうし、同時に、そんな甘いもんじゃねーよ!とご都合主義もすぎるといやみで、現実とあまりにずれていると、腹が立ってくるとマイナスにとる人と、まぁ分かれるだろうなぁー。事実、現実の社会で問題になっているこういうを、ロマン主義で塗りつぶすようなやりかたは、社会にとって害悪だ!と思う人は、多いのではないかと思う。まぁ、僕は、ロマンが美しければ、それでいいじゃん、とは思うけど、、、どっちも言わんとすることはわかるよ。


閑話休題


ちなみにこれは僕の物語を見る文脈で言えば、僕は物語を見る時に1)意味?か2)強度?って文脈でこれまでの作品を見ていた気がします。意味というのは、大きく二つの文脈が現代日本社会の物語にはあると思う。一つは「善悪二元論の果てに、ヒーローの正しさは何によって担保されるか?」という文脈。もう一つは「自意識の病〜自己の実存についての不安」。


んで、僕がいつも言うような、自己のナルシシズムの克服という文脈で、物語を分析する時は、その物語の主人公の主観(=内面の問題、動機)がどういうものかを解析して、そこが昇華されているかというところに評価のポイントがあります。この主人公の納得感(=見ている観客の納得)が、「正しさ」をどう定義づけるか?というところで、上記の二つの文脈がつながります。


だから、僕が物語を問うのならば、主人公(=ここでは花ですね)の動機とその解決にフォーカスするのが、僕の批評の芸になるんですが、、、、もともと、細田守さんってのは、僕は個人の内面が全く書けない人だと思っています。どの作品も、さっぱり主人公の動機は不明だし、魅力的ではない。・・・と、ばっさり切ってしまいたいところなのですが、実は、そういう言い方をすると、細田守という人の価値を見誤る、と思っています。彼は、そもそもそういうものを書こうと意識していないと僕は思えるからです。彼の目指した演出技術は、そこではない。『サマーウォーズ』が地方の名家の家族の関係性をベースに置いていたように、この人の視線は、キャラクターを内面から問うという視点が全然ありません。すべてを「外面から見ている視点」で捉えようとしています。だから、『サマーウォーズ』の主人公クラスの個々のキャラクターの持つ実存や内面はあいまいでさっぱりわからないですが、、、えっと意味が伝わるでしょうが?。僕が言いたいのは、たとえば、一族の親戚の集まりがあったとして田舎に帰ってみんな勢ぞろいした時に、実際に、ここのいとことか親戚のやつらが何を考えているかはよくわかりませんよね?。「外からそのグループを眺める時」に内面があからさまになるようなことは絶対ないんです。現実では。相手の心の中は見えないから。それが見えるのは、紙の視点・第三者視点で空間を見ているマンガとか小説に特有の現象で、外から見ている人からは動機がすべて見えてしまうのですが、それはそのメディア特有のお約束で、アニメーションなんかは、そもそも外から第三者視点で演出しているので、そもそもそんな内面の動きはよくわからないんです。けど、それをあからさまにしよう!というのが、1980-2010年代までの特有の流れだったんですよね。けど、その演出が、本当にもともとのアニメーションにあった演出に戻ってきただけ、とも言えます。そうすると、個々の個人の実存よりも、家族とか集団をどう描くか?ということになるのだと思います。『時をかける少女』より、『サマーウォーズ』がぐっとファミリー層を、いいかえれば、特定のセグメントにフォーカスしない理解を求める方向へシフトして、今回の作品で、それが完成している、と僕は思いました。これは、実は上記の意味の文脈からいうと、個人のナルシシズムの果てに、どうも「絆」や家族へ物語が回帰していきそうな傾向を見せる中、ああ、ピッタリなところを突いてくるなぁ、と思います。


ちなみに、意味ではなく強度というのは、上記でいっている新海誠さんや京都アニメーションのような、どれだけ背景の描写のクオリティを上げるか?という点で、いかの現実の実在感を感じさせることができるか?という演出の方向です。これは、意味を求める強烈な思考・・・・ぐだぐだ悩んでいる『新世紀エヴァンゲリオン』のシンジくんのようなのに飽き飽きしていたクリエイターや消費者が選んだもう一つの道で、内面なんかどうでもいいから、周りの描写のレベルを上げていけば、それだけで世界は輝いて美しく見えるだろうという方向です。細田さんも、この方向の技術の人です。普通はどっちかにふれるものなんですが、どうも一番いいバランスで落ち着いているんだろうと思います。


なんというか、僕の感想としては、圧倒的な「強度」の演出力によって、すべてが肯定されている物語って感じがする。1)キャラクターと2)問いたい本質のテーマというような、脚本としては、実は、僕はほとんど魅力を感じないし、あまりに批判を受けやすい甘さがあるんだけど、圧倒的な演出力の完成度が、それを完全にどうでもいいことにしている。魅力のコアはそこではないし、そもそも監督は一切そういうことを問おうとしていないもの。ただ、、、、うーん、じゃあ、細田さんが何を問いかけたいのか???というと、、、まだ僕にははっきりしないなぁ。まぁ、こつこつインタビューとか、他の作品を見返したりして見ます。



ちなみに、細田さんって、東京の西に住んでいるか出身なのかな?。この花の通っている大学は、一橋大学だし、彼らが待ち合わせをする白十字や町並みは国立です。特にインタヴューとか検索とかしていないけど、断言できる。だって、ここ住んでたもん。ちなみに、この白十字の喫茶店の前で、彼女と待ち合わせしてました、学生の頃(笑)。ほくしんクリーニングも、東京のここら辺のチェーンだから、地方の人にはわからないんじゃないかなー。ここ子供のころ僕が住んでいたところなので、どの道のどの店かすべて特定できるので、ノスタルジ−とか凄かったです。細田さんの作品は、ちょっと怖いくらい風景に強度があります。もともと演出的に京都アニメーションとかあっちがわの、日常の強度を高める演出なんですが、それに加えて、全部、若い時にリアルに見てた風景なんで、、、、自分的には、くらくらします。。。ああ、これが聖地巡礼の根源的なポイントの一つか!といろいろ思うところがありました。この記憶と風景のをめぐる話は、ルイさんともずっと話しているし、今後の物語の最重要ポイントの一つだと思っているので、今度、もう少し細かく考えて書いてみたいと思います。


まぁ、素晴らしいアニメーションでした。とにかく、完成度が物凄いと思う。見て損はない、素晴らしいアニメーションです。そして、なによりも、彼女でも家族とでも、小さい子供でも、だれといっても、それなりに受け入れられるハウス食品的なレンジの広さは驚嘆ものです。またアニメーションや映画が特に好きではに人が、エンターテイメントの選択肢の一つとしていっても、特におかしさも損もない、という点も、凄いブロードの作品です。

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