『平兵士は過去を夢見る』 丘 著  絶望的な戦いの底辺で見える一筋の希望

『平兵士は過去を夢見る』
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作者:丘

評価:未定
(僕的主観:★★★★星4つplus)

12−14話くらいの過去の回想シーンの独白が、、、涙が出るほど素晴らしかった。

まだ途中の作品なので、全体の評価を言う段階にはないと思うし、異世界転生系のパラフレーズなので、これがものすごいきれいに美しくまとまっても、超ド級というよりは、骨太のいい作品、という感じになるとは思うんですが・・・・とにかくね、そういう先のことはどうでもよくて、この12-14話の回想シーンが、もう素晴らしかった。


読んでて号泣するしかなかったぐらい。


このアイディア・・・・・魔王討伐の一兵卒だった軍人が、もう一度生まれ変わって子供から(過去から)やり直すという話なんですが、このアイディアに対して、過去の一兵卒として絶望的な魔王との戦争に駆り立てられていた自分の過去を両親に話すシーンは、、、その表現のうまさ、というか視点の良さなんでしょうか、、、もう、胸がえぐられるほど、素晴らしかった。。。号泣ですよ、自分。


こういう表現を考える時に、視点の落差、、、、具体的に言うと、萩原一至さんの『BASTARD』を思い出すんですよね。ぼくこの2部が、とても好きで、、、2部って主人公が眠りについた後の、魔戦将軍とかサムライとの戦いの話ですね。何がよかったかって言うと、落差、何です。バスタードは、最初に出てきた4天王であるニンジャマスターガラや雷帝アーシェスネイなど、強さのインフレを起こしていたんですね。普通、それ以上の!!!ってどんどん強さがインフレを起こすのですが、いったん第二部からは、彼らが出てこなくなって、その下っ端だった部下たちの話になるんですよね。対するサムライたちも、いってみれば第一部では雑魚キャラレベルだったはずです。。。。しかし、同レベルの戦いになると、彼らがいかにすごい個性的で強い連中かが、ものすごくよくわかるんですね。


強さがいったんデフレを起こすと僕はよんでいます。


これ、ものすごい効果的な手法なんですよね。何より物語世界の豊饒さが、ぐっと引き立つんです、要は今まで雑魚キャラとか言われてたやつらの人生がこれだけすごくて、そして世界が多様性に満ちていて、下のレベルでもこれほどダイナミックなことが起きているんだ!ということを再発見できるからです。なんというか、世界が有機的になって、強さのインフレという階層が、役割の違いには違いないという感じになって、、、世界がそこに「ある」ような感じになるんですよ。強者だけが主人公で世界鼻率わけではない!というような。


そこで、、、、ヒロインのヨーコが、、、、圧倒的な敵に対して、主人公(覚醒前のね)を抱きしめて絶望的に空を見上げるシーンがあります。グリフォンだったか、、、一匹でもみんな大事な仲間がバタバタ死んでいくのに、それがものすごい数が現れたのを見て、、、、


そして、そこで主人公が覚醒して、、、、そしてガラやネイが戻ってくる、、、、という話になるのですが、僕は、このシーンがとても好きで、、、、というのは、一つは、


どうにもならない絶望感


と、



ありえないような絶望のどん底から一筋の光明のような希望が舞い降りる瞬間



が、見れるからなんですよね。物語って、そういうドラマトゥルギーの落差が欲しいなと僕は思うのです。


BASTARD!!―暗黒の破壊神 完全版 (Vol.1)


けれども、、、、この絶望のどん底感を描けるのって、とても難しいのです。なぜならば、主人公は、当然強者であり、世界を救うものじゃないですか、基本的にそういう前提が隠れているのが普通で、なかなかこの絶望が描けない。この絶望は、まったく力がない、一兵卒や一市民の視点から出ないとわからないからです。そして、勇者やヒーローと呼ばれる存在の、「凄み」というのも、このどん底の絶望との「落差」を通して出ないと、実はわからないんじゃないか、といつも思っています。


けれども、なかなかそういう描写って描けないんです。ファンタジーで世界を救うって、そういうレベルのことなんですが、、、そういうマクロレベルから感じられる、凄みってのがなかなか表現されない。


けど、この『平兵士は過去を夢見る』の人類が滅亡寸前まで追い詰められていくところからの逆転劇の描写は、素晴らしかった。小説ってのは、ワンシーンのアイディア勝負なんだなーと、しみじみ思います。『勇者のお師匠様』もそうなんだと思うんですが、どっちも、書くとなるアイディアはシンプルで非常に力強い。平兵士が、もし生まれ変わったら?という部分と、勇者にも慕う師匠がいたら!(勇者は女の子で、師匠が男の子)という核があって、それが「成り立つような世界観や設定を」構築していく、書いている人がそういう流れで小説を作成しているかはわかりませんが、読んでいる方としては、コアの魅力が濃厚でないと、物語ってたくさんあって、、、、特に僕はかなり読みまくっているヘヴィ-ユーザーなので、飽きてしまうんですよ、普通の話だと。どんなに出来がよくても。


えっと、平兵士って、今はまっとうな異世界転生チートものになってきています。要は平兵士の時に知った情報をベースに、世界をもっとちゃんと救おうとしているわけですが、要はなろうテンプレートです。これはこれで秀逸で上手いのですが、もちろん、、、とても小説がうまいので、読ませてくれるんですが、おっこれはっ!!!というようなコアがあるわけではありません。似たようなのはいくらでもあるからです。けど、、、この平兵士が人類が滅びの瀬戸際まで行ったのを見たというコアの部分が、オリジナルとして存在していると、急にこの秀逸な普通の作品の流れが、ぐっとしまって、輝きを帯びるんですよね。小説って、そういうオーラみたいなものが読んでいて感じると、特別感が出てくるので、世界にすごく引き込まれるんですよね。そのコアの部分以外は、テンプレート的な技術なんですが、コアがないと、そもそもテンプレートが、ちゃんと小説世界に再構成されないんですよね。なので、ちゃんと物語世界が構築されているか、ただテンプレをなぞっているだけなのかは、読むとすぐわかってしまう。なかなかテンプレートを利用するのも難しいのですよ。ただ設定作ればいいわけじゃないんでね。


まっ、とにかく。この作品大好きです!!!。


個人的には、綺麗にまとまるって終わることができると、凄く安定した王道骨太の作品になると思うんだよなー。平兵士のその後の流れや世界観設定も、とっても安定しているし、、、、個人的には、こういう作品はアニメで見たい作品ですね。非常によくまとまってて、コンパクトでインパクトがあるので。脚本しやすいと思う。『勇者のお師匠様』も同じだなー。非常にまとまりがいい作品なんだもん。おわりも、ちゃんと見えるし。


とにかく、おすすめです。