ストックで生きていく世界とはどんなところなのだろうか?

最近、ふと思うのだが、ライフスタイルのパラダイムが変わったな、と感じます。


ヤンキー化する日本とか、成長よりも成熟を求める、里山資本主義、絆の再帰的な構築などなど、このブログで考えてきた大きな流れが、最近、僕の中で一つのキーワードに結びつつあります。


キーワードはストックで生きていく世界です。


どういうこと?と思うかもしれませんが、経済学でいうストックとフローの違いのことです。


たとえば会社を評価するときは、3つの視点で考えます。P/L、B/L、キャッシュフローですよね。その時にみんな、P/L、、、言い換えれば日銭の稼ぎを凄く気にするんですが、、、、実は日銭が真っ赤っかでも、B/Lの資産が巨大だと、非常に豊かに生きているケースがあるんです。考えてみればそうですよね。償却の終わった凄い設備がいっぱいあったりすると、稼いでなくても、凄い物持ちである可能性はあるわけです。イギリスなどは、大英博物館大英図書館を考えれば、そのストックの凄さはわかるはずです。京都が美しい街であるのも、ローマが観光に素晴らしい街なのも、ストックですよね。観光はありますが、別に工業で製品を生み出すわけじゃないけ。しかし凄いストック(=資産)というのがわかると思います。


僕はこのストックという言葉を、考える時に、学生の頃イギリスの友人の家に少し長く滞在した時のことを思い出します。これは、僕の中で、色彩鮮やかに衝撃として残っているエピソードなんです。


それは、友人の家のお父さんと話していて、その家が、ほとんど金がない家なんですよね(笑)。まともにだれも働いていない。職がないのもあるし、職があっても年収100万ある?とかそういうレベルの仕事。全く稼ぎがないんですよ(苦笑)。もちろん正社員とかじゃないです。・・・・なのにそれなりに優雅に暮らしている。


というか、そもそもなんで生きていけるの?って、凄い不思議になったんですが、、、、


そりゃーおれは、労働者階級じゃないもん、というんですね、そのお父さんが。どういうことかというと、先祖代々の牧場を持っていて(凄い小さい)、しかも家も馬鹿でかいので(古くからある家なんで、古いけどでかい)、人に部屋をいくつも貸しているんですね。もちろん、トータル合わせても、一家族が生きていくには、、、相当しんどくない?というぐらいの微々たるものだったみたいなんですが、、、、。


その時うちの父の年収を話していて、その人よりも、はるかに多い年収をもらっていたんですよね。そのお父さん、無職なので、無給だし(笑)。でも、そのお父さん言わせると、でも君の父親は、労働者だろう?そんなのなりたくないよ、というんですよ。


どういうことか?って聞くと、君の父親は労働者(=日本的な表現でいえばサラリーマン)だから月収で暮らしているんだろう?と。そんな労働者階級みたいなことはしたくないっていうんですよね。つまりは、月収で暮らしているということは、働くのをやめた途端お金がもらえなくなるわけで、毎日あくせくアップアップして暮らしていかなければならないんだろう?と。そんなの会社とお金の奴隷だろう?って。


衝撃を受けましたね。


ようは、この人って先祖代々の牧場のあがりとか家賃で食べているんですよ。自分は、労働者じゃないって言うんですね。資本家というのかわからないですが、少なくとも働かずに食べている。資本家?と言っても、食うや食わずのぎりぎりの生活ですけれども。労働者でも、月収が全然高い人は、たくさんいます。


最初は怠惰な家だなーって思っていたんですよ。何もしていないし、働いていないし、、、、でもそう思って考えると、お父さんは毎日昼頃起きてきて、すぐ庭のバラとかの手入れをし始めて(はっきり言ってあまりきれいな庭じゃない(苦笑))、奥さんはなんかの地域のNGOあつまりでいなくて、子供は失業中で子育て、とか。夜はときどき、時間かけつてくったご飯(といっても量なんかあんまりない)を、一杯のワインでダラダラ家族で仲良さそーにだべって、、、、。よくよく考えると、とっても穏やかな時間が流れているんですよね。貯金とかほとんどないみたいだったから、不安じゃないのかな?とか思うんですが、まぁ、なるようになるぜって感じでしたし。

ちなみに、その時一緒に遊んでいた別の友人は、ロースクールを出て弁護士の資格を持っているんですが(ヨーロッパはとても奨学金が充実している)仕事がなくて小さな本屋のアルバイトをしていました。学生でないと、いろいろ奨学金や優遇されないので、今度はスペインの博士課程でも行ってみようかなーといっていたのを、、衝撃とともに覚えています。だって、物凄い高学歴なんですよ!。なんで、小さな書店のアルバイトを?と思ったんですが、それくらい若者に職がないんですよね。経済が成長していないので。超貧乏で、仕事がなくて、未来に希望もないんですが、学生やっている方が優遇されるので、凄い勉強するんですね、みんな、、、。別に社会に出るのには全く役に立たないようでしたが(苦笑)。素晴らしい国だ、、、と思いました、、、。オーバードクターの日本の問題なんて、当然当たり前の問題なんですね、、、だって20年前だもん、このイギリス。


これって、決して貧乏だとか、その反対として絆が深い家族の穏やかな、とかわざわざ称揚するほどの大げさなものでもなくて、ようは普通の暮らしなんですよね。あるもので生きているわけですから。当時は、しゃかりにきに働く24時間戦えますかサラリーマンが常識の根幹にあった(20年以上も前)僕には、若干の軽蔑とともに(=毎日社畜のように働く倫理が正しいという勤勉さの価値観があったので)凄い眩しく見えましたが、、、でも、なんというか、自然な落ち着いたところなんですよね。高度成長とは言わなくとも、経済成長がなければ、若年層には職は見つからないし、仕事自体はワークシェアリングではないですが、増えないので、あくせく働く方が悪のような、、、、ああ、これって、ヨハンホイジンガが描いたヨーロッパ中世の世界の価値観ですね。もしくは、中国の竹林の七賢みたいな仙人生活ですね。そういうふうに自然となるんですよ。このへんは、わかりやすいのならば、岡田斗司夫さんの評価経済社会の本がいいですよ。

ぼくたちの洗脳社会 (朝日文庫) 評価経済社会・電子版プラス 中世の秋 (上巻) (中公文庫)



さて、前回の記事に、被害者意識と加害者意識が、極と極といったり来たりしてしまうものなんだ、、、という話がありましたが、


『きっと、うまくいく(3 idiots 2009 India)』 Rajkumar Hirani監督 高度成長を超えつつある新興国インドの現在
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20130521/p1

『「当事者」の時代』 佐々木俊尚著  極端ではなく極をつなぐ中間領域を代表するリベラルの再構築を
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20140419/p1


「当事者」の時代 きっと、うまくいく [Blu-ray]



同じように、高成長をして経済が順調にパイを拡大している時期のフローに生きる勤勉さの価値観と、ストック(=いまある手持ちのもの)からのあがりで生活して、経済が停滞してパイが拡大しない世界の中で生きていく価値観には、極端な差があるのですが、どっちかの極から他方を見るとキラキラ輝いていたりみえたりして、極端な判断になってしまうんだろうと思うんですよ。


谷本真由美さんの本(僕大好きです!Twitterいつもみたいます!)を読んでいて思うのは、この落差の話をしているんだろうなーと思うのです。実際、日本のひどい点から見ると、100年にわたるヨーロッパ病、イギリス病を超えて衰退を経験している西ヨーロッパ諸国の日常生活レベルでの豊かさ(成長を脱却して日常に回帰しているんだよっ!!!)は、そう見えるんだろうなーと思うのです。でも、これは、僕は時間の問題だろうと思います。日本は、既にフロー所得からストックで食う経済構造に転換してしまっています。

日本が世界一「貧しい」国である件について

また、フロー所得の中で、高い労働倫理を維持していくことは、、、、いやもしかしたら、ストック所得の中でさえも高い勤労意欲を維持する(江戸時代を見よ!)ちょっと狂った日本(笑)は、それはそれで、ありなのかもしれません、と僕は思います。まぁ、今は世界中どこでも住めるんだから、いろんな場所があってもいいじゃないですか。ちなみに、ということで、日本が今後見習うべき社会のモデルの一つは、連合王国(=イギリス)なのだと僕は感じています。「衰退国」の先輩としてです。重要なモチーフは、美しい年齢のとり方です。

イギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)


大英帝国が衰亡していなかった、フローからストックで生きる経済に転換しているのです。その転換が何をもたらすかは、その知恵と結果が、連合王国の現代史にはつまっています。


これからは、イギリスですよ!!!


さて、ふり幅の極と極がだいたい見えてくると、全体像が見えてきます。

ジェントルマン資本主義の帝国〈1〉


僕はとっても、イギリスのような非常に豊かなストック(学生の頃、イギリスに行ったときに大英博物館とか、、、毎日1週間ぐらい通いましたが、、、泣けてくるほど素晴らかったです。)で、働かずに絆を重視して日常を戯れる生活にとっても憧れていましたが、、、でも、逆に、日が沈んだ国からすると、それなりの経済成長を維持する日本やアメリカのような経済成長が2-3%維持する(もしくはしようとできる)安定した低成長社会は、とってもうらやましいものであるそうです。高度成長をする新興国の5%以上とかは、狂っているので軽蔑しかならないようですが(嫉妬も凄いありますしね)、安定して沈まない低成長は、本当はうらやましいそうです。


というのは、経済のパイが広がらないということは、階層や階級が固定化して、成長したり社会改良をする動機が失われやすく希望が無くなるからです。充実が、その代わりにストックさえあればあるんですが、、、どっちもないものねだりなんですね。ちなみに、成長が失われてもっとも苦しむのは、ハンディキャップがあったり階層の下で固定化される層です。あくせくする社畜があふれ、ブラック企業が蔓延る資本主義社会の競争社会のほうが、弱者にははるかにやさしいです。経済のパイがあればこそ、再分配が可能だからです。こんなの当り前のことですが、実はこのことがみんな実感できないので、おかしなことをいいだす。成長がない再分配など、滅びへの道まっしぐらなんです。経済が沈む国は、そして右翼の台頭と排他性に悩まされるのは構造的な帰結です。ちなみに、では成長を維持するために移民を受け入れると、これも排他性と右翼の台頭を招くんですよね、、、シムシティの条件のようなものですねぇ(苦笑)。これって、僕がよく言うグランドルール(=大きな決まり事や仕組み)みたいなもんです。


これも世界を眺めるときの大きな鳥瞰図の一つ。


日本経済は100年に一度の巨大な経済構造の転換点にあります。マクロのことは為政者が考えるといって切り離すことも可能ですが、、、けれども、マクロの動向を知らないと、自分の人生を損してしまいます。一度しかない人生、楽しく豊かに生きたいじゃないですか?。なので、こういう大きなマクロの波、パラダイムの変化はちゃんと知るべきだろうと思うのです。


『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』 原田曜平著 世界はメガリージョン(=広域大都市圏)と地方・郊外の二極化が起きるのか?
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20140316/p1


里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』 藻谷浩介著  これからの人生をどう生きるかの指針に
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20130814/p1


デフレの正体 ──経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21) ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体 (幻冬舎新書)


さてさて、ヤンキー経済や里山資本主義など、、、要は、絆を求めるクローズドコミュニティが、安定して美しくなるにはどうするか?を考えると(ヤンキはー基本的に、右翼で、マクロ無視なのですぐ戦争など全体主義に動員されやすい)、ジェントルマン資本主義を経て、衰退していながらも豊かな人生を送る大英帝国の衰亡の仕方が、、、、というような話の流れは、ずっとブログを読んでいてくれる人は、よくわかると思うのです。やっとここに、、、、いまイギリス経済の評価でジェントルマン資本主義の話が、たぶんトレンドだと思うのですが、なるほどこことつながるのか!!!と、最近エウレカ!!!と、叫んでいる感じです。


この記事は、最近の思考の流れの総まとめなので、物語三昧のファンは、よく読み込んでいてください(笑)。次のラジオとかでも前提の話になると思いますのでー。最近は、日本がどこに行くのだろう?。僕らが住むこの後期資本制の社会でのミクロの生活はどうなるのだろう?、そしてそれを積み上げていくマクロの世界はどうなるのだろう?とわくわくしています。


ちなみに、このブログを長く読み込んでいる人ならば、このタイトルの問の答えは、既に知っているはずです。問は、ストックで生きていく世界とはどんなところなのだろうか?、です。


わかりますよね?


日常系、無菌系など、、、仲間と絆をつくりだし永遠の日常をミクロの関係性のみで戯れるとはどういうことなのか?は、ヲタクのサブカルチャーだけでなく、このブログで紹介してきた様々な本や映画に現れる世界的な傾向です。


なんか、最近そんなことを考えてますー。


里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)