空気に逆らったとしても、決して日本が嫌いではない好例。

イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る 雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言 (講談社+α新書)

最近、この人の本が好きで、追っています。

何がおもしろいかっていうと、もちろん元伝説のアナリストということもあるんで、彼の日本経済に対する鋭く深い分析は、目が鱗なものが多いので、凄く面白いというのはあるんです。でも、それよりも、その背後にある、人柄と生き様が、とても興味深いと思うのです。この人は、本を読んでもわかるし、アナリストの頃から、ずーーっとのどうも嫌われ者のようなんですよね(笑)。どういう風に嫌われ者かというと、いちいち見事なくらいに日本の常識を解体する論陣をクールに張るからなんですね。ようは、空気に逆らいまくり。それもバブル絶頂期の日本の銀行首脳部とか、日本社会でやったら、いじめぬかれて抹殺されかねないような論陣を張るのが好きなようなんですよ(笑)。いって見れば情緒的でないホリエモン?みたいなものですかね(笑)。ずっと海外の日本のを見る目の中で、個人的には、イギリス人のみる日本分析が最もクールでかつ容赦がない、と感じます。アトキンスさんもイギリスの方ですね。イギリスの人の分析って、感情を排するのがすごく上手な気がします。

そして、そういった日本のメジャーな常識とされる空気に真っ向から逆らって、日本人の自尊心をずたずたにするような言説を語るのだから、さも日本が嫌いな嫌なやつだろうか?と問うと、在日20年以上。そして、それってあきらかに引き受けると損じゃないか?というような伝統工芸社の社長を引き受けたりと、もうどう見ても日本を心の底から愛しているとしか言えないような生き様なんですよね(笑)。ああ、こういう人って、信用できるなーって思うんです。だって、自分のイギリス人としての視点、個人としての分析の軸は一切変わること、おもねることなく堅持され、それでいて、実績として日本がとても好きなんですよ、トータルでは。だからこそ、おかしいところは、真っ先におかしいと切り込む。自分を偽らない。日本に生きるわけだから、日本におもねるほうが生きるのが楽なはずなのに、それをしない。僕はこの人柄、生き様が、素晴らしいと思うんです。こういう人の意見は、評価され、そして受け入れられるべきだ、と凄く思います。

ちょっと分析的なことを言うと、僕は、最近、常識っていうのは本当に神話のように捏造されるものなんだな、としみじみ思うのです。それも、ほんの1-2世代だけで、文化とか伝統とか言われてしまう。たいていの、これは我が国の伝統だ!とかいうものは、捏造のウソが多いんだ、と驚きを感じます。たとえば、前にも書きましたが、日本は持たざる国(資源を)なので、資源を求めて侵略するか、加工貿易立国で生きていくしかなかった、とはよく言われます。けれども、戦前の大日本帝国の領土は、既に大英帝国を上回る規模であり、資源も十分にあったんです。また、戦後の日本は天然資源に恵まれないといわれましたが、まずもって単独ですべてを賄えるアメリカと比較していること、また日本が歴史的に天然資源が豊富で銀や銅など一大輸出国であった事実を全く無視している議論です。日本のリーダーは、西郷隆盛東郷平八郎のように、部下にすべてを任すタイプのリーダーが理想というのも、戦前の日本海海戦の勝利の時のリーダーたちの振る舞いをすべて葬りさって捏造されたウソだったのも歴史学者が明らかにしています。ことほどさように、僕らが前提としている物語は、捏造が多いのです。結局は国家は想像の共同体なので、意味のある捏造もないとはいいませんが、それにしても、と思います。

そうした中で、アトキンスンさんの分析ってのは、高度成長期の日本の神話や前提をすべて、逆なでするような発言なんですね。日本は技術立国といっているけれども、別に高度成長は数字的に見れば人口増にリンクしているだけで、そもそも戦前に日本は、世界第六位の経済大国で、そのレベルがそのまま人口に比例しただけで世界第二位の経済規模になるのは、あたりまえの話で、けっして技術が優れたわけでも何でもないし、一人当たりの率を見ればドイツに確実に下回っている。数字で見れば一目瞭然、というのは、いやはや非常に納得。

それで何がこの視点に、なるほどって思うかというと高度成長期に捏造された神話を解体する力があるからだと思うんですよ。なので、たぶん日本の既得権益の空気メーカー(笑)たちからすると、許しがたい発言になるんですが、僕は彼の人柄と生き様を見ると、それは、愛ゆえのツンデレ(笑)とまではいいませんが、とてもクールで価値がある意見だと思うのです。


特に、もう一つは、高度成長期に生まれた日本社会のモノづくりこそ世界最高!という視点は、明らかに、僕もよく思うのですが、供給者側の傲慢な論理をのためのウソにしか聞こえません。それは、世界の90年代以降の日本のメーカーの凋落を見るとよくわかると思うのです。こういうのを告発してくれる姿勢は、いやはや、本当に素晴らしい!と思います。


彼の本やインタヴューは、僕はとてもおすすめです。


それと、僕は人の意見は、その時の脊髄反射やその時だけの文脈で評価されるべきではないと思っています。人柄と生き様。人柄とは、その人が、長い年月に変わらずに保つ対人関係のパターンや、滲み出るものです。それは、その人の交友関係の実績に深く表れます。どんなに嫌みで暴言のようないやなやつに見えても、その人が幸せそうだったり、友達に恵まれていたり、仕事で長く成功したりしている場合は、個人の好き嫌いはともかく事実としてその人が、なにがしかの安定した魅力を持っていることを示すんです。また、生き様とは、その人の選んできた人生の決断を見ると、その人は、「いっていること」と「やっていること」に差があるかどうかはよくわかります。この差が少ない人ほど、その場その場での一部の発言や行動ではなく、その人の人生の事実、行動として、正しさ、その在り方の中身が現れます。こういうのは、自分の好き嫌いを排して、少し長く観察し続ければ、すぐわかるものです。そしてそういうのを見る力がない人は、まぁ、あんまり人生、幸せになれませんよね。僕はそう思います。

イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」 (講談社+α新書)




「日本われぼめ症候群」の深層
デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長)×石倉洋子【特別対談7】
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「おもてなし」礼賛は日本人の思い上がりだ-観光立国を名乗る前にやるべきこと
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