司馬史観の呪縛は、一度かかってから解きほぐすと、いい感じだと僕はいつも思います。

この国のかたち〈1〉 (文春文庫)

以下が夢だったのかどうかは、わからない。ともかくも山を登り続けていて、不意に浅茅ヶ原に出てしまった。そこに巨大な青みの不定型なモノが横たわっている。君はなにかね、ときいてみると、驚いたことにその異胎は、声を発した。「日本の近代だ」というのである。

ただしそのモノがみずからを定義したのは、近代といっても、1905年以前のことではなく、また1945年以後ということでもない。その間の40年間のことだと明晰にいうのである。「おれを四十年と呼んでくれ」と、そのモノはいった。

日本史はその肉体も精神も、十分に美しい。ただ、途中、なにかの変異がおこって、遺伝学的な連続性をうしなうことがあるとすれば、「おれがそれだ」と、この異胎はいうのである(『この国のかたち』1、強調は引用者)。

司馬史観の呪縛/池田信夫 blog
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51965355.html


面白い。同じことを僕も凄い思ってきた。司馬さんは、大好きで愛している作家だけど、司馬さん自身が、俺は昭和がわからないって何度も言っているんだもの(苦笑)。司馬さんの本をよく読んでいる人は、身にしみてこのことはわかるはずだ。それくらい彼自身が気にしていたことだから。日本のナショナリズム愛国心の系譜を見るには、これって重要な視点なんだろうと思うんですよねー。こつこつ、司馬さんのこのエッセイを読むと、本当に素晴らしいです。司馬史観と上から目線でいうだけではなく、この素晴らしい知性を限界も含めて、いろいろ読むと、本当に興味深いですよ。


ずっといっているように、日本の近代史を極端な善悪二元論で考えてしまいがちな終末戦争的な発想や、欧米近代化との植民地に抵抗する争い(善の戦争)としてとらえるのは、感情的にはわかるし時代の制約もあるんだけど、せっかく日本も豊かになったストックで生きる国なわけだし、時代的に古い類型に出感情動員ばかりされないで、こういうのを解体するようなメタな視点で見れると、歴史を眺める目が面白くなってぼくはいいと思います。そのためには、司馬遼太郎のさんの本は、導入部としてはエンターテイメントでわかりやすい、日本の近代化、明治国家の素晴らしさを全肯定しているので、いいですよ。そして、そこで日本人ならば、日本は凄い!と思って、その後、解体に入って中和するのが、僕はいい道筋だと思うんですよねー。プラスもマイナスも、自分の頭で考えることなしに感情移入して依存するのは、およそ自立した人間ではないと思うし、そもそもそういう偏った人は、世界を眺める視差が面白くないと思うんですよ。


難しいのはわかるし、なかなか感情の脊髄反射から自由であれないのが、現実を生きる人間ですが、、、せっかく豊かな国生きているわけだから、できれば、、、、ねぇ。あと、日本の近代の肯定にはいい物語はなんといっても、みなもと太郎さんの大傑作『風雲児たち』です。超おすすめです。



歴史学の先生は、逆のパターン(否定→肯定)でないと人は、物事を疑わない(=自分の頭で考えない)ダメな人間になるといっていたのを聞いているが、全然違う視点からいうと、先進国の中産階級や市民は、自分の立場がリベラル化して「なにもないじぶん」に悩む病気にかかるのが普通なので、基本的に自信がない。なので、最初に自信がある程度持てたほうが、厳しい人生という名の戦いを生き抜ける気がします。


ちなみに、外国で暮らしている人は、たぶん日本人である自分のマイノリティな感覚が強くなるので、肯定の歴史と自信を持たないと、生きていくのも困難になるので、ナショナリストになりやすい。それでいいんですよね、海外においてはマイノリティだから。でも自国にいるときは、マジョリティなので、自国の歴史ばかりに自信を持っていると、周りが見えていない自己中心的な人になりがち。そういうのって戦争したり、自分の正義を押し付けたり、わけわかんなくなる。なかなか難しいことでござるよ。でもまー世界の多様性を、物語を、現実を楽しみたいならば、いろいろな角度に対して感情移入できる好奇心を持つことが、僕は大事だと思うけどね。そうでなくても人間はナルシシズムに沈む生き物なので、努力ぐらいはして、ちょっと他者に感情移入できたら、少しは豊かになるんじゃない?とかいつも思うんだけど。


ちなみに、司馬史観に慣れたら、というか、『坂の上の雲』とかで、明治日本すげぇ!なんてかっこいんだ!!!と自国のすばらしさっぷりに酔ったら、その次に、司馬さんの担当編集者で、彼の本懐を継いだと僕は思っている半藤一利さんの『昭和史』を読むとお薦めです。全く逆の話が見れます。知識がある人は本で、十分最高に面白いですけど、あまり知識がないなーという人は彼の講義録を聞くのをお勧めします。全部すぐそんなに高くなく買えるはずなので。歴史は基礎知識がないと無味乾燥になりやすいので、導入時は司馬遼太郎さんのようなエンタメで入らないと、入れないんだよね。昭和史はそうでなくとも複雑なので、耳で何度も聞くのと、一気通貫で聞くと、、、、ははぁ、、、あの素晴らしい明治国家には、後の世にこれだけ最悪の事態をもたらす種が内包されていたのか!!!と驚きます。


ちなみに、そこまでいくと、WW1と2を、ヨーロッパやアメリカから見る視点、そして中国や韓国などアジアの列強に食いものにされた国々の近代史を学んでいくと、このあたりの映画や小説が、最高に面白くなるようになります。ちなみに、中国近代史は、中国自体の本を探しても、圧倒的に日本の『蒼穹の昴』シリーズが圧巻ですね。おすすめですです。

風雲児たち 幕末編 1巻【期間限定 無料お試し版】