『辺獄のシュヴェスタ』 竹良実著 こんなにも人生厳しくなくてもいいだろうに、、、と思ってしまう。

辺獄のシュヴェスタ 1 (ビッグコミックス)

評価:★★★★★5つ
(僕的主観:★★★★4つ)

2巻まで読みましたが、かなりいい。素晴らしい題材、そしてあまりに苛酷かつ残忍で厳しい話で、目をそむけたくなるほどきついテーマと題材であるにもかかわらず、読ませる画力と演出。とてもいい作品に出会いました。まだ完結していたいので、評価はできませんが、これたぶん、★5つクラスの作品になると思います。この時代の話は、興味があるんですが、『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ』といい、最近、これほどスーパーマイナーなテーマなのに、それなりに見るような気がします。


なんでか?というと、これたぶん、新世界系でかつ女の子をいじめ抜く話になるからだろうと思うんです。『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ』もそうですし、これでもかと主人公の女の子が悲惨な目にあいますよね。それも、この時代の宗教戦争に巻き込まれるとなると、もうちょっとやそっとのレベルではない、残酷な話です。


新世界系というのは、セカイ系に代表される、自己に閉じこもって、自己に都合のいい世界に耽溺る、もしくは対幻想的世界に逃避する、ありえないハーレムの永遠に繰り返す日常に閉じこもるという現実からの逃避を肯定するご都合主義に対して、それは違う、とある意味極端な突然死の演出のごとく、世界の一番厳しい極端な地獄にキャラクターたちを直面させることで、世界のリアルを感じさせようとする昨今の傾向をさしていいました。これを考えていく過程で、どうも、女の子の主人公が、悲惨な目にあっていくケースが頻出しているんじゃないの?という話になったことでした。これ、なんで女の子か?というと、いま書いているスターウォーズ、エピソード7で、なんで女の子が主人公に、ヒーローになるのという話と同じなんですが、たぶん成長物語を描こうとすると、少年や男の子だと、その任に堪えれなくなっていているのだろうと思うのです。新世紀エヴァンゲリオンのシンジくんでも、クリストファーノーランのバットマンでもいいのですが、もう男の子に成長物語を素直にやらせるのは、あまりに正義の保証のない中で、不可能になっているんだろうと思います。それがなんで、女の子であると可能なのか?は、今後、考察を加えていくつもりですが、女の子に成長物語の、ヒーローの役割を与えることで、その代わりに、女の子が、世界の苦しみを一身に背負うというモチーフが出てきやすくなっているのではないかと思うのです。物語の原型で考える時に、ヒーローはなにかと定義すると、世界に対して受身であること、とよく言われます。いいかえれば、世界の課題、もう少し細かく言うと世界の苦しみを一身に引き受けるからヒーローなんですよね。男の子が、その特権を失って、奪われて、あるいは自ら玉座を降りることによって、女の子に順番が回ってきたのですが、それはすなわち、この正義が保証されなくなった、めちゃくちゃに複雑な世界の苦しみを一気に引き受けざるを得なくなってしまっているのでは、、、、と、最近の僕は思います。


まぁ、この辺はメタ的な考察ですが、いいですよ。『辺獄のシュヴェスタ』。『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ』よりも、主人公の目指すところが、はっきりしているので、物語が凄くしまっています。これで、ちゃんと描き切れれば、素晴らしい傑作になる予感がします。


ちなみに、このあたりの背景は、まだまだ勉強不足なので、いっぱい読めば読むほど、面白くなると思います。けど、ここにおけるテーマは物語の類型は似ていると思うので、この後上げる本をお勧めします。どれも素晴らしく面白いですよ。佐藤賢一さんの小説が、とりわけいいです。

特に、この『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ』は、フス戦争を題材に扱っているのだけれども、ヨーロッパ史におけるプロテスタントカソリック宗教戦争は、僕はとても興味深い題材だと思っているんですが・・・・これは、文脈読みのテーマで見ている「バトルロワイヤルもの」のテーマを考えるときに、まさにそれが実際にあった部分なんですよね。僕はこのバトルロワイヤルモノを、「万人の万人に対する闘争」みたいな言い方で書くんですが、このテーマを歴史的な題材で描くとなると、日本史でいうと、織田信長一向一揆の争いのあたりであり、ヨーロッパ史でいうとドイツの宗教戦争だと思うですよね。作者が意識しているかしていないかはともかく、この辺の歴史題材テーマを、突き詰めると、そのあたりが実は重なってきているように僕は感じています。


ただし『ドロテア−魔女の鉄鎚』もとてもいい題材だったし、ドイツのカソリックプロテスタントではない地元の宗教について扱ったこと、また作者がエンターテイメントになれているのでわかりやすくまとめることができていて、とてもよかったのですが・・・・おしいんですよね、、、。このあたりの歴史テーマの宿命というか、まだまだ「この題材を掘り込んだエンターテイメント」が少ないので、作者も読者も知識がいまいちなんですよね。えっと、作者が勉強が足りないとかそういう意味ではなくて(たぶん作者は相当勉強して知識あると思います)、、、、たとえば、、、2012-14ぐらいにアフリカ系アメリカ人の映画って物凄い充実ぶりなんですよ。『12 Years a Slave』や『大統領の執事の涙』など、物凄い大作傑作が連続して出ているんですね。これって、それまでにたくさんの作品が死屍累々の屍があって、、、たとえば『アミスタッド』とか『グローリー』とか凄い素晴らしい作品だけど、あまり興行成績が振るわなかったんですよね。この題材をどのように扱い、どのあたりが物語性があって、とかそういうことがかなり研究しつくされているエンターテイメントのアーカイブがそろっている状態になって、かつオバマ政権の誕生が起爆剤になって、こういう現象が起きているんだと思うんですね。なので、ドイツの歴史を扱ったテーマをしようとすると、日本では、まだまだアーカイブが足りない状態なんだと思いますよ。


『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ』  大西 巷一著  最近ドイツの歴史が自分の中でじわじわ熱いです
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20150605/p1

辺獄のシュヴェスタ 2 (ビッグコミックス)


乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(3) (アクションコミックス(月刊アクション))


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