ブッシュとクリントンファミリー王朝への拒否感

ジェブ敗北の背景には、世論の「ブッシュ王朝への拒否反応」がある。そのような総括ができるだろう。そこには今のアメリカ世論が抱える2つの感情が浮かび上がってくる。

1つは、リーマン・ショック以来の経済の低迷期、つまり「オバマの8年」だけでなく、911テロから、アフガン・イラク戦争、そしてサブプライムローンバブル崩壊に至る「ブッシュの8年」について、アメリカの左派だけでなく、保守層も拒否反応を持っているということだ。

 アメリカの保守派が、「オバマの8年」を苦々しく思っているのは言うまでもない。つまり、同性婚がいつの間にか合憲化され、キューバとの国交正常化や移民への救済措置などが既成事実となる「リベラル主導の政治」に対する拒否感がある。さらに景気刺激策などに多額の国費を投入しているにも関わらず、景気と雇用の戻りが遅い現実に対して、心の底から怒りを抱いている。


では、その前の共和党ブッシュ政権時代は「良かった」と思っているのかというと、それも違う。例えば、トランプの発言は一つ一つを見れば、国際常識に反した暴言だが、イラク戦争への批判や、911が阻止できなかったことへの批判などは、2000年代の「草の根保守」とはまったく異なる立場に立っており、2016年の現在では広範な説得力を持っている。

 この点ではクルーズも、宗教保守派を自認しつつ「中東の国家について、いくらその行動が悪質だからといって、アメリカが侵攻して政権を交代させる戦略はもはや取るべきでない」、つまり「政権交代戦略」は放棄すべきだという主張をしている。こうした主張が左派ではなく、右派から出てきて、保守票の中にも広範な支持が広がっている。これはそのまま、「ブッシュの8年への否定論」となっている。


【参考記事】「暴言トランプ」の正体は、タカ派に見せかけた孤立主義
http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2016/02/post-810.php


 2つ目は、さらに「パパ・ブッシュジョージ・H・W・ブッシュ元大統領)」の時代にまでさかのぼり、「ワシントンのエスタブリッシュメント(支配階層=既成の政界)」への怒りの感情だ。単にイラク戦争サブプライムのバブルへの批判だけでなく、オバマの8年もダメ、その前のブッシュの8年もダメ、さらにビル・クリントンの時代は良かったが、そのクリントン一家は嫌い、またその前のパパ・ブッシュの4年もいい時代ではなかったと否定している。

 極端に言えばこの28年間のアメリカを支配してきた「ブッシュとクリントン」の2大ファミリー(とオバマ)について「まとめて拒否したい」という心理----トランプを大勝させ、ルビオ、クルーズという若い世代に期待を寄せるという共和党支持者の心情の核にあるのは、そのような感情だ。

 その「エスタブリッシュメントへの怒り」、そして「過去28年への怒り」は、今回はまず「ブッシュ王朝」を潰すという結果で共和党内ではっきりと示された。一方で、民主党の「サンダース躍進」という現象となってヒラリーを苦しめているのも同じ感情であり、ヒラリーは「過去の実績をアピール」する戦術ではなく未来へ向けての政策論へと主張をシフトする必要を迫られている。

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/02/post-4562_1.php
「ブッシュ王朝」を拒否した米世論2つの感情
イラク戦争への批判と既成政治への怒りは今や保守層に広く浸透している
2016年2月22日(月)11時40分
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)


アメリカの大統領選挙は、さまざまな過去の総括、世界戦略、国内政治の総決算と未来を見せてくれる。なので、追いかけていると、凄い勉強になる。長期間に膨大な金額をかける選挙戦にぜひもあるとは思うが、政治を考え直す上では、毎4-8年ごとにこういう全国民を巻き込むロングランの政治論争があるのは、僕は悪いことではないと思う。結局は、若者や、選挙に足を運ばない層をどれだけ動員して、啓蒙し続けるかが、民主主義の質を問うことになるのだろうから。それにやっぱりこうして細かく見ていると、人類のフロントランナー的な部分があるようなぁとしみじみ思う。日本、西ヨーロッパ、北米はの先進各国の動きというのは非常にどれも似ている。もちろんその国のローカルな変数はあるんだけれども、大きなマクロの仕組みが似ている。そりゃ、経済のステージが似ていると、似るんだよね。先進国では、もう極端な政策が取れなくなっていて、常に中道の現実路線に落ち着かざるを得ないのがここずっと続いている。しかしながら、新興国の対等と、グローバリズムによる富の平準化が起きて、特権的だった先進国の中産階級が崩壊し続けている。このトレンドは不可避かつ、不可逆的で、今のところ手の打ちようが無い。なので、じわじわと、先進国の中産階級が、崩壊して、生活が苦しくなっていく中で、政治的に極端な変化を望むように、我慢がきかなくなってきている。しかしそういっても、ちゃんと教育され世代を重ねた先進各国は、理性的な、リベラリズムの浸透した市民が育成されている部分も無いわけではない。いくならんんでも、極左や極右的な意見が、結局のところは世界的な破滅の引き金になってしまいかねないということは、わからないでもないはず。そのバランスを、どう市民は考えるのか?。その重要な試金石になるのが、この選挙だと思う。