『The Martian(2015USA)』  Directed by Ridley Scott Based on by Andy Weir  古き良き古典SFの文脈を受け継ぐ科学至上主義と楽観主義

The Martian [Blu-ray + UV Copy] [2015]

評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★★5つ)

デルタの飛行機の中で見たんですが、素晴らしい出来でした。自分が着目した点は二つ。一つは、この作品を楽しむには、かなりの科学に対する知識が必要ということ。特に小説の方が、淡々と描かれているのに顕著だったんですが、何もない環境下でどうやって水を作りだすか?、火星の土を使ってどうすれば畑を作って食料を育てられるか?などなど、科学的な常識が大前提にないとどうにもならないものによって、ゼロどころかマイナスともいえるような場面から、物事をひっくり返していく。この面白さがわかるためには、ケミカルの知識など基礎的な科学という文明のベースがなければ、面白さが半減すると思うんだよね。もちろん、映画はそこはさらっと書かれていて、そこまで深く説明されていないので、誰にでもわかるようにエンターテイメントで描かれているけれども、「そこ」の面白さがこの物語の本質なんだろうと思う。なので、小説版で、細かくそれが説明されているところは、知識があればあるほど興奮すると思う。アストロノーツライトスタッフをこれでもかと感じるので。


そしてもう一点は、この作品の世界観が、古き良きSFの科学教への信仰と帰依を強く信じるものなんだな、と感じるところ。孤立主義の雰囲気を強くする内向的な局面のアメリカ(2016年半ばのトランプ支持の話ね)において、それでもこうした科学万歳!!!という科学への強い信頼をベースにする世界観の物語が売れるのは、さすがにアメリカだなと感心しました。アメリカに来て、心底思ったのは、この国はテクノロジーのフロンティアに強いあこがれがある国で、国民的な雰囲気としてテクノロジーの先端に向かっていくこと、その一員であることを誇りに思うような雰囲気が満ち満ちているんですよね。ライト兄弟とかでもそうだし、そこら辺の博物館に行ってもそうだし、フーバーダムに行ったときの説明とかもそうなんだけど、どこへ行っても科学への強い愛情がある。日本で教育を受けて育った立場からすると、日本の技術立国振りが凄いイメージであるんだけれども、アメリカはそれを超えるほどの強い自負と自己イメージがある。またそれがフロンティアの開拓と強く結びついていることもあって、科学を学んだものが世界を変え、フロンティアを制覇する!それが素晴らしいことなのだ!!!というイメージに満ち溢れているんですよね。フーバーダムとか南部やフロリダの巨大な海のFwyとか、一品ものの巨大な建築物とかも多くて、それがすでに100年ぐらい前からあったりするので、日本と年季と規模が違う!って思うんですよ。うーん、うまく説明できないんですが、日本も物凄い技術先進国なんで、世界一の技術の国だ!!的な自己イメージが色濃いと思うんですよ。日本にいた時にそれを一つも疑問に思わなかったんですが、要は比較論で考えて体感すると、アメリカって物凄い先端技術の国で、それが教育や立身出世の価値観、いいかえればアメリカンドリームという形で、国の隅々まで浸透しているんだ、、、ってのが、凄いビシバシ感じるんですよね。国が頑張って主導している日本とかシンガポールとかそういう国とは比較にならないほど、深く深く国民の基礎の価値観に刷り込まれている国なんだ!そして、それによって数々のブレイクスルーを成し遂げ、大発展遂げてきたんだってのが、しみじみ感じるんですよ。なので、あちゃー日本が技術立国なんて、井の中の蛙の思い込みの一つだったんだな!としみじみ感じちゃっているんですよ。アメリカ以外の国では、ここまで感じたことはなかったんですけどねぇ。


えっと、なんだか古き良きハインラインやクラークのころのSFが持っていた科学教、科学至上主義の匂いが凄いするんですよね。この科学教の世界観に共通するのは、楽観主義です。陣るは、どんどん進歩してよくなっていく、人類はやれるんだ!!!という会議が全くない希望に満ち満ちた感じ。この作品は、中国政府が、中国の宇宙機関が、その秘密を世界中に公にして、アメリカに教えて協力することで難問を解決していきます。もちろん様々な政治的な裏取引はあるにせよ、宇宙に関わる仕事をするもの同士の強い同志愛や、人類への信頼に満ち満ちています。AIIBの事件の前ということもあり、中国に対する関係がめちゃくちゃいい。とはいえ、この楽観的な感じは、まさに、古き良きSFに感じます。僕はこの科学教の楽観主義を話す時に、いつも僕が大大大好きなアーサーCクラークの『楽園の泉』を上げるんですが、この世界って、イスラエルアラブ諸国は凄い仲がいいんですよね。なぜならば、石油マネーでだぶついた金を、アラブ諸国が、イスラエルに投資して、物凄いリターンが帰ってきているから、それで中東が安定している。アラブ諸国軌道エレベーターに賛同的なのは、石油に頼らないで、投資によってリターンを得る方法がわかっているので、同じようにそこにイスラエルの企業を通して投資しているからなんですよね。この楽観主義!!!というか理性が、絶対に怨念や貧困より上回ると信じられる楽観主義が、科学教です。その非常に良き後継者に見える話でした。


楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)


小説も、とてもいいですよ。


火星の人