多様性の尊重から共通性の尊重への文脈の変化

ドナルド・トランプ大統領の登場は、ブリクジットと並び、歴史の表象であって、決してただ単に馬鹿にしたり批判したり嫌悪したりしていればいいものではないと思う。

ちなみに、政治学者の三浦さんのブログをいつも興味深く見ているのだけれども、トランプ政権のそしてスピーチの分析で最も的を得ていて、わかりうやすく、本質をついているのが下記の記事だったと思います。素晴らしいので、ぜひ全部とも読んでみてください。どれも鋭い分析です。その中で、特に僕が、おっと思ったのは、多様性文脈から共通性文脈への変化というキーワードです。

多様性の政治から共通性の政治へ

就任演説で強調された5点目は、米国民の共通性というメッセージです。この点は、演説の中で言われたことというより、言われなかったことが重要であると思っています。

トランプ氏は、自身の当選を受けて米国の分断が露わになったので、その分断に配慮するとは言わなかった。識者の多くが新大統領の支持率が低いことを強調し、分断への配慮を求めたにも関わらず、そこはあっさりとスルーした。多様性という言葉も使わなかった。そこがキモであったと思っています。

オバマ政権期の8年を通じて、また、ヒラリー氏の選挙期間を通じて明らかになったことは、米国の従来型のリベラルと民主党が多様性以外のメッセージを失ってしまったということです。すべての問題が多様性の問題になってしまう。経済格差も、治安の問題も、医療保険も、麻薬汚染も、時には安全保障問題までもが、多様性の文脈で語られてしまう。個人のアイデンティティーに着目したときに、米国民である前に、黒人であり、ヒスパニックであり、LGBTであることが強調されてしまう風潮です。

トランプ大統領が示すのは、黒人も、ヒスパニックも、白人も、それぞれのエスニシティー(≒民族性)よりも、ナショナリティー(≒米国人性)が強調されるべきであるという世界観です。20世紀を代表する米国の政治学者であるハンチントン氏が生前の最後の大著の中で語ったのと同じ世界観です。その世界観があってこそ、米国は存続できると。

米国人性を中心に据えるとき、使い勝手がいいのが軍隊の価値観です。“黒い肌の者も、茶色い肌の者も、白い肌の者も、愛国者は同じ赤い血を流す”という格言が象徴している価値観です。今後の米国政治は、多様性を訴え続けるリベラルと、米国人性の価値観を前面に押し出した政権という構図で対立が続いていくでしょう。


トランプ大統領就任 三浦 瑠麗 山猫日記
http://lullymiura.hatenadiary.jp/entry/2017/01/21/122028


この部分ですね。

It is time to remember that old wisdom our soldiers will never forget: that whether we are black or brown or white, we all bleed the same red blood of patriots, we all enjoy the same glorious freedoms, and we all salute the same great American Flag.And whether a child is born in the urban sprawl of Detroit or the windswept plains of Nebraska, they look up at the same night sky, they fill their heart with the same dreams, and they are infused with the breath of life by the same almighty Creator.
私たちの兵士が決して忘れなかった、古くからの知恵を思い起こすときです。それは私たちが黒い肌であろうと、褐色の肌であろうと、白い肌であろうと、私たちは同じ愛国者の赤い血を流し、偉大な自由を享受し、そして、偉大なアメリカ国旗をたたえるということです。そしてデトロイトの郊外で生まれた子どもたちも、風に吹きさらされたネブラスカで生まれた子どもたちも、同じ夜空を見て、同じ夢で心を満たし、同じ全知全能の創造者によって命を与えられています。


アメリカにおける市民とは何か?ということは、ハインラインによせていろいろ記事を書いていますね。近いうちにラジオしますので、ぜひとも読んでおいてください。おもしろいので、宇宙の戦士や銀河市民を読んでおくと、理解がさらにスムーズになると思います。


「宇宙の戦士」主義者〜社会契約は自然権の上位に位置するか?
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20080419/p8

ハインラインの描く「アメリカ的なるもの」〜ハインラインの本質2
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20080419/p1

宇宙の戦士〔新訳版〕(ハヤカワ文庫SF)



□『銀河市民 Citizen of The Garaxy』ロバート・A・ハインライン
http://ameblo.jp/petronius/entry-10004368651.html

□『銀河市民 Citizen of The Garaxy』ロバート・A・ハインライン
http://ameblo.jp/petronius/entry-10004373758.html



銀河市民 (ハヤカワ名作セレクション ハヤカワ文庫SF)