『龍の歯医者』(2017Japan) 鶴巻和哉監督  こりゃあ、たいした傑作です。さすがのスタジオカラー。

http://www.nhk.or.jp/anime/ryu/

評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★★5つ)


いきなり、主題歌が小沢健二さんの『ぼくらが旅に出る理由』で始まるところから、既にノックダウンだった。


が、細かいセンスの秀逸さもさることながら、それ以上に、腰が抜けるほど面白かった。何がって、僕がまさに物語に望んでいるもの!を見せてくれたからです。さすがスタジオカラー。さすが、鶴巻さんに庵野さん。凄い傑作です。


僕は、アニメーションのファンタジーにも、『闇の左手』のLe Guinや『獣の奏者』の上橋菜穂子さん級のレベルを求めて、いつもがっかりしてしまうのだが、、、、かといって、短い時間のアニメに、死生観や宗教観まで表現してほしい、でもおもしろいものが見たい!なんて、そりゃあ無茶な要求だよと思って、天才手塚治虫藤子不二雄宮崎駿級のレジェンドじゃないと、無理なんだろうなぁと思いつつ、、、。


獣の奏者 1-4 I-IV 完結セット (講談社文庫)



このアニメーション見ていて、山本寛監督の『フラクタル』を思い出しました。僕の好みのハードSFっぽいテイストなんですが、当時これを僕は酷評しています。


その批判の内容は、死生観や宗教観が、「演出」されていないから、というものでした。

■4話まで見たの感想〜深夜番組でやる世界名作劇場のテイスト・残念なことに宗教性の概念が弱い



さてこうして見ると、僕には最初に思った残念な点が一つある。それは宗教について、、、「この世界が僕らがいいる世界とは全く違う現実なんだ」ってことを描写する「怖さ」や「凄味」が弱いことです。というのは、この社会は、フラクタルシステムが形成されてから1000年の時が経過しているという設定ですね。かつ、教団?が「この世界は終わりつつある」ということを伏線でいっていることから、フラクタルシステム「自体」のメンテナンスや開発改良は、どうも現代の人類の手に余るようになんですね。ということは、この教団って、このシステムをベースに生まれたある種の管理のための宗教なわけです。中心のシステムに手を入れられないとすれば、科学ではなく「宗教」になっていくはずなんです。意味は失われて儀式にいろいろなものが変更されているはず。そうであれば、これほど世俗的な感覚が残っているよりは、主人公たちに、僧院への強烈な畏怖や恐怖などの感情があるはずなんですよね。でもそういうのが全然ない。また、そういった宗教性を演出しようとすると、明らかに僕らには理解できないなんらかの感覚が描けないと、、、


貴志佑介さんの『新世界より』は、ずっと日本の普通の村の日常をかなりの枚数、、、上巻の半分まで描くんですが、普通の動植物に交じって、どうしても???となる、名前の動植物や民話が時々顔を出すんです。パーセンテージにして、現代の僕らが分かる部分のほんの数割の部分だけ。また物語は主人公の渡辺さきの一人称で進むんですが、彼女が当たり前だと思っていることは、さらっと描写されて、それが実は現代の日本社会とは根本的に異なるのだ、ということは、後から別の視点で説明されて、そうかぁ!!と思う部分が続出するんですね。この「そうかぁ!!」と思わせるような、差異を具体的に描けないと、1000年後という極端に違う文明の中に生きている、、、なんというのかなぁ、おどろおどろ感みたいなものが演出できなくて、ファンタジー(=外に出ていくこと)としての原理がうまく働かなくなってしまうんですね。映像や設定は、かなりそれを努力しているで素晴らしいものになっているだけに、微妙に、このへんの感覚の違いの説明が、下手で、、、僕は残念に思いました。


フラクタル』 (FRACTALE)  A-1 Pictures制作 山本寛監督 環境管理型権力からの脱出を人は夢見るのか?
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20110213/p1

Fractale フラクタル (Blu-ray/DVD Combo)(全11話収録) 北米版


しかしながら、この記事を書いてから、ずっと思ってました。



そんなこと、できるのかいなっ!って。(笑)



実際、自分でやれ、といわれたら、これよくわかりません。この時、山本監督も記事を読んでくれたみたいで、Twitterで批判に特に返答することもなく苦笑されていた感じだったんですが、そん時、あちゃーと思ったんですよね。まぁ、できれば褒めたいし、いいことを言いたいもんじゃないですか。そもそも具体的に「それはどんなもの」ということが指し示せないので、偉そうに言ってしまったな、、、と。僕も好きでアニメ見ているので。あと、ほとんど、「宗教観」のセンスオブワンダーなんてものは見れないので、アニメーションでなんか、よほどのことがないとムリなんじゃないか?って思っていたんですよね。



でも、僕は、アニメーションというか、物語のクオリティのポイントって、「ここ」なんじゃないか?って思っていたんですよね。物語に内在性があるというような言い方をしていますが、ようは、物語の「世界の実在性が感じられる」ということをいってます。


この時の比較では、『新世界より』の小説を持ち出しました。


新世界より 文庫 全3巻完結セット (講談社文庫)


でも、漫画版もアニメーション版も、小説の持つセンスオブワンダーほどの威力はなかったと思います。どちらも、なかなかの出来ですが、この凄まじいセンスオブワンダーを映像で見せようと思うと、演出も含めて、相当の、、、という描ありえないほど高いレベルの演出がいるので、うおぉ!と唸りつくすようなものは、かなり難しいんですよね。ちなみに、『新世界より』のアニメと漫画は、素晴らしい出来です。ただ、小説を見ているだけに、その最初のセンスオブワンダーを期待しすぎてしまうという部分があったのかもしれません。


新世界より(1) (週刊少年マガジンコミックス)

まぁ、しょせんブロガーというか一消費者の、独り言みたいなもんなんですが、、、、でも、「死生観」や「宗教観」を演出するって、どういうものだろう?って、フラクタルの時から、ずっと思っていたんですが。。。。具体的にあまり思いつかなかったんですよ。



けど、今回は、「これ」です!ってはっきり言えます。この作品です(笑)。90分ほどの短い作品であるにもかかわらず、アニメーションの動きというか良さを損なわず、明らかに違う「死生観」を生きている人を組織を文化を描いて、しかもそれが説明臭くなく、ストーリやキャラクターのドラマツルギーと見事に結びついています。



これ!!!こういうのが見たかったんだ!!!!と、唸ってしまいました。



脚本の感想は、また別に。とにかく、見ましょう!みんな!!!。素晴らしい出来の作品です。