『お嬢さん(英題:The Handmaiden)』 (2016 South Korean film) Park Chan-wook監督 confidence gameの果てに

評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★☆4つ半)

145分の長尺をまったく飽きさせない怪作。


日比谷シャンテのTOHOシネマズで見たのだが、見に行ってよかった。何故行ったのかというと、舞台が1930年代の日本統治下の朝鮮であり、奥深い森の奥に建てられた館で繰り広げられるコンゲームというオリジナル感というか、ありえない感というか、意味不明感だけで、これは見に行っておかなくちゃ、という視聴意欲がわいたから。その後、ノラネコさんが高評価で紹介していたり、なんといっても名監督であるパクチャヌク監督、僕にとっては復讐三部作よりも『JSA』がほとんど初めて韓国映画を見た作品で、そちらの記憶が色濃いのですが、彼だとわかって、これはいかねばと。


原作は、傑作ミステリーの英国の作家サラ・ウォーターがビクトリア時代の英国を舞台に描いた「荊の城」。ちなみに、成人指定の官能映画でかなりの濃厚なベットシーンがあって、先の見えないコンゲームの官能サスペンスに仕上がっている。


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韓国人監督の下で、韓国人の俳優たちによる韓国映画なのですが、主要部分が日本語という、それだけで、大丈夫か?といぶかしんでいた。また、日本統治下の韓国のリアルというのも、映像的にいまいちイメージがないので、なんだか変な張りぼて感の作品であったら、悲しいなと思って心構えていた。まぁ、その「おかしさ」を体験するのも一興的な気分ではあったのですが。とはいえ、どうしてどうして脚本的に、日本に占領されて植民地であるにもかかわらず日本崇拝主義者で、日本人と結婚して上月という名前を手に入れた大金持ちや、日本人を演じる朝鮮人詐欺師など、全編メタ的な文脈(=何が本当なのかニセモノなのかが複雑に入り組んでいる)が濃厚な中で、ハングル語アクセントの日本語で話される会話は、日本人の観客にとっては、とても不思議な感じがしました。これが、おかしいとか、違和感だけではおさまらない「おかしみ」がある。こうしたクレオール的なものは、既に一つの文化だ、ということを世界を回った経験から感じるからかもしれない。なんとなく、なんじゃそれ?というような中国語を全編しゃべる日本人俳優で描いた岩井俊二監督の『スワロウテイル』を連想しました。

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が、さすがパクチャヌク監督。物語世界に没入するうちに感じる、圧倒的な大正時代や昭和初期の日本の江戸川乱歩のような雰囲気に感心した。様々な、メタ的構造、バランスの悪さ、そういったものが溶け込んで145分を飽きさせないし、しらけさせない。この鹿鳴館のような洋風になり切ろうとしてなり切れないうちに、微妙な中途半端さで馴染んで落ち着いてしまった感じは、まさに1945年以前の東アジアの濃厚な雰囲気。そして、あのおどろおどろしさは、市川崑監督の横溝正史シリーズなどを思わせるミステリー感。それでいて、日本のローカルなミステリー作品にはない、広がりというか雄大さを感じさせるのは、やはり韓国映画作品かもしれない。さすがの才能パクチャヌク監督です。うーんこの「雄大さ」というのは、言葉で表現するのが難しい。日本の金田一シリーズとかのミステリーは、古いしきたりに支配されている村落共同体に閉じ込められるというような構造をとりやすいのですが、同じ森深くの孤立した貴族の館という狭い世界に閉じ込められる作品であるにもかかわらず、何か、よりもっと広く遠い世界につながっている感じがする。大陸的とでもいおうか。うーん、うまく言うのが難しい。日本映画ではない匂いがします。


とにもかくにも、映像を見れば、この張りぼてのような和洋折衷の中途半端さがきちっと実在感をもって上品にキープされている(官能エログロの作品なのに)ことに驚きを感じます。



また、こうした江戸川乱歩のミステリーのような「雰囲気」の部分に重ねて、骨太の脚本であるコンゲームになっているところが、素晴らしかった。con gameはconfidence gameの略で、信用詐欺の意味。これが転じて、二転三転するストーリーのミステリー小説や映画のジャンルのことなのですが、なかなか日本の作品でこうしたコンゲームのいいものはお目にかからないのですがアメリカ映画にはたくさんありますね。たとえば、『スティング』『オーシャンズ11』『ソードフィッシュ』などがパッと思い浮かびます。

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日本の作品で思い出すのは、井上尚登さんの小説『T.R.Y』ですね。確か織田裕二さんで映画化していたはず。僕は、とても好きな映画だった。アメリカの映画などは、背景の歴史やガジェットがそこまで詳しくないので、純粋に詐欺のトリック自体を、言い換えれば脚本を楽しむ部分が強く、逆に、大森一樹監督の『T.R.Y』なんかは、やはり戦前の20世紀初頭の上海が舞台という場所を得ないと、大きな詐欺に現実感を持たせるのは難しいのかもしれえない。現代日本で、こういう大がかりな詐欺があったら、すぐばれるか話題になってしまって、なんだか違う話になってしまいそうな気がする。

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クライマックスの暴力と官能のシーンは、哀れにコンゲーム負けてしまった男たちの末路が描かれるが、詐欺師藤原伯爵の、すかしたというか、すっとぼけた諦観した態度が、いかにもらしくて、良かった。あれだけの暴力と絶体絶命の中にありながら、あのとぼけた感じは、見事と感心した。この作品は、男に搾取されて虐げられていた女性が、男性たちを騙し返して状況をひっくり返す物語なのですが、最もキーとなる詐欺師である藤原伯爵の態度が清々しかった。騙されて裏切られたこと、自分の欲望と人生を否定されて踏みつぶされたにもかかわらず、自分を見失わす淡々と達観して受け入れて、あれだけの暴力にさらされながら、その受け入れた感覚にブレがない。なかなかどうして、詐欺師なとはいえ、覚悟がある態度に、なんだか不思議な重みを感じました。


人口5千万人の韓国で400万人を動員したという成人映画(韓国人、映画が好きすぎ!)なのですが、日本人が見ると最も面白く味わえる映画だと思います。というのは、全編日本語の、かなり極端な卑猥な言葉の連続で、この言葉の持つ「おかしみ」のニュアンスを分かるのは、そりゃ日本語が分かる人だよなと思います。また日本のヘンタイ文化の韓国的解釈とノラネコさんが書いていたが、まさに、外部から見た日本のヘンタイ文化を、しかも一つの様式にまとめているおもしろさは、やはり直にそのオリジナルを知る日本人の方が、面白さが膨れ上がると思うのです。そうでないと、ある種のオリエンタリズムというかエキゾチズムになってしまうと思うので。それにしても、なかなか見れない、非常に興味深い映画だと思います。


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