『流血女神伝 帝国の娘・砂の覇王・暗き神の鎖・喪の女王』 須賀しのぶ著 女の子を主人公にした物語で最高峰なんじゃないか、といつも思います。

帝国の娘【上下 合本版】 (角川文庫)


評価:★★★★★5つ 傑作マスターピース
(僕的主観:★★★★★5つ傑作)

これも2007年のアメブロの記事を再掲載です。僕は、冒険活劇で、成長物語(ビルドゥイングスロマン)で、少女を主人公とした物語では、須賀しのぶさんのこれが最高傑作ではないか、と思っています。女性が書いたという点も重要じゃないかと思っていて、カリエという主人公は、本当に普通の女の子から出発して、激動の世界を駆け抜けていきます。けれども、最後まで男性視点や男の子に都合のいい存在では一度もあり得なく、そして奴隷になっても、やられちゃっても、愛した人に捨てられても(捨てても)、子供を産んでも、子供を奪われても、最後の最後まで、彼女は自己が揺らぎません。どんな目にあっても彼女の本質をだれも汚せないからだと思います。・・・・そう思うと、カリエって、本当に凄い。それだけの激動の経験を経て、人生を生き抜いても、最後まで僕にはかわいい女の子に見えました。それは「強い」からじゃなくて、彼女がとても素朴で健康だから。それが。本当に強さ、なんじゃないかといつも思います。安定した自己確信。本当の強さとは、しなやかさ、じゃないかと僕はいつも思います。冒険活劇の舞台というのは、いつでもマクロダイナミズムの動く政治的な世界、言い換えれば「竜退治が必要な男の子的ビルドゥイングスロマン」に支配された過酷な世界。そこで個は圧殺されて、男どもが帝国の建設を望む権力の世界。その世界で、女の子が生きていくこと、生き抜くことはどういうことかを、須賀しのぶさんは、一貫して追求している気がします。男の子が望むアニマとしてのトロフィーワイフとしての幻想の女の子の匂いが全くない。とても、かっこいい女の子だと思います、カリエ・フィーダ。そういえば、太陽の子を描いたと友人のレスター伯さんがいう『レジェンド・オブ・イシュリーン』や『レジェンダリ・ヴァルキュリス』(『堀川恵美理の慕情』『堀川恵美理の花嫁修業』)を思い出させます。やっぱり女性がこういう大河ロマンを描いてこそ描けるの感覚な気がします。そういえば、栗本薫さんのグインサーガにも似た匂いがしましたねぇ。ちなみに、激動の人生で、カリエは、本当にいい男たちに惚れられちゃいますが、これはね、、、いやほんとわかるんですよ。彼女が特別、、、ではないんですよね、明らかに顔は普通ぐらい(ようは美しくはない)って描写が毎回入る(笑)、でも、確かに可愛いよ、これ。こんな子がそばにいたら、帝国を建設する帝王だって、そりゃ惚れちゃうよ、と思う。しかも関係がことごとく、とても健康で対等なのが素晴らしい。ほかのカップルが権力関係や欲望で対等ではなかなかいられない中、すべての恋で、様々な関係で、彼女は対等で健全な関係ばかり作っていく。この子が、そういうこだからなんですね、、、、。本当に素晴らしいと思う。読後感が、物凄く素晴らしい。全体的には、暗く、しんどく、凄まじい権力の入り乱れるだいたいがロマンなのに。ちなみに、須賀しのぶさんのこの手の女の子像を突き詰めているのは、『芙蓉千里』がいいですね。

流血女神伝 帝国の娘 前編 (集英社コバルト文庫)



『堀川恵美理の花嫁修業』  木根楽著 「正しさ」の強さ、正ヒロインのという強度への回帰
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20130710/p1

シェアードワールドの厚みを体感する物語群
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20140102/p1

レジェンド・オブ・イシュリーンI(サーガフォレスト)

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偉大な物語が終了した。いやー素晴らしかった。素晴らしい物語で、かつ長いものを読んでいるときに、現実が消失していくような、何か、その物語の中のキャラクターたちが現実に生きているような不思議な感慨を感じるときがある。終わった時に、「もう続きが読めない」という深い悲しみとともに、なぜか学生時代の卒業式のような、「何かの終わり」が感じ取れて、不思議な感慨に包まれる。・・・・・たぶんわからない人にはわからないかもしれないが、最終巻の最後の最後の回想録で、カリエが、サウロとアイラという双子をの男女を生んだところには、なんだか無性に感動した。ああ・・・次の世代が続いていくんだな、、、ということが深く感じられました。


須賀しのぶさんに感謝を。


これほど素晴らしい物語をこの世に送り出してくれて。久々に、グインサーガと同レベルの大河ロマンを読んだ気がします。むしろ、27巻で、一つのシンプルな核を描ききったという上では、冗長さが排されており、こちらのほうが見事かもしれない。


少女小説として書きたいことをすべて詰め込んだ」


と書かれていますが、いやまさに。ある一つの様式美に限界まで、「物語」を圧縮した素晴らしい作品です。ただし、ここまで行くと確かに様式と出口は、コバルトにふさわしい少女小説の体裁を取っていますが、僕は、やはり「物語として素晴らしい」、と唸らざるをえない。本当に素晴らしいものは、様式の限界を超えるんです。


神話と人を描いたという点でも、秀逸なオリジナリティーを感じるし、その人と神の関係、運命(予定説)と人間の自由という巨大な命題に、見事にエンターテイメント性を失わずに、読み解き結論まで持っていく力技には、度肝を抜かれます。


この物語に出会えて、本当に良かった。


まぁかなりの感想を書いているので、今後ゆったり記事を掲載する予定です。まじでよかったんだってば。うう・・・自分がこれ!と思った人のお勧めは、当たるなー。人が紹介してくれなければ、絶対見なかったでしょう。


もし、機会があれば、ぜひトライを。


素晴らしい物語の世界に引き込まれます。ただ、本当の意味でもっともこの世界観が結実するのは、『喪の女王』の中盤なので、ここまでぜひ読んでから結論を出していただきたいと思う。


精霊の守り人 (新潮文庫)


月の影 影の海〈上〉―十二国記 (新潮文庫)


僕としては、上橋菜穂子さんの『精霊の守人』シリーズに匹敵する和製ファンタジーの傑作だと感じます。・・・・NHKでアニメ化してくれないかな…。これに『十二国記』シリーズを加えると、少女小説の分野や児童書の分野に、本当に見事なファンタジー作品が結実しているのだなーと感心します。

芙蓉千里 (角川文庫)