『劇場版 Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓い』 (2017 Japan) 大沼心監督 Fate Shared Worldの一つ

客観評価:★★★☆星3つ半
(僕的主観:★★★☆星3つ半)

こやまひろしさんの『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』(2007)の本編(アニメかマンガ)を見ていなければ、『Fate/stay night』(2004)の士郎を知らなければ、さっぱりかもしれないが、駄作には全く感じなかった。前提がありすぎる作品なので、確かに万人に勧められないので、星は低くなる。とはいえ、僕は、なかなかの作品だな、と思いました。エッジが効いてて、潔く説明を切り捨てて、バッドエンドルートの衛宮士郎くんの切ない願いをフォーカスしているのは、良かったと思う。タイトルはプリヤなのだが、漫画の第一巻につながる前日譚になっており、本編の主人公格の美遊とその兄の衛宮士郎の物語になっていて、イリヤはほんとんど全く出てこない。シェアードワールド的な見方をしていないと、イリヤ出てこないじゃん!と不満が出そうな潔さぎよすぎるつくり。

けど、士郎君のせつなさに少し涙ぐんだし。僕は、士郎の物語として、いいなーと思う。かなり、フェイトの文脈特異系ではあるが、全体か個か?という選択肢は、物語類型としては、ありふれていてわかりやすい。世界を救うのですか?、自分の好きな人を救うのですか?それが天秤に乗ったら、どちらを取るのですか?、という問題。勢いと前提無視で乗り切っているが、本来は、ではそれほど世界が滅びる危機があるなら、それがどういうものなのかのマクロの説明が必要なのだが、それは全くないところに、脚本の思い切りの良さを感じた。きっと、あったら勢いがそがれただろう。「それほどの世界が滅びる危機があるなら」というのは、実は本編の方で重要な謎の一つになっているので、これもまた映画でいう話ではないのだろうと思う。やはり、シェアードワールドの一環としてみるものなのだろうと思う。

次に控えている大型の映画である桜ルート『Fate/stay night: Heaven's Feel』のメインシナリオとも重なるので、士郎のテーマは、シェアードワールドの親和性も高い。だから『劇場版Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓い』の脚本は、わかりやすく、潔く、シンプルにしてて、僕は、かなり評価が高いし楽しかった。何故ならば、この作品は、タイプムーンシェアードワールドとして見ないわけはありえないし、ここで興味を持つなら、他のシリーズのシナリオに涙しないわけはないのだ。だって、シンクロしてるもの。

しかし、面白い、世界を救うヒーローになる、という類型の亜種なのだろうが、なぜ、最初から救えないのが前提なのか?、なぜ、本物になれないフェイク、偽物であるのご前提なのか?。それで、受け手は、不思議に思わないのか?。『Fate/stay night』のシロウから綿々と続くこのオリジナルの設問は、もう本当に一般に浸透したと思う。誰も、世界は救えないのが、正義の味方にはなれないという「断念」が前提というのが、現代なのだ。これは、1990年代頃に生まれた日本の特有の発想で、それが根づき、当たり前になっている日本のエンターテイメント市場こそが、驚きの複雑さだ。

とりあえず、薄幸で、はかなげで、自分を捨てている美少女の女の子を拉致して育てている衛宮父子は、だいぶアレな人たちだが・・・・それのお兄ちゃんといわれるまでの、時間の経過、表情の変化は、作り手、気合入りすぎてて感心した。美遊の薄幸の妹っぷりには、士郎君めろめろでしたね。好きな妹を守れて、ほんとよかったね、と思いました。でも、ほんと彼はすべての選択肢を間違えるよね(苦笑)。そんなの、美遊には、大好きなお兄ちゃんが犠牲になって、違う世界で永遠の日常をのうのうと生きられるわけないじゃん。相変わらず、人の気持ちがわかっていない。


ちなみに漫画版の内容を全く忘れていたので、読み返してみると、士郎の回想シーンの1巻分を丸々映画化したんですね。これはますます、原作を見ていないと、まったくわからない。でも、ここを切り取るのは、シェアードワールドの一つとしては、なるほどなーとやっぱり思います。ちなみに、この続きは、ドライ!!の8‐9巻から見れますね。

Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!! (8) (角川コミックス・エース)