『サトコとナダ』 著:ユペチカ 監修:西森マリー アメリカ留学を通して、世界と自分を知っていく類型の物語として素晴らしい完成度

サトコとナダ 4 (星海社COMICS)


評価:★★★★★5つ
(僕的主観:★★★★★5つ)

『サトコとナダ』 著:ユペチカ 監:西森 マリー サウジアラビアの女性の視点から見る世界ってなかなかなくて、とても興味深いです。 - 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために


この続き。先日最終巻がキンドルで発売されたので読んだら、泣けてしまった。素晴らしい物語だった。文句なし★5。


前にも書いたのだが、アメリカ留学で、サウジアラビアの女の子とルームシェアという設定から、体験記的な「ただの紹介」「ただの目新しい舞台設定だけ」に振り回されて終わる凡百な物語は多くなりがちなんですが、、、、4巻通しての全体の完成度が、予測をはるかに超えて素晴らしかった。監修の西森マリーさんがイスラムの偏見をなくすような本を書きたかったと書いているが、こういう「何かを啓蒙しよう」という気持ちは善意で素晴らしいのですが、たいてい、あまりろくなものに結実しないし、エンターテイメントとしてはほとんどダメになるケースが多いと僕は思っています。要は「上から目線」というのは手垢にまみれた言葉なんですが、他人を「啓蒙してやろう」という意識が、すでにエンターテイメントとしては、ダメな出発点だからなんだろうと思います。エンタメでなくても、この視点は、本当に人にも。つたえられなくなる(苦笑)。この作品も構造的に見れば、どうしても、物語自体の自律性よりも、「なぜイスラムの女性である必要があったのか」という原点は、西森マリーさんの言うような意識がメインであったら、たぶん全然面白くなかったんだろうと思うんです。これは、作品のアイディアやコンセプトを考えるときに、とても難しい視点でしょうね。編集者や著者にとって、そうはいっても差別化しなければ、企画は通らないし、他との違いを観客に示せないのですから。


えっと、物語的な観点でいえば、「イスラムの女性の話」というのが、ナダという女の子、サトコという女の子が、それぞれが「それぞれである」または、その二人が出会う必然性、意味が弱くなってしまうからだと思うんです。だから、この舞台設定をしながら、最後まで、これがサトコとナダの物語であり、二人が二人であることに具体的な手触りと、その人らしさが失われなかったのは、素晴らしい物語だろうと思う。


えーーーとちょっと抽象的に描いたんですが、関係性的には、非常に典型的ですね。サトコという背の高い日本人の女の子が、自分自身を知る、、、、そこまで強くないですが、日本人の海外留学物語には常に、「自信のない自己主張できない自分をどう開放し高めるか」というコンセプトが隠れていて、絵柄がさっぱりしていて、書き込みが少ないというか、サトコのすっぴん的なというか、まったく色気がない最初の造形をみていれば、この子が、あか抜けない、自分を主張できな引っ込み思案な女の子であるのは、ひしひしと伝わりました。それを、どう「アメリカという日本のような同調圧力がない新天地」で開かせることになるか?が、物語のキーになるわけです。それが、もっと深刻な同じ構造を持つ「サウジアラビア人の女性のアメリカ留学」で、ルームシェアして、二人がお互いに、他者を知る、、、、友達を作って、自分自身に自信を持っていく過程は、見事にリンクしました。


ああ、、、ネタバレですが、最後の最後のシーンで、なんてことはない日本の日常の風景に戻って、アメリカのあの体験は、夢だったんじゃないか、、、、と日本尾日常にすぽっと埋まった刹那ファミレスのハラール認証のマークを見て、涙するサトコのシーンは、、、美しかった、僕もめちゃないた。。。。サトコが最初にそこで言ったセリフが「おかあさん ありがとう 私をアメリカに行かせてくれて ありがとう」だったので、ああ、、、なんていい子なんだこの子は、、、と、さらに輪をかけて泣けた。。。


もう一人の、仲良くなった白人の女の子の同級生ミラクルの話も、素晴らしかった。29歳でもう一度、大学に入り直している設定は、あーアメリカならではで、アメリカの美しいお金がある金ぴかじゃない部分を、ほんと説明も何もないが、よく描けていると思いました。どう考えても、プアホワイトの貧困の輪に入っていぎりぎりラインで、何とか抜け出そうというのが背景にアメリカの基礎知識がある人なら一発で分かって、、、深いなーと思いました。ナダとミラクルが、一神教で、宗教に敬虔なので、それがないサトコに???となるシーンとか、、、うわーこれサラッっと書いているけど、マジ深い、と本当なりました。


でもそういう背景が深いこと以上に、サトコとナダが、出てくる人たちが、とても豊かで美しくて。。。。。素晴らしい物語でした。ペトロニウスの名にかけて傑作です。おすすめですよ。読みはじめたときは、最終巻でこんなに感動するとは思いもよりませんでした。物語三昧の読者はわかると思うのですが、「ペトロニウスの名に懸けて」のセリフは、よっぽどのことがないと、出さない、ほんとにほんとに、僕の中で評価が高かったものなので、超おすすめです。


ちなみに、アメリカの留学、、、というわけではなくて、アメリカの大学生生活の僕の中のロールモデルというかイデアというか、記憶の原型は、成田美奈子さんのシリーズですね。特に『アレクサンドライト』。これはニューヨークのコロンビア大学の学生風景を切り取ったものですね。僕はいまアメリカに住んでいて、大学はアメリカではないですが、研修で数か月留学したり、過去にもいろいろ過ごしましたが、これほどアメリカの学生生活がわかるってるやつは、ついぞお目にかかったことがない。下手な留学体験記よりも、素晴らしいと思うんですよねー。あとは高校生活なんかは、樹なつみさんの朱鷺色三角シリーズの後編?というかアメリカ編のパッションパレードが素晴らしい。これはけっこう田舎町に留学する高校の話ですが、これで僕は、はじめてアメリカ人の学生時代や様々な出来事にシンパシーというか理解が及ぶようになりました。いまアメリカに住むようになっても、この補助線は、本当に価値があって、自分が留学したみたいに、とてもイメージがわきやすくて。これがなかったら、さまざまなアメリカのドラマや小説も、僕は受けつけなかったかも、、、と思うぐらいです。人生の中でこの二つのシリーズは、最も大事なクラスの物語なので、ぜひとも、おすすめです。アメリカの学園生活という視点で、読んでみると面白いですよ。もちろん今は、アメリカのドラマシリーズは、素晴らしいものがたくさんあるので、近年だと『glee』とかもいいですねー。

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パッション・パレード 朱鷺色三角2 1 (白泉社文庫)

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それと、サウジアラビア、というわけではないんですが、中東というと、浅川さんのこの本を思い出します。僕も、学生の頃、中東をよく旅したので、懐かしいなーと思いました。


カイロ大学 (ベスト新書)



ちなみに、西森マリーさんの本は、これがよかったですねー。


レッド・ステイツの真実 ――アメリカの知られざる実像に迫る