『40歳が社長になる日』 岡島悦子著  日本社会をマクロ的に改良するためには、リーダーを育成するしかないという結論は、とてもよくわかる。

40歳が社長になる日(NewsPicks Book)

客観評価:★★★★4つ
(僕的主観:★★★★4つ)


■日本社会をマクロ的に改良するためには、リーダーを育成するしかないという結論は、とてもよくわかる。

日本の大きな組織に勤めていた時に、ある時、いきなり議論が通りやすくなった時がありました。それは、団塊の世代の人々が退職が始まった時。僕は、時代の巨大な変化に、過去において、高度成長で大きな成功を遂げてしまった世代が、アンシャンレジームを作り上げ、日本社会が変わっていくのを止めているんだな、と最近は凄く思います。逆に言えば、彼らが社会から退出していくほど、日本はどんどん変化します。そして、その基本的な方向は、よほどのことがない限り、僕は明るいとは思っています。日本社会は、人類最先端の先進国であり、ハード、ソフトともに素晴らしいアセットがたくさんあるからです。とはいえ、これから起きる大人口減少の時代の、変化への適応は、生半可なことではありません。その課題は、継続的に説き続けて伊ことが要求されます。人類の最前線にいるということは、モデルがない、課題先進国になったということ。ちなみに、団塊の世代の最後の砦は、経営者や政治の指導層にこの年齢の人がたくさん残っているので、この人たちがいなくならない、なかなか変化は進まないでしょうけどね。でも、これは時間の問題ですよね。


日本の未来を考えよう


こうした背景の中で、時代に合わせて、組織が変わっていくためには、何が必要かと考えたところ、やはりリーダーが変わることなんですよね。特に今一番最後の砦で残っているのは、経営者層などの定年退職がない、既得権益リーダー層。政治家は二世などの、世襲議員の問題があるので、民間セクターほど単純じゃないですけど。とはいえ、なんでも、社長とか指導者が悪いということで片づける頭の悪い動機の弱い人間にはなりたくないですが、そうはいっても、最後は「そこ」がキングス弁であるのも間違いない。けれども、なかなか優秀な指導者を選出する、作る、というのは、凄く難しいことです。


岡島悦子さんという方は、僕は今まで知らなかったのですが、現場のこういった未来の指導者層の教育等をずっとやり続けているみたいですね。分析に、ひしひしと現場感を感じます。なので、とても現実適用性が高い感じの概念が多い気がします。この人が現場でずっと悩み、戦い続けていく過程で、最終的な結論は、ここでは書かれていませんが、「現在の経営者及び経営者予備軍では使い物にならない」と(笑)結論を下したんだと思います。これは、先ほどの人口動態の世代論で考えると、まさにその通りなんですよね。団塊の世代から団塊の世代Jrにかけてまでの世代は、もう次の時代のパラダイムシフトについていけないというのは、マクロ的には、確かにわからないでもない。なので、世代を飛び越えた、次世代の層(40代で社長を生み出せるように)に対して早期教育や、キャリアパス、抜擢の仕組みを作るように制度を作りたいんだろうと思います。日本以外では、刺激的でも何でもないタイトルですが、日本ではすさまじく刺激的なタイトルでしょうね。ようは、この辺りの世代(僕の世代も含まれますねー)に対して、用なしなんで、静かに退場してね、といっているので。もちろん個々の組織の事情はあるので、単純には言えないけれども、ただ全体の傾向で、こういう制度を作って、それが成功するというイメージを作れば、一気に日本の組織はなだれ込んでいくのは、横並びなので間違いなくて、処方箋としては極めて具体的なものだと思いました。実際、最近の日本の組織、特に人事部での既定路線ですよね、ここで言われていることなのは。とはいえ、長く日本の大組織に勤めていると、魂なしの仏さんみたいなもので、コアの重要な部分を全く理解せず、もしくは居使いして、表層の形だけを取り入れて、全く意味をなさないというケースが多々あるので、これがどもまで本当の意味を持つかは、まだまだこれからでしょうね。


とにもかくにも、マクロ的には、仕事として考えると、岡島さんの結論はすごくよくわかるものです。



■新世代のリーダーは、新しい時代のパラダイムに適応できる人


なぜ、世代を飛び越えて、新しい指導者が必要なのか?。早くからそういう指導者を、若手から教育しなければならないのか?。-------それは、時代の変化の「落差」が大きいからですね。岡島さんは、「非連続成長の時代」といっていますが、単純に言えば、連続的な先が予測しやすいリニアな成長はもうしない、ということ。まぁこれは当たり前のマクロ環境分析ですが、それにつながって、要は、仕事の適切な「型」を見つけ出し(=標準化)、それを、横展開させて、何度も繰り返すという仕事のやり方が、すべて無意味になってしまうので、そもそもの仕事やり方、その根本から変えてしまわなければならず、それは、もうそれなりの経験を経た世代には、ほぼ不可能だと判断しているんですね。これは、まぁ、自分もその中に含まれて、無意味な世代と烙印を押されるので、認めたくないところですが、はっきり言って事実ですね(苦笑)。それに、デジタルネイティヴ世代などと言われますが、やはり社会の在り方がテクノロジーによってかなり急速に変わっていて、それを生まれつき享受している世代と、コモンセンスがかなり違っているのも、大きなポイントかもしれません。具体的には、ぱっと思い出すのは、Novartisのヴァサント・ナラシンハン(Vasant Narasimhan)氏が最高経営責任者(CEO)ですね。彼は、41歳で巨大グローバルカンパニーのトップになりましたよね。こういうのを見ると、Zuckerbergさんのハーバードでのスピーチを凄く思い出します。デジタルネイティヴの世代が、社会のリーダーに躍り出てきて、新しい世界を作る傾向がはっきりと見えてきた気がします。ちなみに、このスピーチは感動的なので、超おすすめです。


Mark Zuckerberg Harvard Commencement Speech 2017 FACEBOOK CEO'S FULL SPEECH

https://www.youtube.com/watch?v=nFaCasVBvD8

http://www.huffingtonpost.jp/keizo-kuramoto/mark-zuckerberg-harvard-speech_b_16818864.html


さて、この本をが主張したいことを要約すると、現代が「非連続成長の時代」であり、それに合わせた「羊飼い型のリーダーシップ」を持ったトップが必要であり、そのためには、40歳の社長を誕生させるべく、早めに準備することが必要であるということ。

成熟した経済環境では、企業がイノヴェーションを起こすことが困難になる。「連続成長」は、現在ある事業・製品群をいかに安く効率良くしていくかという現在の延長線上にあることを追求していくこと。しかし、経済が成長すると、先が読めない需要が不確かになり、顧客インサイトをとらえるためには、集団天才型のチームで顧客共創することが必要となる。それをアレンジできるリーダーがこれからの企業には必要。このあたりは、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授の知の探索(Exploration)」議論からきていますね。この辺りはすごい話題になっているし、とても実用的な議論だと思うので、彼の本や議論は追うのをお勧めします。この知の探索と深化の理論を知らないと、なぜイノヴェーションのために多様性が必要かがわからなくなるからです。

ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学

あなたの人脈はビジネスに“生きて”いるか。入山章栄に聞く「弱くて強い結びつきの価値」
https://www.businessinsider.jp/post-34935


なので具体論で、「どうやって共創型のリーダーを作り出せるか?」といえば、マクロ・仕組み的には、ダイバーシティー経営が必要。


だが、ダイバーシティーの議論には誤解が多い。ダイバーシティーの目的は、経営の意思決定の場に、多様な「視点」を持ち込むことにある。なので、「属性」を増やせばいいと思い込むのは完全な誤り。むしろオペレーションにおいては、属性を増やすと、フォルトライン(断絶)が大きくなり、効率が落ちることが経営学の最先端では言われている。ダイバーシティー推進が福利厚生に堕していて、「働きやすさ」追求になっているのも間違い。あくまで成長戦略の一環として、意思決定の場に多様な視点を参加させるようにするためであり、そのために、若いうちに修羅場体験や異なる事業・部門経験などを早回しに経験させるなど、むしろより働き方としては厳しくなることも、同時にありうる。弱者救済策ではない、ということがわかっていないケースが多い。そのための仕組み作りが重要。この辺は、なかなか厳しいというか、文脈を理解していないと、ひどい誤解が生まれそうなので、重要な部分だと思いました。


■さて、では個人としてこれからの時代に必要な資質とは何か?


ミクロ的には、「非連続の成長」という未来が不確かな状況においては、「適切な課題設定」できる能力が勝負分ける。ちなみに「連続成長」の時代においては、成功の方程式を「型化」「標準化」し、誰がやっても同じ成果が上げれる仕組みを作り出すことが重要だった。先が見通せたからだ。それをブレイクダウンすると、以下10個のキーワード。


1.課題設定力・先見性・仮説構築能力・大局観

2.変化抽出力・変化適応力・カオス耐性・胆力

3.素直さ・伸びしろ・学習能力

4.自己効力感(セルフ・エフィカシー

5. 比較優位となる強み(タグ)の自己認識と、機会開発力

6.多様性受容力

7.越境力、領域をつなぐ力、違う領域の人脈

8.共感力、熱量、物語力、チャーミングさ

9.機会提供力、コーチング力、環境整備力

10.意思決定力、実行力、仮説検証スピード


ちなみに、これらの経験をワンセットでできる経験は、傍流部門への島流しで、一人で孤独な戦いをさせて追い詰める修羅場経験、だそうです。僕的な感覚では、会社は、多様な視点を意思決定の場に接続する仕組み、登用の仕組みを作る必要がある。しかし同時に個人は、自分の内部に「どれだけ多様な視点を深く根付かせることができるか」ということ、またそれに基づいて、最前線の修羅場に、孤独であっても自分を曲げないで維持し続けられ、結果を叩き出せるかが常に問われている。という感じかな。この辺りの、傍流部門に島流しにあって、孤独の中で苛め抜かれる経験が、次世代のリーダーとしてはかなり効くというくだりは、なんかねーーひしひしと実感するんですよ。あと、早回しの異動で、とにかく変化になれる、自分が何もアドバンテージや準備ができていない徒手空拳で、過酷な環境にほ織り込まれてサバイバルできるかどうかの、サバイバル力みたいなものを試す、高めるというのは、たしかにリーダーには必要な経験だし才覚だよな、と思いますよ、切実に。


ちなみに、現場の最前線で戦い続けている人だけに、具体的な処方やキーワードも多くて、いまぼくは、下記の本を読んでいますが、これは有用だなーと思いました。自分にタグをつけるとかは、本当にそうだ、と思います。特に女性が社会に出てきた時の第一世代の人で、最前線で戦い続けてきている人だけに、具体的なキーワードがいっぱいで、読んでいて、あーーーなるほど!と思うことしきりでした。この人をメンターにできた女性は、幸せだろうなーとすごく思います。


抜擢される人の人脈力  早回しで成長する人のセオリー


■しかしながら、これめっちゃ疲れるんじゃない?(笑)


マクロ的な処方としては、岡島さんの処方はすごく正しいと思います。けどね、ミクロで考えると、既に40歳を超えて用なしと評価される世代の人間としては、うーん、厳しいこと言われたなーとしみじみ思いました(笑)。団塊の世代から団塊のJr世代くらいまでって、新しい時代の日本には本当に要らなくて、という世代論的な議論は、僕も自分でずっと考えてきたことだけに、思わずうなずいてしまう(笑)。日本の問題点は、高度成長期に適応した感性や制度が、特に心の習慣が惰性で動いているところで起きていることなので、1970年代生まれまでの世代が、本当に使えない、日本にとって害悪になっている、、、と言われると、、、いやはや自分も含むので、そうだとは思うんだけど、、、胸に痛かった。でも日本の未来が明るいということは、僕の子供や孫の世代は、幸せになれそうなので、まぁ、それでいいかなーと思います。


とはいえ、じゃあ年寄りはみんなゴミかというと、僕はそんなこともないと思うんですよね。だって、出口治明さんとか、まさに団塊の世代のど真ん中の人ですが、素晴らしいじゃないですか。世代論はあくまで、傾向と一般論なんで、じゃあ、そういう大きな「波」がある中で、どのように生きていくのが、自分の幸せに資するか、ということ考えるのは価値があることだと思うんですよね。これはビジネスの視点で語られてるんだけれども、「幸せになるためにはどんなことが必要か」というのと、時代のマッチングがあるものも、上で言われているようなものなんじゃないかな?と思うんですよね。リンダ・グラッドンさんの『ライフシフト』で言われるように人生100年と考えると、40歳であっても、残り人生が60年も(笑)あるし、体が効く間でも軽く40年ぐらいあるわけじゃないですか。10年単位だと、人生はいくらでも変わります。コツコツやっていると、凄まじい変化が訪れるものなので。だとすると???、ビジネスのフィールドではなくて、個人の趣味や楽しみの領域で、レベルを上げていくために、どういうヒントがあるか?というのを、これを見て、つらつら考えました。


LIFE SHIFT(ライフ・シフト)


それと、ものごとにはスケールの尺度があって、世代論で考えると、岡島さんのような差異が見いだせるでしょうが、これをもっと100年単位とか人類5000年年単位とかのスケールで見るとどう見れるのか、こういう尺度のフレームを変える訓練はすると、心にとてもやさしいなと思いました。うん、やっぱり歴史を学ぶことは重要だよな、と。もっとスケールを大きくしてみると、まぁ、どうせみんな死んじゃうし、人間数千年単位でそんなに変わらないし、、、、とか、仕事じゃないフレームで考えると、仕事なんて、人生の3割もない、とは尊敬する出口治明さんの言葉ですね。1年は、8760時間。日本人の先進国最悪の長時間労働平均2000時間/Yでここ10年変化ありません。つまり20%に過ぎない。その領域で、まぁ、お払い箱になっても、、、、というか、社長になれなくても(そもそも社長にれる人なんて一握りじゃないですか)楽しく幸せに生きていける方法を考えるほうが大事じゃないですか。それに、これからの世界というのは、自営業的な、自分で独立して生きていくネットワークで食べていく傾向は強いと思うので、それなりにスキルというか生きていく隙間を見つける力があれば、自分が社長になるのは難しくない気はするんですよね。社員2名の奥さんと二人の会社でも、社長は社長ですもんね(笑)。などなど、いろいろ考えました。

大局観 (日経ビジネス人文庫)