『もっこり半兵衛』徳弘正也著 2015- 個人が世界を救うことはできないあきらめと、それでも可能な限り・・・と思う人情噺が美しい

もっこり半兵衛 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

客観評価:★★★★★5つ
(僕的主観:★★★★★5つ)

いつものごとくヤマカムさんの記事を見ていて、面白いマンガ買おうかーと思っていたら、徳弘正也さんの『もっこり半兵衛』を紹介していて、このレビューが素晴らしすぎて、これは読まなきゃと即全巻購入。まぁ、徳弘さんの作品は、買って損ないし。読んでいる最中ずっと、ぐっときっぱなしだったが、まさに、下記でヤマカムさんがいっている部分が、まさに僕が感じている、この人の作品のすばらしさのコアだと思う。いやはや素晴らしいマンガだ。連載で結構苦労しているようなコメントが書かれていたが、こんな剣客人情ものの時代劇を、書こうと思うのも凄いし、しかもそれが形になって、しかも傑作だったりするところが、いやはやさすがだ。びっくりしたのだが、もう還暦だそうで、いやはやマンガを描くのが好きでたまらないんだ、となんだか、コメント欄を読んでいて胸が熱くなった。

ちなみに試し読みができるそうだ。

www.s-manga.net


さて、ポイント。

個人的には『もっこり半兵衛』が特に面白くなるのは2巻からです。1巻は、徹底的に「弱きを助け強きを挫く」熱いヒロイズム満載でしたが、2巻からはもっと深く考えさせられるテーマが満載で重厚だ。

悪い奴を倒して「めでたしめでたし」では決してない。むしろ良かったで終わるハッピーエンドの方が少ないぐらいです。例えば8話では、近所の仲良かった娘(お玉ちゃん)が父親に遊郭へ売り飛ばされます。

普通なら、金をどうにかしたり、売っぱらった父親をどうにかしたり、遊郭自体をどーこーするってのが正義の味方じゃないですか。しかし、一個人では出来る事と出来ない事があるのです。個人で出来るヒロイズムが『もっこり半兵衛』の人情噺をよりブラシュアップさせてくれる。

お玉ちゃんを遊郭に売られるのは、もうある種仕方がないことで、ならばそれを踏まえて救ってあげるという。お玉ちゃんが遊郭で出世できるように教養を身に着けさせる。おかげで禿から花魁にまでなれた…が…(´・ω・`)

「めでたしめでたし」では決してないものの、半兵衛が出来る精いっぱいだったのが尚泣けます。『狂四郎2030』ラストの後書きでもあったけど、個人で国のシステムどうこうとか転覆はできないって、ある種のリアリズムとそれでも個人で可能な限りで救う。その辺が徹底されててグッとくるんだよなぁ。

yamakamu.net

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余すところなく、よさが説明されているので、ヤマカムさんのレヴューを読んで!と言ってしまえば終わるのだが、、、、『狂四郎2030』でもそうなんだけど、全体に漂う


一個人で世界を救ったり変えたりすることの不可能性という諦観


が、凄まじいディストピア(『狂四郎2030』)を描いても、江戸の普通の日常を描いても、何を描いても、その背景にべったりと張り付いているところ。いってみれば、物凄く暗く、苦しく、過酷で、厳しい。世界は、そういった残酷さに満ちていることが、大前提で、、、何よりも、個人がそれをどうにかすることはできない「という無力感」がこれでもかと埋め込まれている。


しかし、、、、にもかかわらず、主人公たちは、明るく、やさしく、ドスケベなんですよ(笑)。


無理して明るくしてるわけでもなく、その残酷な現実で生きていのを、当たり前に受け入れている。そして、、、、なんというか、この半兵衛って、なんというか、ほんとうに汚いおっさんで、ドスケベで、なんというか、かっこいいところがないですよね。そして、彼は世界を救うヒーローでもなんでもないし、ほとんどは誰も救うことはできない。「にもかかわらず」、彼の気高き魂に胸が熱くなるんですよ。『狂四郎2030』と同じ構造だって、胸が熱くなりました。人情噺的な、時代劇の定番構造を使いながら、人間理解が深いと、こんなに深い話になるのか、、、と驚きます。


いやはや、素晴らしい出来で、よかったです。


ちなみに徳弘正也さんの『狂四郎2030』は、日本エンタメ史上、ディストピアものの最高傑作のひとつといってもいい出来で、何度読んでも驚くほど背筋が寒くなり、深く深く感動するので、めちゃくちゃおすすめです。ペトロニウスの名にかけて傑作です。これは、読んでないと人生損なレベルだと僕は思います。


絵柄による好き嫌いがあるだろうし、特に下ネタによるコメディが基本なので、人を選んでしまう可能性は凄くあると思います。でもね、『狂四郎2030』は、僕の審美眼にかけて(なんか偉そうですね、、、)、そういうものをすべて飛び越える傑作中の傑作です。主観的な評価も客観的な評価も、日本におけるディストピアものエンタメでは、最高峰に位置するものです。ちょっと長いですが、これは読むに値するものなので、ぜひぜひ、おすすめします。

狂四郎2030 全14巻セット (集英社文庫―コミック版)