『2人のローマ教皇(The Two Popes) 』2019 Fernando Ferreira Meirelleska監督 対立の中に、苦しみの中に、罪の中に、おかしみが、余裕が、愛があること


The Two Popes | Official Trailer | Netflix

客観評価:★★★★4つ
(僕的主観:★★★★4つ)

ネットフリックスオリジナル。こうしてみると、フランチェスコ教皇教皇の座に就いたことそれ自体が、バチカンの強いメッセージなんだな、と思う。改革派が、保守派を押さえたし、しかもちゃんと宥和している。事実なのかどうかはわからないが、こういうメッセージが世の中にあふれることは、なにがしかの真実を表しているのではないかなぁ、と部外者であまり知識がない自分は思う。

これは、第266代ローマ教皇フランシスコと、その先代ベネディクト16世のお話。ヨハネパウロ2世より2005年に教皇を引き継ぎ、2013年に、実に719年ぶりに自由な意思で退位し名誉教皇になった。その引継ぎの期間の2人の対話が物語になっている。何がベネディクト16世の決断を促したのか、フランシスコは、どうして受け入れ、そして何を目指すのか。この話は、日本の天皇家にも言える話なので、「横のつながり」というか視点で見るには、同時代に、宗教的権威の頂点に立つ伝統的存在が、自由意志によって退位した話は興味深いと思う。


アンソニー・ホプキンスベネディクト16世、ジョナサン・プライがフランシスコ演じるのだが、プロの俳優の凄みをこれでもかと感じる、見事な出来栄えでした。


映画として物語として、みるべきポイントは、僕は2つ。


一つは、ブロマンスかよっ!ってくらい、二人のおじいちゃんが、いちゃいちゃしていること(笑)。


でもね、保守派と改革派の旗手だけに、最初は口もきかないくらいお互い避けあっているし、なによりも、ずっと政治的対立は、激しくて、話せばすぐ論争になっているんですよね。「にもかかわらず」、終始、お互いへの尊敬と愛にあふれている感じがするのが、とても不思議な映画。この「感覚」を演技で来ている、二人の熱演ぶりには、脱帽。特に、ベネディクト16世は終始堅物の厳しく偏屈な人であるのに、それが、じつは、ジョナサン・プライのフランシスコに深く心を開いていて、好ましく思っているのが、全編に伝わってくるのが、素晴らしいなぁ、とずっと見ていて、すがすがしい気持ちになりました。


これはメッセージです。


対立があるものでも、愛し合うこと、尊敬しあうこと、お互いが共存できるということを示している。いい物語です。


そしてさらに奥深く、ぜひとも『ローマ法王になる日まで(Chiamatemi Francesco - Il Papa della gente)』(伊2015)を同時に見たい。そうすると、背景がより詳しくわかると思うのですが、この二人の悩みの骨子は、



二人が許されない罪を背負っていて、それに自覚的であること



なんです。これは、人間的な物語だし、神ではない!(この言葉にどれくらいの重みがあるだろう、、、教皇として言うんですよ)人間なんだ!と言い合うシーンは、胸が熱くなりました。この映画単体でも十分わかりますが、フランチェスコ教皇のアルゼンチンの独裁政権下での苦悩は、ぜひとも下の映画も見たいところ。

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ベネディクト16世の方も同じであまりにセンシティヴで、映像までには出なかったが、司祭の未成年者への性的略取が問題になっていて、これを見過ごしたことに対する罪を告白するシーンは、いろいろ思いました。人の上に立つのは難しい。マクロの責任をすべて引き受けなければならないし、なんだかんだ言って現実に悲惨な目にあった人々からすれば、甘えたこと言ってんじゃねぇ、と許せなくなって、対立が深まり、より激しく分裂していくのは、世の常であり、、、何よりも、それこそが「今の時代」です。宗教的にというか、物語として「許し」が必要なのはわかります。でも、許せるほど人の傷は、虐げられた人の傷は、甘く話、浅くはない。だからこそ、殺し合いが続く世界なんですよね。それが現実の過酷さ。


でも、この作品を、コメディというのは、とてもいいと思うんです。フランシスコが、終始、人生を楽しそうに生きているの。ごはんしそうだなーと、ふらふら庭を散歩したり、ハーブを見つけて喜んだり、ビートルズが好きだとハミングしたり、サッカーで一喜一憂したり。…最後のシーンで、ワールドカップの試合を二人で見ていて、決勝がアルゼンチンとドイツなんですよね。二人が、めちゃ、盛り上がっている姿を見て、、、、ああ、こういう宥和と対話が、許せない罪を背負いながら、それでも、話し続けて、そして人生を楽しんで肯定的にとっていけたら、いいだろうなぁ、と凄い前向きの気持ちになれる映画でした。


僕は素晴らしい映画だと思いました。おすすめです。


www.bbc.com

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