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第315話 四宮の後継者
四宮魁。
大病院四宮グループの長男。
しかし、天才外科医として名高い蓮と慧という弟がいて、いつも比較されながら、自分のコンプレックスに打ちのめされて生きてきた男。
良くある話だ。
慧がT大医学部(東京大学の医学部だよね)にストレートで合格したというのを聞いて、動揺する若き日の魁。
ああ、、よくわかるよ、それ。
才能がない人間には、軽々とある種のバーを越えてくる人間には、嫉妬で恨みとルサンチマンが爆発する。
なんだこの系統の話か、と読み流していたら・・・・目が離せなくなった。
嫌いではないし、素晴らしい物語だと思うが、『ゴットハンド輝』は、とても面白いけれども、レベルも39巻になってすら全然下がらないけれども、、、、と思うほど高評価なのだが、逆にいつ安定しすぎてあまり本気で読んでいなかった。
だから筋も実は良くわからない。前後の関連も。
この流れからすると、魁をこの話で持ち上げて、あとで蓮や慧ら弟たちに負けるというドラマ類型だな、と思っていた。
けど・・・・・
なんなんだこの魁のかっこよさは!!!!
そのオーラに、僕はしびれた。
若き日の魁は、どんなに勉強しても、外科医として努力しても、弟たちにかなわない自分に苦悩する。
ああ、そういう才能の歴然たる差というのは、あるものだよ。
僕は、高校時代に仲良かった女の先輩がいて、その人が僕にいろいろな本を教えてくれた。図書館の本を全部読んでいるという、図書委員でいつも図書室の準備室にいる先輩だった。
天然で、いつもボケている人だったし、勉強しているそぶりすらなく(実際家で勉強はまったくしない人だった)、学校の授業だけで、すべてのテストは満点で、、、、というか、勉強を教えてもらって過去問を見せてくれたら、すべての答案が100点で、、、、衝撃を受けたのを覚えている。
塾もなにも行かず、本ばかり読んでいる、ぼんやりとした先輩だったが、あっさりと東大に首席でストレート合格をしてのけた。
僕はあの人を見て、本当に思った。
世の中には、努力では越えられないような、才能の差、というものはあるのだなーと。
はっきりいって、あれは、痛快だった。
あれくらい「物凄い差」を見せられると、もう、なんつーか、どうでもよくなっちゃって、笑うしかなかったもの。
でも、あの人がが親族であったり、どうしても避けられない競争相手だったら、苦しいだろうな…たぶん気が狂っちゃうくらい、とも思ったものです。
そして、魁の弟たちに向ける視線は、そういったものでしょう。天才外科医の蓮と慧への視線は。
けど、彼は、そこで気付く。
才能では勝負にならない弟たちに比較して、自分はただ単に「最初に生まれただけの長男にすぎない」・・・と。
けど、彼はそこで思う。
オレは長男なんだ・・・・
天才外科医であってもそれは、一プレイヤーにすぎない。
だから、その天才プレイヤーを「マネージメントしきる」経営者になろう、と。
魁は、アメリカに留学し、医療の経営学とMBAを取得し、外科医技術に磨きをかけ、病院に戻ってくる。
そう、彼は、長男。
彼は正当な後継者。
支配者・・・・すべての頂点に君臨する帝王としての器に磨きをかけようと、自分を鍛え抜くのです。
手術室の前で弟の天才外科医の蓮(この手術の第一助手)に
「期待しているよっ♪」
と、声をかけられる。
次の見開き一ページ。
若き日に才能の差に打ちのめされた天才の弟を前に、真正面から目を見開いて魁は不敵な笑みでこう答えます。
「おう応えてやろうその期待に」
どうです!この重み。
凄まじい歴史を誇る四宮家。
圧倒的な才能を示す弟。
そのすべての重圧と期待を受け、しかもそれにこたえる器がないと悩んだ青年が、努力の果てに見出したもの。
真正面から、その「恐るべ呪縛の込められた歴史のある期待」のすべてに、応えきること。
そう、すべての天才たちを、統治する真の帝王としての、その期待に応える方法を見出した獅子の不敵な笑みです。
ああ、これは、まさに帝王の器だ、と思いました。
この筋がどういう方向で向かう出あれ、家の重圧のとコンプレックスをすべてバネに、才能さえない中で、その期待を真正面から受け止めた、この男としての器。
帝王の器に、感動です。