『蒼海訣戰〜GOD SAVE THE EMPRESS』 納都花丸著 善悪二元論の克服へ〜あの坂の上の雲まで走り抜ける青春

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評価:★★★星3つ
(僕的主観:★★★★星4つ)

蒼海訣戰〜GOD SAVE THE EMPRESS』 納都花丸 壱代陛下のどじっ娘ぶりにKO!
http://ameblo.jp/petronius/entry-10025350961.html

蒼海訣戰〜GOD SAVE THE EMPRESS』 納都花丸 坂の上の雲を目指す少年たちの夢
http://ameblo.jp/petronius/entry-10034489593.html

実は、この作品は、次の巻が出るのを心待ちにしている。心が震えるほど待望するというわけではないが、なんか好きなんだよなー。たぶん根本的な部分で、丁寧なよいマンガで、絵柄と作者の人間理解が、好きなんだと思う。


■近代を見つめる過程で隠されているものと表現はざまについて


ちなみに、この話の基本枠として、主人公の三笠真清という少年は、津洲皇国のエリート海軍士官学校候補生なんだけれども、彼の人種は、津洲皇国に侵略されて併合されたネコ耳の民族である追那(オイナ)人なんですね。偶然?なのか、陸軍のエリートである高級官僚の家柄である三笠家にその乱のさなか拾われたという経緯があるわけです。まさに、『皇国の守護者』と同じ話ですね。

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これって、何が主題になっているかってわかりますか?


これってのは、民族問題に絡むアイデンティティーの問題のことなんです。主人公は、常にこういう疑問を抱えるわけです。「おれは誰だ?」ってね。非常に単純な話で、異なる民族やナショナリティーである子供(少年でも少女でもいい)が、侵略者や支配者のエリート層の家に取り込まれたという話なんです。この形態は、実は非常に複雑な物語を内包してしまいます。

それは、家族と国家の問題。

侵略と非侵略の問題。

グローバリズムナショナリズムの挟間の問題。

などなどです。

基本の人間関係を考えてん見ましょう。


1)三笠光清 陸軍エリート軍人であり内乱鎮定の英雄


2)三笠真清(本編の主人公) 海軍士官学校の生徒

基本的にこの物語は、この関係性につきるんですよ。この矛盾にすべての矛盾とドラマツゥルギーが詰まっている。この設定と関係性を「らしく」構築できた時点で、この物語の世界観としては成功なんです。この真清くんは、幼い時孤児で戦場で死にかけたところを光清に拾われ、養子として弟として育ちます。この光清がまた素晴らしい兄貴で、人格者で、しかもまばゆいほど素晴らしくかっこいい軍人なのです。そのせいもあって、めちゃめちゃブラコンに育っています。もう、この真清くんにとっては、人生のすべてが、生きる価値の根本が、

素晴らしい兄さんに認めてもらうこと

かっこいい兄さんにふさわしいかっこいい弟であること

なんです(笑)。ユニティー(=統合の問題)で、家族という親密圏は、すべての民族などアイデンティティーを超えやすい強固な小集団です。言っている意味が伝わるでしょうか?。人間の信頼や愛情などすべてを支える基本の単位は、家族でありやすいのです。しかし、真清クンは、悲しいながら兄貴のようには、いくら頑張ってもなれません。陸軍きってのエリートである三笠家の二男でありながら、海軍士官学校にしか入れなかったのも、彼が津洲人ではなく民族的に異なる追那(オイナ)人(ネコ耳がある少数民族)だったからです。そう、民族的に、容貌的にも、差別される立場にるからですね。真清クンは、優秀で海軍士官学校に首席で入学します。それほどの才能や強い志があっても、結局は、純潔の津洲人の名家のエリートである兄のようにはなれないのですね。


家族という単位は、もちろん中国や朝鮮のように血族が絡むところも多いのですが、基本的には、血縁や様々なものを超えやすい傾向があります。理由は簡単で、もともと結婚という制度が、近親相姦を嫌う・・・外部から血を求める傾向があるものなので、新しい形態をつくり出しやすいのです。また、基本的に人類は、生活世界を共有するという共同体を同じくする場合には、強烈な統合機能を発揮しやすいのです。


けど、もちろんのこと近代国家と民族問題は違います。ナショナリティーの境が曖昧であること・・・言い換えれば民族や国家などという純潔性は、既に我々の時代には自明なことです。けれども、その枠を基準にいまだに平気で民族浄化などが行われています。容貌の違うもの、言葉の、文化の違うものへの差別は無くなりません。ここで、この兄弟は、同じ家族であるにもかかわらず民族が違うというドラマツゥルギーを抱え込むのです。恋愛も同じくこの話を作りやすいですね。ただ家族が同じ方が、価値観や生活体験が共有されているので、葛藤が巨大化するのです。背負っているものが同じですからね家族は。そしてエリート軍人候補である真清クンは、当然ながら、津洲皇国の軍人でありながら、その国に併合されたどちらかというと差別されている傾向にある民族出身者で、明らかに信用されにくいという特殊な立場にいることになります。ここでも、「守るものが何?」という究極の不一致が生まれています。


このテーマを内包した時点で、これらの問題がダイナミックにつきつけられるのです。ネコ耳とか金髪とか、たしかにガジェットですが、、、、こういう設定をした時点で「これ」にいかに誠実に付き合うかということが物語上の必要性になるのです。ちなみに、僕は、ここで書いたのは、近代の素晴らしい物語が見たいなーと思っていて、それには、この問題をさけては通れないのです。もっと調べればたくさんあるかもしれませんが僕はあまりこの手の物語や事実が見れなくてつまらないなーと思うのですが、、、、まぁ微妙な問題ではありますがね、、、


たとえば、近代史を紐解けば、台湾の高砂族出身の大日本帝国陸軍最強の陸軍部隊とか、、、、いなやんでかというと、高山出身の陸軍特殊部隊の精強さは世界的にも有名だし・・・それとか、当時原爆で亡くなった陸軍中佐は朝鮮の王子だったし、高級軍官僚で朝鮮人の中将とか指揮官は、帝国軍にたくさんいたんだよね。その他満州族とかもね。




いや、僕は、ナショナリティーとかの問題をあまり声高に論じたいのではなくて、事実歴史にいたということを考えると、彼らはいったい何をどう考えたのだろうか?どんな夢とんな怒りがあったのだろうか?って個人のレベルで色々夢想してしまうんですよ。



だってドラマでしょう?。




だって、朝鮮人で、帝国陸軍でほとんどいない中将級へ出世したってのは、もの凄いことですよ。士官だっていっぱいいたわけだから、、、、。しかし、同時に同じ民族の同朋は、当時の帝国から見ればテロリストとして民族解放のために戦っているわけですよ。もう大矛盾。「今の歴史から見れば」、テロリストの方が、実は正しかったといえるでしょう。けど、当時に事実にそこにいた人にとっては、未来の話なんか意味を持ちません。


そういう意味で、安彦さんの『王道の狗』は衝撃でした。アイヌという皇民化政策という近代日本の民族浄化の対象となったまつろわぬ民からの視点で、アジアの歴史を見直す視点は、逆に近代日本の持っていた多様性を浮かび上がらせて、僕は唸りました。教科書は、王道であるべきと僕は思います。そして、その王道の正史があったればこそ、こういったその逆から裏から見た視点が重要になるんです。

http://ameblo.jp/petronius/entry-10034489593.html

ここでこう書いているのは、たとえば、司馬遼太郎さんとか、城山三郎さんでもいいし、福井晴敏さんでもいいのですが、、、、確かに近代日本人のかっこいい姿を物語として書くのは、おもしろいし、大衆受けはする。けど、、、それは、正史であって、その裏側や周辺部が隠されているのですね。ちなみに裏側や周辺部「だけが正かった」というのも、それもそれはそちら側の正史であって、それもつまらない。たとえば、韓国や中国の正史としては、日本の支配に反抗した人々のみが正しかったと今の時点ではなってしまうし、なかなか両義的なことを広汎に話せるほど国も安定してはいないと思う。(ナショナリティーで国を求めて求心力をつくる必要性があるのは、国家としての統合力が弱いことを示している、と僕は思う。)


けど、事実は、常にその境界のど真ん中の曖昧さの中にあると思うのだ。


たとえばちょっと考えても、僕がいまのところ断トツに下記が好きなんですが・・・・

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蒼穹の昴浅田次郎
http://ameblo.jp/petronius/entry-10001743577.html

浅田次郎さんのこの作品が、最高に思えるのは、出てくる登場人物が凄く両義的な可能性を秘めているからだ。たとえば、この話は、中国の近代化を清朝で考えた志士たちの話なのだが、この話ってまさに日本の幕末の京都と同じ状況なわけですよ。これだけで、胸は高鳴りますよ。だって、幕末の志士だぜ!あのドラマティツクな世界が、中国大陸という巨大な世界で展開するんだぜっ!。物語として考えただけでも、垂涎ものです。


そしてしかも脇役も素晴らしい。いくつかの登場人物が、興味深いんです。たとえば、新聞記者には、日本近代化に最後まで抵抗した経験を持つ戊辰戦争の生き残りの会津人の新聞記者が北京に派遣されていて、彼と意気投合するのは、アメリカの南北戦争で自分の国(南部)が滅ぼされてしまったこてこての南部人の新聞記者なんです。もうこれだけで、涙が出そうなほど、作者わかっているなーと思う。国家のメインストリームである軍人や経済人ではなくジャーナリストとして、革命や近代化の名のもとに封殺されたものを世界に告発する意欲満々ですよ、彼らは。そんでもって、虐げられていたり、大きな力にあがらうテロリストや革命家に、非常に複雑なシンパシーを抱いている。もう彼らだけで、飯三杯はいけます。・・・・たとえば、具体的に朴正煕大統領の一生とか、僕は大河ドラマで見てみたいなーって常々思うのです。この人って、下記のウィキの抜粋を見てもらえれば、とっても矛盾した人生を送った人だというのがわかります。

日本国籍のまま満州国軍の新京軍官学校で学び、同校を首席で卒業する。優秀な成績のため、特に選ばれて日本の陸軍士官学校に留学した。その後、創氏改名によって高木正雄と名乗った。1944年に日本の陸軍士官学校を卒業(57期)し、終戦時は満州国陸軍中尉だった。

ほら、もうこれだけで、さっきの話とダブるのですよ。この人は極貧の農村生活をおくっていて、成績優秀で選ばれなければ、ただの農民で人生終わっていますよ。ちなみに、後に「漢江の奇跡」という韓国の近代化の礎を築いた時代には、例えば、彼の陸軍士官学校時代の先輩の瀬島龍三に高度経済成長を実現させるために裏話していたという。

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韓国の軍人出身の人の話みたいですが、本当かどうかは僕にはわからないので、これが事実だぁ!とか言いたいわけではなくて(少なくとも僕には事実がどうかはどうでもいいです)、こういうのって、ドラマですよね!と思うんです。あっても決しておかしくない。だって、台湾の総統だった李登輝さんなんか、京都大学(旧京都帝国大学)出身ですよ。僕が、たとえば朴正煕さんとしては、韓国を発展させるためならば、そりゃー瀬島龍三さんなんか利用価値が高いわけですよ。お互いマクロを管理する為政者なんだから、いかに相手を利用して出しぬけるが重要です。けど、学生時代あの何もなかったころの先輩後輩って、またそれも大きなものじゃないですか、個人にとっては。ううーーこれだけで、もう物語がドラマチックに頭に浮かぶ浮かぶ・・・。


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大東亜戦争の実相』瀬島龍三を読む
http://ameblo.jp/petronius/entry-10001693226.html

物語を評価する時の時間軸として過去〜日本社会を描くときhttp://ameblo.jp/petronius/entry-10012793578.html

不毛地帯山崎豊子を読む
http://ameblo.jp/petronius/entry-10001693054.html

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%80%AC%E5%B3%B6%E9%BE%8D%E4%B8%89


下記の記事みると、為政者として、優秀だったんだなーと感心します。そして、矛盾がたくさんあることも。単純ではないですからマクロの話は。


朴正煕は植民地統治下の朝鮮慶尚北道善山郡(現在の亀尾市)で生まれた。貧しい農村部家庭の末子であった。小学生の頃は、学校に弁当を持っていけないほど生活は苦しく、酒に酔うたびに友人や側近に「俺は本当の貧しさを知っている」と語っていたという[1]。父親は科挙に合格したが、日本によって韓国が併合された後に没落し墓守をしていた。大邱師範学校を卒業し教師をした後、日本国籍のまま満州国軍の新京軍官学校で学び、同校を首席で卒業する。優秀な成績のため、特に選ばれて日本の陸軍士官学校に留学した。その後、創氏改名によって高木正雄と名乗った。1944年に日本の陸軍士官学校を卒業(57期)し、終戦時は満州国陸軍中尉だった。

朴正煕の死後、早くから目をかけてきた軍人大統領が二代続き、その開発独裁路線を継承する。強圧的な独裁政治は批判されつづけていたが、民主化後、その達成感によって運動が退潮しはじめたこと、生活が豊かになったと国民が感じ始めたことで、独裁下に於いて実現した「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展や治安の良さを再評価する動きが出て来た。政敵であった金大中が、大統領選を控えて保守票を取り込むために朴正煕時代の経済発展を評価するに至って、韓国近代化の礎を築いたという声が高くなった。独裁的でありながら彼の私生活はいたって質素、潔癖であり、ネポティズム縁故採用)も嫌ったことは事実である。保守派を中心に彼の治世を懐かしむ声さえ存在し、韓国歴代大統領のうち一番人気があるともいわれる。しかし、彼が終始民主化運動を徹底的に弾圧し、終身大統領として自身の権力を死ぬまで保持しようとしたこと、朴政権下での拷問、不当逮捕を含む強権政治が大統領の死後も二代の軍事政権に引き継がれ韓国の民主化を阻んだことも事実である。

終生のライバルであった北朝鮮金日成に体制競争を挑み、決定的な経済格差を付けた。経済格差によって南北の力関係が大きく変化したことは東アジア地域の国際関係にも変化をもたらした。経済パフォーマンスを体制の正統性の根拠としてアピールしたのはむしろ朴正煕登場以前の北朝鮮であった。そのため、北朝鮮は経済面のみならず人民に対して支配を正当化するうえでも慢性的な苦境に陥った。


批判的な見地からは独裁者としての批判に加えて朴正煕を植民地支配における対日協力者・親日派とする意見もあり、実際親日人名辞典編纂委員会の名簿に記載された。2004年に日本植民地統治時代の対日協力者を解明するための日帝強占下反民族行為真相究明特別法が可決され、その時代に日本の陸軍士官学校で学び、満州国国軍に参加していた彼もそれに含まれる(最終的には、保守派の反対を受け彼は該当しないように配慮されることとなる)という一幕もあった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%B4%E6%AD%A3%E7%85%95


えっと、この話は一例にすぎなくて、僕はこういうもっともっと、ミクロを細かく見つめた上で、正史に騙されたイデオロギー的な自国中心史観ではなくて、この挟間の曖昧な境界の中で、ふりしぼって生き抜いた人々の目指した夢やそういうものを物語・エンターテイメントで見てみたいと思うのですね。ちょっと話が蒼海訣戰の話からずれてしまったのでうが、僕が司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』とか『蒼穹の昴』の浅田次郎さんなんかに片鱗を見てしまうのは、こういうダイナミックで境界を越えるドラマを描いてほしいなーって思うんですよ。


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この系統のテーマを内包する近代の物語には、その片鱗があるんです。ちなみに、僕がこの話をどうして固執するかというのならば、それは善悪二元論の克服という大きな物語の類型におけるテーマだからなんです。

物語の読み方/二元論について
http://ameblo.jp/petronius/entry-10006776740.html

物語の読み方/二元論の超克/数字は2よりも3がいい!!
http://ameblo.jp/petronius/entry-10007083166.html

善悪二元論の果てに内面の解体を目指したことの行き詰まり
http://ameblo.jp/petronius/entry-10027647923.html

島国を日本に見立てるにしても、民族問題抱え込むのは悪手じゃねえか? とか最初は思った。
(抱えた問題がでかすぎて、作品の主題がコントロールできなくなったり、細部が主題に傷を付けることがありえる、と俺は思う。 『鋼の錬金術師』が宗教問題に首突っ込むようなもの?) 
でも、読んで納得。 ああなるほど。これなら大丈夫かもしれない。 

だってパツキンだもの。 


だって猫耳なんだもの。


 「だもの」ってのが意味不明。 いや、なんつーか、ただ印象や勘で断言するのもなんだけど。 たぶん、この子ら金髪の少年と猫耳の少年とを観る視線ってのは、少女漫画を嚆矢として、このくにの文化が20年以上培って育ててきた「かよわきもの」(=「可愛きもの」)を観る視線なんじゃないかしら? と思う。

 彼らは、迫害を受ける可愛い/か弱い/愛らしい/美しいものたちであると。

 そこにあるのは、彼らは可愛い/か弱い/愛らしい/美しいがゆえに虐げられる、っつう一種のエロティシズム/フェチズムであって、民族問題一切関係なし。


納都花丸蒼海訣戰』1巻/第弐齋藤 土踏まず日記さんより
http://sto-2.que.jp/ndiary/2006/06/200606162.html


ちなみにこの蒼海訣戰については読むたびに、この土踏まずさんの日記を思い出すのですが、表現史的には、この人の言う通りであろう。この作品は、このような萌え設定では、確かに結論をどこに持っていくかは難しい。なぜあらばあまりに激しいダイナミズムを抱え込みすぎていて、どうにもオチのつけようがないからだ。

しかしそれでも、作者がこの方向に真摯に(エンタメの限界あありつつも)向き合っていることがわかるので、僕は好きです。

「だから俺は壊さない 俺は変えるほうを選ぶ」

p173〜

このセリフは、革命と体制内改革の立場の違いをよくあらわしている。見事なセリフだ。読めばわかるが、このあたりは、安彦さんの『虹色のトロツキー』を思い出します。ちなみに正史の裏側というシリーズとしては、安彦良和さんの作品群が圧倒的。金成が絶版になっているのが痛いが、歴史に残すべきシリーズだと思う。『クルドの星』とにかく質量とも半端じゃない。素晴らしいシゴトとだお思うので、ぜひ全集にまとめてくれないかなー。そしたら買います。


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>>二巻冒頭で、壱代陛下の御前会議でのどじっ娘ぶりが、あまりにかわいくて、僕は死にそうでした。作者、おぬし分かっておるのーって(笑)。
>壱与陛下が出てこなかったので、さみしくてさみしくて・・・・。


p36

「行きたく…ないな・・・・・観艦式なんて・・・・」

という壱代陛下のポツリとつぶやくセリフに、またもやノックダウン(笑)。たまらんです。



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■非人類との殲滅戦
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『本と映画と、ときどき仕事』のまぎぃさんより
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