『王妃の離婚』 佐藤賢一/男と女にとって救いとは?結婚とは?(2)

王妃の離婚 (集英社文庫)王妃の離婚 (集英社文庫)
佐藤 賢一

集英社 2002-05
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評価:★★★★★5星つ
(僕的主観:★★★★★5つ)



(1)リーガルスリラーとしての続きです

http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20080713/p5



さて、先ほどこの本は、二つに分けられると書きました。



жネタバレですので、読んでない人は読まないように!!って、僕のブログは基本ネタバレですが。

1)1〜2章のリーガルスリラー


2)3章の結婚とは?、男と女にとっての救いとは?


■救いとはなにか?


1)は、作者にとっては知識と技巧の部分で、実は著者が解き明かしたいのは、2)なのではないか?と思うのです。なぜならば、全編を貫く主人公のモチベーションは、「救いとはなにか?」だからです。そして、それを明らかに男女の関係にフレームアップして考察しています。これほど面白い?1〜2章のリーガルスリラーの部分を、実は唐突な印象で、?のテーマへ切り替えています。1〜2章と3章では、明らかにテーマの断絶があります。これほど盛りあげたリーガル的な面白さ振り切って、王妃ジャンヌとナントの弁護士主人公フランソワの実存的な救いの部分を解決に持ってくるあたりは、この作者は、政治や論理や法律などをつかさどる知識では、人間は救えないのだ、という感覚を持っているのではないかな?愚考しました。はっきりいって最後のSEXシーンは、とても救われる感じがしました。ああ、こういうSEXシーンは、美しくて、そんでもってすぅんごくHでいいなー(笑)と思いました。いや、まじで王妃がかわいかったー(笑)。



「だってあの人、下手なんですもの」



ってのは、完璧に前のだんなを振りきったセリフ(笑)だよねー。SEXは描くのが難しいのです。エロティシズムは、肉体的な煽情を描くのは容易ですが、それが相手の心への欲情や自分の心の解放(=死のことですね。バタイユです)まで描くのは、とても技量が要ります。やはり、なんかのマンガのセリフでありましたが、「女を抱く時には、身体だけでなく、心を抱いてやらなければだめなんだぜ」というセリフを思い出しました。逆もまた真ですね。

エロティシズム (ちくま学芸文庫)エロティシズム (ちくま学芸文庫)
酒井 健

筑摩書房 2004-01-11
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結局は、頭でっかちなものだけでは人間を救うことができないのだ、という作者の結論や、主人公の『本当は離婚したほうがいいのではないか?』という切実な悩みは、すばらしい。・・・・が、キリスト教的なテーマだと思うのですが、受け入れる性で、男に寄生する性だとする女性への強い蔑視も同時に強く存在している。キリスト教は、基本的に、快楽の否定と女性蔑視は伝統的に強い傾向がありますからね。ましてや中世ではそれは強烈です。けれど、そうはいってもさー男ってヤツはそんな女なしには生きてはいけない弱い存在なんだよね〜(笑)という主人公(=作者)のあきらめというか、切実な愛する女性への思いが、からまって主人公は、わけがわからなくんっています(笑)。単純に女性蔑視しように、その女性なくしては救われない男の存在がある限り、答えの出ない循環論ですからね。このへんは多分この時点では、結論が出ていない問題なのでしょう。答えははっきりしていません。実際にここまで強くりりしく理性的な王妃ジャンヌが、結局結婚にすがりきって、ダメ男のことをどうしようもなく愛している典型的な女性であることも描いていて、その解放のためには次の男を必要としました。これは、恋という真摯な思いは一瞬の真実を作るが、それが長続きしないことを、語っているんですね。ようは、永遠の愛はない、と(笑)。恋を結婚により永遠に封じ込めようと努力するが故、その幻想を持つが故、女性は結婚にジタバタしがみつく。けれども、そんな永遠はないんだ。いや、そんな永遠もあるかも・・・と主人公(=作者)は揺れ動いている気がします。


多分、作者はロマンチストで、愛の永遠性を信じたいのでは思います。



けれども、多分彼の小説家としての力量や経験や人間理解が、それは無理だ、と叫んでいるのでしょう。たぶん、この作者の人間理解は、この愛の永遠性とその不可能性に揺れ動く形で形成されていて、そのどちらにも答えが出せない、というところ「こそ」が彼の魅力なのでしょう。どちらに偏っても、ウソですからね。いや、とても面白い小説でした。中世フランスやキリスト教社会の知識も、その面白さを損なうことなく高いレベル描かれているし。




■男がどう救われるのか?


でもこの人の小説は、結局は、「男がどう救われるか?」がテーマなような気がする。男性の内面が、ネチネチ(笑)えがかれているのも、そこの焦点があっているのだと思う。救いは、たとえば、主人公が、教皇庁より認められてヘッドハンティングされた時に、巨大な喜びに包まれたという描写は、



男性の解放と幸せが、


1、社会から自らの能力を認められ得たとき


2、女性から受け入れられたとき


という二大要素がほぼすべてで(笑)、彼の不遇感を?で取り除き、?で最期のラストシーンとなるわけだ。しかも、主人公は、この二つ友を最終的に手に入れていることを暗示していて、そりゃー人生大成功だよ(笑)って唸ってしまった。なんか、だからダンディーな感じのハードボイルドロマンみたいな感じがしました。ちなみに、久しぶりに満腹と思える小説で、なかなか良かったです。