『ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず』塩野七生著 ローマンエンパイアを巡る謎〜歴史上の幾多の人が疑問に思った謎

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評価:★★★★★5つマスターピース
(僕的主観:★★★★★5つ)


■ビジネスマンは塩野七海が好き?

どうも僕もまわりのビジネスマンは、塩野七生が好きな人が多いようだ。プレシデントとか、おじさんサラリーンマンが好きそうな雑誌にもよく話題になる。なんつーかビジネスマンだけではなく、読書好きの基本のようなものみたいだね。本好きなのに読んでいないと、????という反応をされることが本当に多い。なんでかな?って思っていた。素晴らしいとは聞いていたのだが、ハードカバーに手が出ないままになっていたのだが先日、上司との会話で、ローマ皇帝の戦略の話が盛り上がり、文庫が出ているから読むといいよと薦められたので、手に取って見た。本日(06年11月頃)、まずは1巻と2巻の『ローマは一日にして成らず(上・下)』読了。なっ・・・・なんなんだ、このおもしろさは。うう、失敗したもっと早く読んでおくべきだったと激しく後悔する。この本を読んでいろいないとでは、世界の見え方があまりに違う。僕はギリシアやヨーロッパ文明の基礎知識はかなりある方だとは思うのだが、ローマの世界がなかった。人生の喜びを半分失っているようなものだ。これは、小学校や中学校までに叩きこまれていないと、非常に世界を誤った視点で見てしまう気がするよ。西洋的な視点に偏り過ぎるのはどうかと思うが、西洋史にや西洋文明の土台だもの。知らないでは済まされないなーと思った。



ローマンエンパイアを巡る謎〜歴史上の幾多の人が疑問に思った謎


人にすすめる時に、何が面白いのか?と聞かれたら、それはやはりローマという存在を仰ぎ見る「視点」の面白さ、だと思う。えっ?どういうこと?塩野七生さんの「視点」が面白いといっているのではなく、有史以来人間が「ローマ」という存在を見る時に特徴的に生まれる疑問があるのです。非常に単純にいうと、


なぜローマ人が・・・ローマ人だけが、あれほどの巨大な領土を、長期にわたって領有した大帝国・文明圏を作り上げたか?という疑問です。


p20にあるとおり、


知力では、ギリシア人に劣り、


体力ではケルトガリア)やゲルマン人の人々に劣り、


技術力では、エトルリア人に劣り、


経済力ではカルタゴ人に劣っていた



「にもかかわらず」である。


この疑問に、『ローマ帝国衰亡史』を書いたギボンも、歴史家のアーノルド・トインビーも、囚われたのです。この疑問が、かなり普遍的である証拠は、同時代(紀元前とかですよ!)の多数の歴史家たち・・・たとえばリヴィウスらですら同じ疑問のもとに様々な作品を書いていることからもわかります。

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とりわけ、古代ローマの発祥の時期には、東には大文明圏であるギリシアが最盛期を迎えており、都市国家ローマがケルト人の襲来で国が崩壊しかかっている時期にはマケドニアアレクサンダー大王が登場している。偉大な軍略家であったアレクサンダー大王にも、民主政体を完全に機能させた天才政治家ペリクレスにさえ、ローマのような大帝国を長期にわたって空前の繁栄をもたらすことはできなかった。丁度ほぼ同時期にローマもあるわけで、そのまま衰亡して消え去っても良かったはずなんです。


なぜ?ローマ人だけが?


本を読んだり事実を見る時に最も楽しい知的遊戯は、テーマを持って眺めてみることです。テーマとは、疑問と言い換えてもいい。そして、この巨大な組織を長期にわたって維持し発展させるにはどうすればいいのか?という問いが、マクロに関わるあらゆる人に魅惑的な問いであり、そしてその答えともいえる空前の集大成が、ローマという物語にはあるのです。まぁ単純に面白いしね。まさに、「だれそれという英雄」ではなく、ローマという存在の物語ですから。まぁ実はこのタイトルにも、答えは表れており、全巻読み終わった今から考えると、これはペリクレスアレクサンダー大王カエサルなどのそれぞれの個々の英雄の話ではなく、「ローマ人」という人々を生み出し続けるシステムこそ、その答えがあるんです。とりわけ1巻と2巻でそのことを強調しているのは、とてもいい構成だと思う。ローマはそれまでの、英雄が作り上げる一代の仕組みではなく、永続的に継続するシステムを作り上げたところに、言い換えれば属人ではないところに、その凄さがある。


僕は、企業で戦略を策定するシゴトについているのですが、長期の戦略や組織論を熟考して考えている時、ディスカッションする時に、やっぱりこういったマテリアルを良く知っていると、さまざまなアナロジー(類推)やイメージがわきやすい。なるほど、だから、世の会社勤めの組織に使えるビジネスマンが、こんなにも興味を持つのだな、と思いました。


自分の事業を長く繁栄させるにはどうすればいいのか?



自分の組織は正しい方向へ進んでいるだろうか?


って毎日悩むからです。とはいえ、日本の社会人には、教養が少ない人が多い。残念ながら事実だと思う。何人か、世界に聞こえた大企業のトップを身近に見たり話したりしたことがあるが、そのオーラはともかく、教養があるという意味では、???という人が多いのは事実だ。しかし、これからのモダナイズしたクローバルカンパニーの経営戦略を司る人には、こういう遠い先を見通すような俯瞰した視点は不可欠だと思うのだ。というか、そういう存在でないと、なんかつまらないよねーとか思う。まぁ人の上に立つ、ということは戦略とか戦術とかいったムツカシイことだけではない、もう一つのピースがあると思うので、そう単純ではないのだろうが・・・・。とはいえ、戦略がないトップの下にいる部下ほど悲惨なものはない。だから企画や戦略にかかわる仕事をしている人は、どのみち「戦略的思考」は、徹底して深堀しなければならないのであるから、クリティカルシンキングや経営戦略は、こうした古代西洋史に一つの源泉があるからして、凄く平易だし、ちゃんと読むんでおくと、たぶん思考するときの豊かさが全然違うと思うよ。たとえば、ローマの軍事を司る特別の役職を、国家戦略担当官というのですが、この言葉のラテン語は、ストラテゴ。もちろん、戦略(ストラテジー)の語源です。何事も、本質を学びたければ表層ではなく、本源を辿れ、です。・・・・異動したばかり時、企画部門の上司が、ある事業についてディスカッションをしている時に、


「人間がやることなんて、何百年経ったて変わらないものなのさ」


さりげなく、ローマ皇帝の統治戦略との類似性が出てくるその教養ぶりに、僕の胸は激萌でした(笑)。ぼくにとって、インテリジェンス、教養があることが、尊敬の対象になりやすいんですよねー。自分がそれをとても大切にしているからでしょう。まぁちなみに、 同じイメージがあると、思考は凄く伝わりやすい。こういう基礎となる教養は、知っていて損はないでしょう。きっと、読むと、面白いし、役に立つと思いますよ。さぁ僕も、これからゆっくり全巻制覇するつもりです。(というかとっくにしましたが、もう2回目のターンに入りたいと思っています)。ローマがなぜ繁栄したのか?かという普遍的テーマを片手に、戦略思考という旅に出ます。きっと、なにか大いなるマクロの謎の一端に触れることができるだろうと、ワクワクします。


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