『すぎなレボリューション』 小池田 マヤ著 日置くんの最後に行き着いた職業が感動的です!

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小池田 マヤ

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評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★★星5つ)


ストーリー4コマ界の女王小池田マヤさんが『KISS』で連載していた作品です。もうね、とにかく理屈抜きにこの人の作品は大好きなんですよ。人によっては、あまりに痛いところをえぐるので、うーと思う人もいると思うが、その厳しさを、見事なエンターテイナーで面白く読ませてしまう手腕には、脱帽です。



この作品このコンセプトの最初はシンプルに、



「ブスな女の子がメガネを取るとかわいい!」という変身願望





「職場の超イケメン男性が彼女に惚れてしまう」こんな私でも好きな人がいる願望



という少女マンガの超王道であったが、さすが小池田さん。見事な深堀&展開でした。



とにかくね、そんなシンプル&王道から行き着いた、日置くん(主人公のすぎなの恋人)の最後に行き着いた職業が感動的。コレには本当に驚かされました。すげーこれすげーアイディアだよ。こんなのみたことねーよ(笑)。面白い作品なので、最初の巻を読み出せばすぐはまると思いますが、ラストは絶対驚きますよ。もともと東京の広告代理店でルックスだけで営業していたたらしの日置くんが、「そこ!」に行き着く、というのは、なにか普遍的な大事なものを感じさせられた。同じ東京でサラリーマンをしている自分にとって。お見事一本です。


ストーリー4コマ形式って一時期はやりましたが、どんな形式でも物語る人は物語が広がっていくのだなぁ、とその力量と才能にビックリします。小池田さんは、既にストーリー4コママンガの大家であり、超メジャー売れっ子であるので、読者におもねる必要性はあまりなく、また同時にかなエグいラストで終わる作品もあり、読者への攻撃的な作家なのでその分ストーリーに目が離せません。先が読みにくいんですよ。必ずしも読者に心地よい予定調和でないので。


バツイチ30ans』や『聖・高校生』を読むと、エンターテイメントでありながらそのエグさには驚かされます。この人のテーマは、とても大人な視点で自意識からの脱出を描いています。バツイチや聖などの主人公の自閉や追い詰められかたは、心地よいナルシシズムに包まれるような作品を求める読者を裏切る厳しさです。それをコミカルにギャグに回収して、きつく見せない手法も鮮やか。ちなみに、『聖・高校生』は、星6つ?くらいの超ド級の傑作です。

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小池田 マヤ

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ただ、著者がとても大人で人格者なんだなと思わせられるのは、そういった



自意識の絶望「からの解放」



を描いているからです。アニメーションで庵野秀明監督が『新世紀エヴァンゲリオン』で頂点を極めた男の子の世界観が、自閉に向かって、アダルトチルドレン集団自殺的な「救いのなさ」で終わってしまうのに比較して、なぜか女性の作家は最初から既に絶望しているというか「救いのなさが前提」みたいなところがあって、カラっとそこから解放される作品を描く気がします。例えば、安野モヨコさんや一条ゆかりさんに小池田マヤさんなんかもそうですね。アダルトチルドレン的な世界観は、私小説の伝統がある日本社会には受け入れやすいとは思うが、いいかげん「世界が間違っている」とか「親がすべて悪い」とかいう他人に責任をなすりつける弱さは、もう飽きた。いい加減、世界が腐っているのも周りの人間が親も含めて聖人君子でないことも、あたりまえじゃないか。自分の傷ばかり見ていると、他人の傷が見えなくなる。もう、どこかで「すべてふっきって」自分で自立して、寂しさを抱えて孤独に耐えて、幸せに「なる」しかないじゃないですか。今は、自傷系の「次」を描くべき時代なんだと思う(と書いたのが、3年前くらい?)。


たとえば、文学でも村上春樹の『神の子どもたちはみな踊る』や村上龍が『5分後の世界』を描くのも、そういう流れなんだと思う。だから、自立というものをとても深く自然に追求しているし、働く大人の倫理観がきちっとセットされている小池田さんの作品群は、読んでいてキツイけど清々しいのでとても楽しい。まぁそこまで深読みしなくても、ギャグは面白けどね。ちなみにP86〜87日置君姉ちゃんSのQ&Aは、最高。よく人生をわかってらっしゃる。この辺の倫理観は、一条ゆかりさんと似ているて凄い好きです。まぁ難しいことをいいましたが、とにかく彼女の作品は、おもしろいですよ、ということです

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