『GUNSLINGER GIRL』 相田裕著 聖なる残酷さ〜美しいが納得できない世界観

GUNSLINGER GIRL 1 (1) (電撃コミックス)

評価:★★★☆星3つ半
(僕的主観:★★★★星4つ)


■美しいが納得できない〜しかし残酷さに彩られた静謐な世界観ほど美しいものはない・・・・


親に殺されたり、スナッフムービー(殺人ビデオ)で殺されかけた少女たちなど、もう生きる意味さえないような悲惨な目で、なにもしなければそのまま死んでいく少女たちを拉致して、政府の裏の活動に従事させる。彼女たちは、与えられた「義体」によって、兵器と化し、対テロの超法規的な活動(=暗殺がメイン)をさせるという設定。この「義体」の設定は、士郎正宗さんの『攻殻機動隊』を連想させられる。けれど、僕が一番に連想したのは、リュック・ベッソン監督のフランス映画『ニキータ』それに『LEON』だった。

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ちなみに、なぜベッソン監督の『ニキータ』を強く連想させるかというと、『攻殻機動隊』の主人公である草薙素子は、自らの意志と誇りで治安活動に従事しているからだ。この『GUNSLINGER GIRL』の少女たちに、自由意志は存在していない。どちらかというと、無理やりさらわれてきて暗殺者にさせられてしまうニキータ(それもフランス版)を感じさせるのだ。


もっとも、なにか極端な仕事や活動に従事するというのは、それだけ深く暗い衝動が心に隠されているわけで、それを「自由意思」と呼ぶのか?というと、僕はなかなか微妙だとは思うけれどもね。ちなみに、マンガ版の士郎正宗さんは、たぶん本質的にとても健康な人だと思う。というのは、草薙素子の誇りが、とても自立したものだからだ。が、これが、押井守監督の映画『攻殻機動隊』『イノセンス』『スカイ・クロラ』となると、典型的なフランス映画のモチーフであるファム・ファタール(Femme fatale)のモチーフに変化してしまうのは、監督や原作者の「女性観」をとてもあらわしていると思う。そういう意味では、押井守監督は、ヨーロッパ映画を連想させる作風なんだな、いまさらながらに思う。

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とはいえ、僕は、この担当官と義体の関係は、あまり好きではない。


確かに、無条件で担当官につき従う少女は、「萌え」の要素からも、またけなげさもあって、嫌いではないけれども(笑)。でもここまでマクロの設計を深く描き始めると、単純に表面の「絵」というか記号化された表層で愛でるというのが、難しくなってくる。あきらかに最初の意図は、この絵柄と関係で、オタク市場を狙っていたんだと思う。編集者はね。いくらなんでも確信犯としか思えないし。でも、それだけならば、ある種の関係性を固定化した安定した、マイナーな作品で終わるんだろうが、、、、この後、後半の巻で、はっきりいうとサンドラとペトラの物語が挿入されるあたりから、ぐっと世界が物語として展開し始めて、僕としては、この「永遠に止まったままの静謐な世界」から抜け出そうと、物語にダイナミズムを与えようとする作者に敬意を感じますね。


ちなみにこの「支配するもの」と「されるも」、、いいかえれば、「つくる側」と「つくられる側」を描くときには、「〜される」側からの逆転構造を描かないと、ただの奴隷になってしまう。このテーマを意識的にもっとも先鋭化させて作ったのは、僕が知っている中では、栗本薫さんの『真夜中の天使』ですね。この作品は、今西良という美少年をアイドルとして売り出す、滝俊介という男との関係が物語のベースにあるのですが、この滝という男が、場末で死にかけていた今西良という男の子を見出して、大スターに育て上げるんですね。そのために、というか、利用物としてさんざん犯したり(男同士ですよ!)、プロデューサーに身体を与えて仕事をとらせたりともうさんざんにいじめ抜くんですが、、、それは、良をスターにするという強い動機があるからなんですが、、、でも、良がどんどんスタートして実力をつけていくにつれて、今までは圧倒的的な支配者(=滝)と、被支配者(=良)という関係が、どんどん逆転していくんですね。


そして、僕が人生で一番美しいシーンの一つだと胸に刻むなんですが、そういった権力関係の微妙な戦いの中で、ふと、二人がちょうどバランス取れて対等になる瞬間があって、その時に二人で長崎に旅行に行くといシーンがあって、、、、この時の、対等な相手同士の、美しい愛のシーンは今でも忘れられないほどの、鮮烈な記憶を僕に残してくれました。人間同士は、勝ち負けと権力関係でしかあり得ない、、それはたとえ男と女でも同じだ、、といういう身も蓋もない現実主義に毒されていた僕に、ああ、、そうやって瞬間でも真の平等と愛を得る関係性が、瞬間でも成立することが、この世界にはあるのだな、と感動した瞬間でもありました。・・・そういえば、この手の残酷な世界で、一瞬の本物を描くというのは、アメリカのゲイカルチャーの小説に多いなぁ、、、どうして同性愛とかには、ああも鮮烈な真実の愛、、しかの瞬間しかあり得ないというパターンが多いのかなぁ。


って、本論からずれましたが、そういう素晴らしい瞬間をもった滝と良、最後の最後のある出来事で、いままで被支配者であった今西良との関係が、完全に逆転してしまうという出来事が起きるんです。これは、栗本薫さんの傑作小説『猫目石』に匹敵する凄いラストシーンだと僕は思うのですが、ここで、この作品が、「つくるもの」と「つくられるもの」の支配・被支配の逆転が描かれる、それが本質のテーマであったということがわかるんですね。これには震えましたね。


そういうのが素晴らしいと思う僕には、このガンスリの担当官と義体には、そういった逆転の契機が奪われている永続的な隷属関係に見えて、なんだか不健全すぎるかいがしてしまうのですよね。というか、偽物に見えてしまう。いつでも、そういった関係性が逆転する契機を抱えながら、「それでも」二人がそうである、、、というのが、真の愛だと思っていて、そうでないものは固定化したナルシシズムによる止まった世界に見えるんですよ。

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こういった止まったしまった世界や関係性は、美しいとは思うけれども、好きではないなぁ。なぜ、彼女たちは支配されること自体に疑問を抱かないのか、もしくは、担当官を愛しているなら、担当官ともどもこんな腐った制度を永続される現実や政府世界に対して、違和感を持たないのか?。僕ならば逃げてほしい。逃げるべきだと思う。もちろん、この制度の創設者である兄弟は、マフィアのテロにあって家族や最愛の妹や恋人を殺された兄弟で、その復讐劇という大きなマクロ構造があって、その「使命」を失わないためには、少女たちを道具と切り捨てなければ成し遂げられないという構造があり、その辺よくできた脚本だと思います。


とはいえ、たしかに、超法規的な世界というのは、ある意味惨劇の死の世界であり、その生と死をつかさどる世界は、容易に聖化されやすく、綺麗だ。この作品に無常観や諦念というテーマを見つけるのはたやすい。


でもその綺麗さを舞台装置のみで使うのは、ただ単に設定だけの作品で終わってしまいかねない。以降に期待する作品ですね(この記事の原型は、05年に書いていて、まだサンドロたちのエピソードを読んでいない段階で来ていました)。ちなみに、酷評しているようだけど、嫌いではないんですよ。 物凄く暗い救いようのない設定なんですが、胸がほっと温かくなる感じがするので。世界が暗ければ暗いほど、小さな灯りが胸を打つものですから。


いろんな人が、「万人向けではない」といいますが、確かにそうですねぇ。


ちなみに相田裕さんは、その背景の書き込みとか世界観の設定が、とっても作り込まれていて、とてもフランスやイタリアなどの南イタリアの匂いを連想させて、その作風からここらの監督と同じテイストを僕は感じる。シャルロット・ゲンズブール監督の『なまいきシャルロット』と同系統の匂いといえば、わかる人はわかるだろう。なんというかグロさが極まった聖なる清浄さみたいな感じで、この感覚は、アニエス・ベイとか、ゲンズブルールとか、ヴィスコンティなどのヨーロッパの映画監督などのテイストとても似ている気がする。またこれらの作家やデザイナーが、一様に、筋金入りのゲイや同性愛者、ロリータコンプレックスの持ち主であったりするところも、らしいなぁと思う。たぶん、「異端」から世界を眺める、「切ない冷酷な美しさ」で、こういった人々が、風景の作り込みやデザインなど、執拗ともいえる「美しいもの」への執着を示すが故に、作り出す作品が、人々を引き付けてやまなしバロック的な装飾を作り出すんだろう。相田裕も、プロになってから、画面の作り込みに強い執着を示しているし、それが、ただ単なる物語ではなく、架空のイタリアという舞台設定に深い装飾を感じさせ、物語の「ために」舞台があるのではなく、舞台自体への強い作り込みを僕は感じます。この傾向は、この手の作家に多いんですよね。

Tue, May 03, 2005の旧館記事のリメイク

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