『二つの祖国』 山崎豊子著 個人主義と家族のドラマツゥルギー

二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)
山崎 豊子

新潮社 1986-11
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いうまでもない、読む前からわかっていた大傑作。あまりに楽しみ過ぎて、読むのをとっておいたのだが・・・最近、もう体調的にも仕事的にも、激動でしんどくて、、、勉強すべきところを、甘えて読んでしまった。まぁ海外出張など移動時間が多いので、そこでなのだが・・・。いま、下巻。はっきりいって、震えるね。物凄い作品だ。山崎豊子さんって、、、素晴らしい小説家だな、と思う。実際には、盗作疑惑などが何度もにぎわすようだが、なんというか、これだけ完成された小説を見せられると、そういったことは、確かに問題とは言え・・・何も言えなくなるよ。だって、素晴らしすぎるのだもの。そこの議論には踏み込みたくないので、言えることを、これを読まなきゃ人生を損していると断言できる小説だ、ということ。とりわけ、この戦争三部作といわれる『不毛地帯』『二つの祖国』『大地の子』は、本当に読まないと、人生の損失だ、と思えるほどの傑作だと思う。

大地の子〈1〉 (文春文庫)大地の子〈1〉 (文春文庫)
山崎 豊子

文藝春秋 1994-01
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不毛地帯 (1) (新潮文庫)不毛地帯 (1) (新潮文庫)
山崎 豊子

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最近は忙しすぎるので、あまり分析には入らないが、最近、みなもと太郎さんの『風雲児たち』をベースにいくつかの作品、たとえば佐藤優さんの『国家の罠』や山本七平さんの『一下級将校の見た帝国陸軍』を読みなおしたり、いろいろ考えているうちに、「時」がきた、、、という気がして、この『二つの祖国』を手に取った。

いや、素晴らしいシンクロだったね。特に、山本七平さんの『一下級将校の見た帝国陸軍』は、青山学院大学在学中に学徒動員で、太平洋戦争末期のフィリピンへ派遣されてそこで敗戦を迎える自伝なのだが、この『二つの祖国』の主人公のアメリカ二世の天羽賢二(日系アメリカ人)は、語学兵として情報将校として、フィリピンのマッカーサー司令部付きになり、彼の弟で日本に戻って早稲田大学にいた忠は、日本軍で満洲から最強の師団としてフィリピン戦線に送られることになるんですが、そのシーンが、異なる角度から知っていることもあって、リアリティをもって感じました。ましてや、最近は、よくフィリピンに出張で行くので、、、。やっぱりこいうのは読書の醍醐味ですよね。あと、やっぱり東京裁判で、一瞬だけ、ソ連から瀬島隆三さんが出てくるんだが、これが、『不毛地帯』を読んでいると、まったく違う視点で同じ時間をどう相手が思っているかわかるだけに、胸が震える。


国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫 さ 62-1)国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫 さ 62-1)
佐藤 優

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一下級将校の見た帝国陸軍 (文春文庫)一下級将校の見た帝国陸軍 (文春文庫)
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ちなみに、上巻で凄く思ったのは、この山崎豊子には、主人公のライバルになる人物が出てくるのが典型的なんですが、ふと思ったのは、これは家族(というか大きく言うとコミュニタリアン共同体主義者)と個人主義の対立を描いているんだな、と思ったんです。この作品の主人公は、天羽賢二なんですが、そのライバルというか親友としてまったく異なる生き方をするチャーリー田宮という男が出てきて、この二人の生き様が鮮やかに対比をなすんですが・・・。


これを見ていて、大学の歴史の授業で輪読したアメリカ独立革命時の『ミニットマンの世界』という歴史書を思い出しました。

ミニットマンの世界―アメリカ独立革命民衆史 (1980年) (北大選書〈6〉)ミニットマンの世界―アメリカ独立革命民衆史 (1980年) (北大選書〈6〉)
宇田 佳正 大山 綱夫

北海道大学図書刊行会 1980-03
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というのは、この本は、アメリカ独立革命の東部のある典型的な街を3世代にわたって克明に分析して追っていくというスタイルをとるのですが、ピューリタン的な非常に家族主義的で、共同体主義的な温かいが、保守的で閉鎖的な町が、戦争と外部の世界へ町が開かれていくことを契機に、個人主義的になってゆき・・・・という結束力の固かった大家族主義の一家が、どんどん資本主義的世界とリンクして個人主義になってゆき、解体されていく様が観察できるんですね。


それは、この天羽の一家、、、、天羽乙七という移民一世(アメリカ市民権がない)から、二世の天羽賢二になり、賢二の子供である3世に至っては生粋のアメリカ人になって、しまっていく。そして、それは、家族の結束や温かさを失って個人主義的に人が変わっていくのだ。


また、ものすごく虐げられた子供時代の生活を送ったチャーリー田宮は、その反動で、どんなものでも利用して自分が出世、栄達すること「だけ」を軸に生きていく、個人主義の権化。そのウザさ、そのあくの強さ、その変わり身の早さは最低だが、同時にパワフルで自由でもある。二つの祖国、、、アメリカと日本の間で、でない答えをもんもんと悩み続ける天羽賢二は誠実だが、あきらかにそれは、生きていくのにとても不自由な生き方だ。


その対比が、、、僕には、鮮やかに見えて、いろいろ思わせることがあった。


それは、人は「どう生きるべきか?」って問いにつながるからだ。僕も、非常に個人主義的な人間だが、、、って、当然アメリカのあり方を徹底して教育を受けた日本の40代以後の世代は、もう屈折もなく、アメリカナイズされていると思うよ。というか、資本主義の行きつく先にある世界共通の消費者であるグローバルシチズンは、そういう個人主義的で、親密圏(=家族のことね)の単位が小さい生き方をするものなのだ。

会社でも、チームにコミットすることを価値と置く人と、個人主義的に自部のスキルや才能を追求していくことに価値を置く人と、かなり差異で、リーダーシップやチームビルディングのスタイルが異なる。これ、どっちがいいかとてもバランスなもので、いつも悩むものなのだ・・・。ふとそういうことを思った。


まぁこの続きはまた。