『武士道』 新渡戸稲造著 武士道的な倫理を取り戻そう!という、社会改良の発想は、そのすべてが意味のないロマンチシズム

武士道 (岩波文庫)

■原典に溢れる高貴な香り〜その引用とシンプルな文章にしびれる

読んでいておもったことは、シンプルでわかりやすいこと、そして、東洋、西洋のさまざまな文学、思想を縦横無尽に引用比較するさまは、見事なまでの教養人だなぁと感心した。よっぽど様々なレベルの教養を深くまで追求していないと、こういう風にはけないよ、と感心した。



■武士道的なるもの、ノブレスオブレージを取り戻せ!という言説は、すべて嘘つき

これを読んで、いままで確かに『武士道』というのは、日本民族のボトムから醸成されてきた民族的特質っていってもいいエートスだとは思っていたんですが、ことはそう単純じゃないんだな、と最近思い始めてきた。


というのは、片山杜秀さんの『近代日本の右翼思想』を読んで、ようやく一般的に言われている、明治と大正の断絶、日露戦争以後の日本社会のあり方の変質が少し理解できてきたんだが、これはすなわち、江戸時代までに培われた「武士道的なるもの」 が、近代文明のライフスタイルの奔流によって大きく歪められたってことなんだよね。


だから、この時を境に、「武士道的なるもの」を単純に日本社会のエートスと考えることは、できなくなっているんだ。もっと直截的にいえば、現代において、武士道的な倫理を取り戻そう!という、社会改良の発想は、そのすべてが意味のないロマンチシズムにすぎないということになる。つまり、「手本」にはなりにくいということだ。なぜならば、大正初期を境に、武士道的なるものをはぐくむための共同体が根本の部分で破壊されているから。


そんなことを思いつつ読んでいました。あっ、これと『葉隠』も読まないといけないなぁ。あと、隆慶一郎さんの『死ぬことと見つけたり』もね。

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