『放課後ウインドオーケストラ』 2巻 宇佐悠一郎著 青春とは、少年にとってモラトリアムの情熱の保存を意味し、大人にとっては情熱への回復を意味するのか??

放課後ウインド・オーケストラ』(以下WO)の話なんだけど、なんとなく言葉にしにくかったこの面白さ――少年漫画的アツさ――のワケは、2巻に入ってようやく言葉にできるような気がする。



 一応、セリフでも語られているテーマらしきテーマは「モラトリアムにおける勝たなくてもいい勝負」というもので、これはヒロイン・藤本さんの中学時代や、新キャラ・梓さんの過去話でパラレルに描かれている。

 ではその「勝たなくてもいい勝負」の場で、モラトリアムの子供は何を目的にすればいいのかというと、それは志を「冷まさずに暖めておく」こと、……つまり、大人の世界へ今の気持ちを「損なわずに持っていく」ことが子供の義務なのだ。

 それは『成恵の世界』という漫画が10巻で到達していたメッセージにも通じている。子供の情熱は、その多くが無意味に散っていくかもしれないが、……そんな情熱でも、その「熱」を失ってしまった大人は心を凍らせ、未来を閉ざしてしまうのだと。



ピアノ・ファイア/いずみのさんより
http://d.hatena.ne.jp/izumino/20090106/p1


2巻が登場。よくできているので感心。この作者、丁寧で、才能あるね。物凄い売れる系ではないかもしれないが、とても丁寧で落ち着いている。

1巻は、まぁイイ、、、ぐらいでこの手の作品は、最初の良い雰囲気で終わってしまいがちなんだけど…と思いつつ、2巻でも継続してなかなか良く展開できていて感心。ストレートな少年漫画に仕上がっている。この手の「青春の部活モノ」系の作品は、手垢がつきすぎて、実は丁寧に描くのが難しい作品だと思うんだ。だって、部活の青春なんて、これまでに飽きるほど描かれているし、何よりも、実際に部活で頑張っている人からすると、わざわざ読まなくても体験しているわけですよね。また僕のような30も過ぎた大人には、正直いってこの世界はヌルすぎる。

いやなんというか、フツーの何もない日常に近い距離の主人公・平音くんを設定していることで(特にキャラ的に激しく主張したり特徴付けているものは何もない平凡さ)、この作品は、いきなり「部活で全国優勝を目指そう!」とか、そういう目的志向には、全然ならない。

目的志向にならないということは、物語が駆動しにくいということでもある。だって目指しているものがないわけだから。この空虚な日常と、目的志向(かといって何を目的とすべきかがあまりはっきりしない)で緊張感がある「はず」の部活とのギャップの中を、ゆるくゆったり泳ぐ主人公の「視点」は僕は、とてもうまいと思う。時代にマッチしているというのもあるが、この視点を持つことで、設定が目的志向の弱い日常側にシフトするので、とても小さなエピソードなどを描くのにテクニックが必要となってしまうのに、それを新人でありながらそつなくこなしていることだ。

上記のいずみのさんの分析にもあるが、はっきり言って、個々のエピソードを抽象化して分析することは、非常に容易だ。物凄くわかりにくく、小さな日常の話であるが、著者が、そういったテーマを深くよく考えて解釈して表現しているからこそ起きる現象だと思う。

キーワードはいずみのさんがまさにあげているセリフで、


「モラトリアムにおける勝たなくてもいい勝負」


「少年期の情熱を損なわずに成長すること」


「情熱さえ保存できれば、結果を残せなくてもいい」


「勝てなくてもいい、でも勝負を投げるわけじゃない」


こういった、テーマを、ぬるくて目的志向がない主人公に、うまく立ち会わせて進めている。それは、うまい!とおもわせる。いまいち毒というか激しい主張がないカラーのない作品なんだが、にもかかわらずこういう風に深みが出せるのは、なかなかのもんだ。

なんというか、安心して見れる拾いもののような作品だ。個人的には、僕は相当大人の視点でこの作品を見てしまい、やはり感情移入することは、出来ない。これは、たぶん、同世代に人が見ると、うまく感情移入できると思う。よくできているが故に、丁寧に見ると、音がな子供時代に失った情熱を再体験できるようにはなっているが、、、それはとてもいいノスタルジイだが、より激しい競争の世界を生きる僕からすると、もう一つ激しいのがほしいなぁ。まぁ好みの問題でしょうが。