『天顕祭』 白井弓子著 

天顕祭 (New COMICS)

非常に完成度の高い漫画だった。墨で書いたような背景の質感もよく、ほとんど説明しないが、世界観が重厚に練られているのもいい。もともと同人誌だったとか、信じられない質だなーと思う。帯に、『精霊の守人シリーズ』を書いた小説家の上橋菜穂子さんが、絶賛とあったので、手に取ってみた。うむ、すばらしい。一冊でこの手の系統の、典型的な物語類型を描ききっている。逆を言えば、典型的ともいえるんだが、たぶん画力が高いというか得意というか、独特の世界観を表現していて、そのあたりが、このフォークロアのような雰囲気をうまく捕まえている。この系統の物語はまだ言葉になっていないので、感触しか書けないなぁ。抽象的すぎますが、とにかく、手にとって損はしないと思いますよ。

・・・しかし、この手の作品は、みな、スサノオなどの古代神話とかを利用して、怪異現象みたいなものと主人公たちのマクロの背景と重ね合わせて、モヤモヤっと話を進めるものが多く、何らかの圧倒的な情感のパワーを感じるんだけれども、???ってずっと思っているんです。いや超能力とか怪異現象とか、目に見えない不可知なものを演出すると、そもそも論理付けが困難なので、分からなくはないんですがね。少女マンガだと、少しSFよりになっている樹なつみさんの『八雲立つ』とかを思い出すなー。系統は違うけれども、それに、秋里和国さん著『青のメソポタミア』とか、少し遠くなる感じだが、『百億の昼と千億の夜』もつながっている感じがするなー。古代と近未来って、回帰する感じがしてしまうんだよね。遠さという意味では同じだからかもしれない。まぁこの流れでいうと、天才、手塚治虫氏の『火の鳥』シリーズという神のような傑作がその最高峰に当たるんだろうなー。

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ちなみに、特に少女マンガのこの系統は、たぶん書きたいのは、その怪異現象のマクロの整合性ではなく、そのような人身御供や生贄などの理不尽な世界への抵抗、、、それよりも愛や恋が勝るような情感の部分が書きたいわけで、そうすると、古き蒙昧なシステムに対する近代の勝利みたいなストーリーに回収されがちなんだよなぁ。そのへんが、っと不満だった。近代の勝利というのは、たとえば『もののけ姫』で宮崎駿が書いたぐらいに、コミュニズムの理想を際立たせた形にでもするような激しさで書くべきで、この手の作品は、「そこまで」の気概はなんだよね。前提は、そもそも不可知なものにあこがれている方向で描かれているから。・・・言葉が少なすぎて、いっている意味が分からないと思いますが、、、自分の思考のメモなんでお許しを。ちなみに、この「モヤモヤ」っとしたものを、最近、かなりの度合いで、上橋菜穂子さんと関裕二さんが、僕の中で解決に向けてのターニングポイントとして、脚光を浴びてきている。この方向性に、この手の物語の、全体像を明らかにする本質の謎が隠されているように感じてきたのだ。たぶんここを追求していけば、この手の世界は広げられるはずだ!。

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さてさて、上橋菜穂子さんは、僕は凄い小説だと思っているんだが、何が凄いかというと、この人の作品を読むと、本職?が文化人類学者だけあって、古代の日本、朝鮮、中国などに連なる北東アジアの習俗や感覚を、ちゃんと理解して噛み砕いて世界観を構築していることなんだよね。これって、文化人類学者だからこそ、という感じがする。この手のモノを整合性と知識を持って描ききるには、相当の知識を前提的に持っていないとできないものだと思う。特に、戦国時代以前まで日本史をさかのぼると、とりわけ、極端に大陸や半島の習俗や歴史との深いつながりを理解していないと、実はぜんぜん歴史がわかったことにならないんだ、と最近荒山徹さんの『十兵衛両断』のおススメ記事(まだ読んでいない!)とか、関裕二さんの著作を読んでいて、それを深く痛感する気持ちになってきた。そもそも、大陸と半島の習俗を深く理期していないと、実は日本文化ってのは、ハイブリッドなものなんで、本質的なものには全然手が届かないんだよね。ましてや、ヤマト建国は3世紀頃なわけで、日本の文化は、基本的に、朝鮮半島と中国大陸の文化の土台の上に形成されているわけだから。実は、この辺の「つながり」を意識し始めると、もうとんでもなく物語が面白い!って言うことが分かってきた(笑)。『風雲児たち』体験以降、で江戸、幕末、近代前期(戦前)・中期・後期(現代)が繋がってきたのだが、同時に、戦国時代と古代のつながりが、井沢元彦さんのケガレの概念や山本七平さん、そしてこれで、かなり連関を見出せそう。・・・楽しいな♪

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