『女郎蜘蛛』 栗本薫著 その人間理解が素晴らしい

女郎蜘蛛―伊集院大介と幻の友禅 (講談社文庫)


評価:★★★☆3つ半
(僕的主観:★★★★4つ)

海燕さんに薦められていた、積んどく本リストが読み終わる。これも手にとると止められなかった。上海出張中の紹興酒をしこたま飲んだ後、眠いんだけど、読むのが止められなくて、ホテルで読破してしまった。うん、昨今の伊集院大介シリーズでは、かなりの出来だ。最盛期の栗本薫の流麗な文体や感覚を彷彿させる出来で、とてもとても引き込まれて面白かった。まぁ相変わらず冗長だけれどもね(苦笑)。だが僕のようなファンには、そこがいい!ともいえるので、何とも言い難し。


ちなみに、何が良かったのか?といえば、やはり著者の「人間理解の姿勢」なんだと思う。


基本的に彼女の推理小説は、本当にの意味での謎解きのパズルが好きな人には、お薦めできない。なんというか、京極夏彦も似ていると思うんだが、「そこ」に面白さがある人ではないんだよね。栗本薫は、その独特で、深く、奥深い人間の本質を見通す、視点にあるんだと思う。海燕さんも書いているとおり。僕はそれに共感する。古き日本、大正のころの日本につながる独特の深い人間関係を世界を描写する力や、その中で妖しく生きる人々の絡まった関係を読み説いていく筆致は、やはりとても美しい・・・。


とはいえ、出来としては、さすがの最高傑作『絃の聖域』と比較すれば、平凡な作品だとは思うが・・・やはりこの人間理解の視点だけで、僕にはぐっと来るんだよなぁ。僕も「世界をこのようにみたい」と思って生きている人だから。けど、これほどの脚本・・・ほんとうは、もっと寝かせて時間をかけて、構成を複雑にすれば、『絃の聖域』レベルまで持っていくことは造作もなかったろうに・・・やはり、手癖で書いている印象はぬぐえないなぁ。うーむ、、、大ファンだけに、惜しい、惜しいと思う。でもまー一冊に時間をかけて出る量が減るべきと主張するのも、本意ではないんだがね・・・。


でも、やはり好きです。名探偵伊集院大介シリーズ。

絃の聖域〈上〉 (角川文庫)
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