『魔岩伝説』 荒山徹著 王道の極上のエンターテイメント

魔岩伝説 (祥伝社文庫)


評価:★★★★5つ
(僕的主観:★★★★★星5つ)


まだ半分しか読んでいない。今日の大阪出張の飛行機の行き帰りで、疲れていたから半分寝てしまったが、読んだ。まだ読み終わっていないが、この始まりの王道の引き込まれ感と、この壮大な設定だけで、もう是ぅたい面白いとしか言いようがない。これだよ、こういうのが読みたかったんだ。とにかく印象としては、王道のエンターテイメントで、非常にわかりやすい。が、、、、その背景にしている舞台が、たまらんものがある。

莫大な財政負担にもかかわらず歴代の徳川将軍家は、なぜか朝鮮通信使外交を存続させている。この背景には、李氏朝鮮王家と徳川幕府将軍家の存亡にかかわる一大秘事「魔岩に仕掛けた家康三百年の深謀」が隠されていたのだ!!!。朝鮮通信使の史実をかなりちゃんと踏まえたうえで、よくぞここまで奇想天外な発想が思いつけると感心します。


ある夜、江戸の対馬藩邸に、「鈴木伝蔵」という既に死亡している対馬藩士を名乗る訪問者がが現れることから物語は始まる。

その訪問者は、「ハクセキトウに会いたい!」と叫び、それを知った対馬藩家老は、その者をとらえ殺そうと躍起になります。

その出来事を境に、朝鮮通信使外交に隠された神君家康公と朝鮮李朝との密約をめぐり、その秘密を代々守り抜く使命を帯びた柳生家、林家と、そしてそのあり方に異をとなえた新井白石の意志を継ぐ遠山家の暗闘が始まります。


そして、まだうら若き剣士である遠山景元(後の遠山の金さん)は、幕府の外交を司る父の景普の壮絶な過去を聞き、この秘密を暴きに国禁を犯し、朝鮮に渡るので会った!!!

どうです、すげー狂っているでしょう(笑)。


しかしね、まだ半分しか読んでい無いのに、ダントツに★5つくくらい僕は面白いです。


物凄い真面目な?というか濃い伝奇小説なんだが、内容は、ほとんどライトノベルに僕は思えるぞ(笑)。このサクサク読める感覚。こんなにっ深すぎるほど深いのに。やべぇーおもしれえよ。



追記閑話休題〜ノブレスオブレージと身分制度


これを読んでいて、ランドリオールの13−14巻を思い出した。LDさんが解説してくれた『風雲児たち』についても。共通点は何か?というと、ノブレスオブレージと身分制度(差別の構造)についてだ。現代の大衆社会では、ノブレスオブレージ(=優者の義務)が欠けているのでそれが称揚されるパラダイムの社会だ。僕も、自分もそうありたいし、そういったノブレスオブレージをとてもかっこいいものとしてずっと思ってきた。

けれども、ノブレスオブレージや公人の義務というものは、言い換えれば選良(エリート)の義務とは、特権というものの裏返しになっていること、それが固定化されたものが身分制度(=差別の構造)であるということまで視点が及んでいなかったと思うのだ。ある時、LDさんと話している時に、エリートの義務は、身分制度の概念と結びついているので、本当は単純に称揚できないということを何度も言われた。実は、僕はこの言葉の意味は分かっても、腑に落ちるところまで概念が頭に浸透していなかったんだよね。

つまりね、指導者、エリート、リーダー、選良どんな言い方でもいいのだけれども、組織の、言い換えればマクロのコントロールを担う役割を持つ人間は、その圧倒的な遂行する役割の困難さと、そして、マクロの集合をコントロールする(=多人数の人生を預かりコントロールしデザインする)という存在のあり方そのものから、常に「特権」がついて回るんだよね。理由は簡単で、そうでなければ、そもそも彼(彼女)の義務・役割は遂行できないものなんだ。

だから僕が素晴らしいと感じるノブレスオブレージというのは、不可避的に、物事の裏表として「身分制度の固定化」というものを一体に考えなければ、思考としては片手落ちになってしまうんだ、ということが分かってきた。ちょっと概念的には飛躍しすぎているが、いってみれば、差別の肯定と裏表だと言っても過言ではない。


さて、いったんここでその話は置いておこう。


この荒山徹さんの話を読んでいると、朝鮮半島へのほとんどマゾヒスティツクともいえる愛憎を感じて、いやー感心するんだけれども(これはまさに家畜人ヤプーの構造だ!)、そこの確認というか、この東アジアを考える上での中華の影響力の根本の一つが、儒教朱子学をベースとした中央集権型の身分制度なんだよね。中国文明の理想とするシステムだ。


かつて福沢諭吉先生は云った。


門閥制度は親の敵だ」


と。この言葉の意味は、僕が考えるよりも深かったのかもっ知れない。


東アジアの停滞を招いたのは、まさにこの思想とシステムなんだってのは、ほぼ間違いないと思う。中国が国としてダイナミックに成長したのは、そもそも国が広すぎてこのシステムがまともに機能しなかったことと、ダイナスティコンクエストによって大きな政権交代が相次いだこと、そして日本なんかは、遠すぎて(笑)ほとんどこれを無視して自己流の作り変えてしまったこと(苦笑)なんだが、これを直接まじかで影響を受けた国で、真面目に取り組んでしかも国土がそれほど大きくなく中国に隣接している国は・・・悲惨なことに、これを真に受けて本気で構築してしまったんだよね。基本的に、これの良さというものもある(のか?)いまの時点では僕は何とも全体像で評価できないんだけれども、悪さはとてもはっきりしていて、国が停滞してしまうんだよね。つまりは、イノベーションや「制度や世界が変わっていく」ことを容認していないんだ、この思想は。・・・あー僕、朝鮮のいい物語が読みたいなーと思う。この朱子学による身分制度の貫徹が極まった李朝の500年の統治とか、、、考えただけで寒気がするもの。全くいい印象で見ることができない。


まぁ個別論は置いておいて、やっぱり東アジアを見るうえでは、もっとも重要なのは中華文明を中心に置いたその影響度で考えるバランスオブパワーであって、その中心軸の一つとして儒教朱子学をベースとした官僚国家の構築なんだろう。このシステムの影響度合いを見ていくと、非常によくこの近辺のマクロダイナミズムが評価できる。と思う。



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